世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は8月23日、フランスのマクロン大統領のツイート。



モーリー:

いまだについ「マカロン」と言ってしまうマクロン大統領、このコーナーでは初登場です。ツイートの内容を見ていきましょう。

Our house is burning. Literally. The Amazon rain forest - the lungs which produces 20% of our planet’s oxygen - is on fire. It is an international crisis. Members of the G7 Summit, let's discuss this emergency first order in two days!

文字通り、私たちの家が燃えています。言葉通りの意味です。アマゾンの熱帯雨林、地球上の酸素の20%を生成する“肺“が燃えています。これは国際的な危機です。G7サミットに参加する皆さん、この緊急事態について最初の2日間でまず話し合いましょう!


「literally」は「文字通り」という意味の副詞。アマゾンの熱帯雨林を「the lungs=肺」にたとえて危機を訴え、G7の首脳に話し合いを呼びかけました。
マクロン大統領のこの行動は普通、何の問題もなく受け入れられるものでしょう。ところが、これがなんと口喧嘩に発展してしまったのです。

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「植民地主義的思考」とG7の消火対策支援を拒否

世界的に報じられているアマゾン火災について、フランスのマクロン大統領は、国際的な危機だとツイッターで発信したわけですが、これに対し、当事国であるブラジルのボルソナロ大統領は次のように反論しました。

ジャイール・ボルソナロ大統領:
マクロン大統領は、アマゾン火災を政治的利益のために利用している。ブラジルが参加しないG7で森林火災問題を取り上げるのは、見当違いの植民地主義的思考だ。

ジンバブエのムガベ元大統領など、アフリカの独裁者は、ことあるごとに「植民地主義的思考」というワードを切り札に強弁します。自国の問題はさておき、外部から何か言われると「植民地主義」や「内政干渉」だと反論するのです。

「ブラジルのトランプ」とも呼ばれるボルソナロ大統領は非常に面子を重んじる人で、8月26日、ブラジル政府はG7が合意した約23億3000万円の消火対策支援を断る意向を示しました。

また、ボルソナロ大統領はマクロン大統領との対立の中で、「世界遺産の教会で予想できた火事さえ防ぐことができないのに、我が国に消化の仕方を教えたいだって?」と皮肉的な発言もしています。
さらに、ロレンゾニ大統領補佐官も「その資金は欧州の森林復活に使ったほうがよいのではないか」と支援を突っぱね、消火活動に消極的な姿勢を示して先進国から非難されました。

アマゾンの大火災は他の周辺の国にも影響があるため、南米諸国は早急に火を消し止めることを望んでいますが、ボルソナロ大統領は「内政干渉である」とナショナリズムを盾にして、支援を拒否することができてしまう…

ところがその後、ボルソナロ大統領は一転して「イギリスからであればもらってもいい」と手のひらを返しました。本音は金融支援を受けたいと思っていたのでしょう。

森林火災の原因は野焼き?背景に貧困問題

今回の火災の背景には、ブラジルが平均的に見て貧しい国であるという問題もあります。

ブラジルは世界有数の食料輸出国ですが、最も貧困に苦しんでいる農家たちは、生きていくのに精一杯。家畜を育てるのに草を育てる必要があるため、木を伐採してしまいます。手っ取り早いのは、乾燥した季節に火をつける方法です。

ボルソナロ政権は、放牧地を獲得するために、農家などに森林に火をつけることを推奨しました。ところが、無計画に火を放ってしまうので火の手が広がり、誰も止められない森林火災になってしまう。

これがアマゾンの森林火災の原因の1つであると言われています。つまり、ブラジル国内の貧困も加担しているというわけなのです。

森林伐採にはいくつか問題点があります。「地球の肺」がつぶれてしまい、温暖化が止まらないこと。そして、森林の地価に資源が眠っていることです。

しかし、銅、鉄、金などの資源がある土地には先住民が住んでいます。
ボルソナロ大統領は、「我が国の左派政権はこれまで先住民に対して甘かった。部族の歴史や文化がどうだ、生存権がどうだと甘っちょろいことを言っているから、経済が発展しないんだ。彼らは公営住宅に入れて、駐車場から作ってしまえ」と掛け声を上げるような人なのです。

その乱暴さがブラジルの経済発展を望むロビー団体や既得権益の団体に支持される形で、ボルソナロ大統領のポピュリズムは成り立っています。しかし、その姿勢が、自国で起きた火災をなかなか止められない状況を作ることにもなりました。

(8月29日、ブラジル政府は火災の原因とされる「野焼き」を原則60日間禁止とする措置を取った。9月6日にはコロンビアで緊急の国際会議が開かれることになり、ボルソナロ大統領も参加を表明した。)

薬物蔓延も…複雑な問題を抱えるブラジル

さらに、ボルソナロ大統領にはこんな側面もあります。

大統領になる以前の2012年頃、個人的に違法操業の漁船に乗っていたところを捕えられました。拘束時にはもみ合って自分の名前を言わなかったそうですが、写真を撮られてボルソナロ氏だと特定されています。

環境当局に取り締まられて罰金を科されたボルソナロ氏ですが、支払わないまま大統領選挙に出馬。大統領となってから、罰金は免除されました。また、当時、自身を取り締まった係官を降格させています。

このように、“ブラジルのトランプ”は先住民を圧迫し、「環境予算など出さなくてもいい」と発言するなど、自らの器の小ささから環境問題に対しても感情的な対応を取っています。

また、ブラジルにはコカインの問題もあります。

地理的にコカインを生産している国に接しているということもあって、薬物を扱う組織の力がマネーロンダリングから国の内部まで及んでしまい、コカインの密輸産業にも関わっています。
世界で最もコカインの摂取人口が多い国はアメリカですが、次に多いのはブラジル。タバコを買いに行く値段でコカイン1gが購入できてしまうのです。

貧困、立場の弱い先住民、麻薬…ブラジルはこれらの問題を抱える中でポピュリストである右派のボルソナロ大統領が誕生し、火災によってアマゾンが人質にとられ、世界が困惑する事態となっているのです。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 8/28 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。