地震に襲われた建物の“倒壊危険度”を判定するシステム
最大震度7を観測し、災害関連死を含め44人が死亡した北海道胆振東部地震は6日、発生から1年を迎えた。
地震の被害を目の当たりにすると、気になるのが、「大きな地震に襲われたら、今、自分がいる建物は安全なのか」、また「余震には耐えられるのか」ということだろう。
こうした中、東京大学地震研究所の楠浩一教授のグループが、「建物が地震に襲われた後、大きな余震に耐えられるかどうかを自動で判定するシステム」の開発を進めている。
このシステムでは、建物に取り付けたセンサーで揺れの加速度を計測し、かかった力や変形の大きさを計算で求め、安全性を判定するという。
建物に「加速度計」と「判定装置」を設置して判定
一体、どのような仕組みで判定するのか?
まず、建物に「加速度計」と「判定装置」を設置しておく。
加速度計は、地震が起きると揺れの加速度を計測。
この計測したデータを、ネット回線を通じて「判定装置」に送ると、判定装置が“建物にかかった力”や“変形の程度”を計算ではじき出し、次に同じ強さの余震が来た場合、倒壊する恐れがあるかどうかを「被害なし」「軽微」「小破」「中破」「大破」「倒壊」の6段階で判定。
判定結果は、すぐにメールやWebサイトで確認できるという。
画期的なシステムだが、実用化はいつ頃になるのか? また、設置費用はいくらぐらいになるのか?
東京大学地震研究所の楠浩一教授に話を聞いた。
危険度は“安全限界点”を基準に判定
――地震後の建物が“安全”か“危険”かは、どのように判定する?
2000年に改正された建築基準法では、限界耐力計算といって、建物がどれだけの地震力に耐えられるかを計算して、設計する方法があります。
この方法で算出した建物が倒壊しない限界を表す、“安全限界点”を基準に判定します。
――このシステムの開発を始めたのはいつ?
2004年ごろ、当時の建設省建築研究所の研究員だった時に、建築研究所の研究グループで開始しました。
――開発を始めたきっかけは?
余震に対する建物の安全性を判断する方法として、「応急危険度判定」という公的な手法があります。
本格的に用いられたのは、1995年、阪神・淡路大震災の際ですが、思った以上に日数がかかり、しかも「要注意」という玉虫色の判定も多く、結果的に避難者を減らせなかったという現実を直視してのことです。
学術的にも、建物の地震時の振動を直接、計測することは新しい試みであり、我が国の耐震規定を改善する糸口になり得ます。
ちょうどそのころ、本手法のベースとなっております「限界耐力計算法」という新しい構造計算法の法整備が終了したころで、「この方法はセンサーを用いれば、実建物でも使えるのではないか」という話になったのも一因です。
およそ数分で判定、「要注意」という玉虫色の判定もなし
――「応急危険度判定」と比較して、どういった点が優れている?
以下の点で優れています。
・およそ数分で判定結果が出ること、「要注意」という玉虫色の判定はしないこと
・本震がもう一度来た時の被害も推定できること
・地震の最中の記録もとれているので、後から技術者が現地に来ても有意義なデータを見せることができること
・市区町村で被害データを集約することにより、即座に実際の被害状況を把握できるため、災害対応力を上げられること
――この装置は新築の建物だけでなく、すでにある建物にも設置できる?
できます。
今、設置を進めているもののほとんどは既存の建物です。
現時点では、設置費用は木造住宅で100万円程度
――設置を希望する場合の費用は?
かかる費用は、センサー代+PC代+ケーブル配線代+判定ソフト代+αです。
現時点では、木造住宅で100万円程度しますが、これは、センサーが1つ20万円もするためです。
つい最近では、1万5000円程度のものを開発し、試験設置を進める予定です。
こうなると、木造住宅で総額20万円前後になると思われます。PC代は6万円程度で、判定ソフト代は開発した会社次第です。
超高層の建物でも、センサーは4~5台程度で済みます。
――現時点で設置を依頼することもできる?
できます。
「被害がなかったことが即座にわかって安心する」
――実用化に向けて、実際に建物に設置して研究を進めている?
進めています。
国内で40棟前後(2階建て木造から超高層免震集合住宅まで)、海外もニュージーランド、ペルー、トルコなどに設置しています。
――実際に設置した人の感想は?
「事業継続性の判断に資することができる」、「被害がなかったことが即座にわかって安心する」などです。
――実用化はいつ頃になりそう?
今でもできますが、いろいろな改良を行っているところです。
――実用化するにあたっての課題は?
センサーなどの費用を下げること、ビッグデータ化しますので、そういったデータのハンドリング、システムの保守点検の事業化、被害判定の公的な証明システムの構築などです。
将来は、建物の「無被害証明」などに用いることにより、不動産の価値判断にも資することができればと思っています。
東京大学地震研究所の楠浩一教授のグループが開発を進めている、「建物が地震に襲われた後、大きな余震に耐えられるかどうかを自動で判定するシステム」。
玉虫色の判定がないのは迷わなくていい。費用面の問題をもう少し抑えることができれば様々な活用法がありそうなので、一刻も早い実用化を願いたい。