長期停電に対応できる8つのアイテムを無料で整備

私たちの生活に欠かすことの出来ない電気。

9日に関東を襲った台風15号の影響で千葉県ではいまだに大規模停電が続き、厳しい暑さの中、エアコンも明かりも使えず、市民生活に深刻な影響を与えている。

そのような中、一般財団法人大吉財団(兵庫県神戸市)が今後の災害に備え、一定の条件を満たした公民館などの地域防災施設にスマホ充電BOXやポータブルバッテリー、LEDランタンなど8つの防災アイテムを無料で提供する「でんきの避難所」の受付を開始した。

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利用可能エリアは、まずは大阪府全域、兵庫県、岡山県の一部

数時間程度の停電であれば少し我慢すれば乗り切ることができるが、地震や台風による災害の場合は電柱が倒れたりするため、停電が長期化することがある。

停電が1日を越えたあたりから深刻になるのが、スマートフォンのような情報通信機器の電池切れだろう。今やスマートフォンは電話機能だけでなく、ニュース情報の取得や安否確認、ラジオ、地図、ライトなど災害時に複数の役割を担っている。そのため電池切れになると一気にさまざまな不便が発生し、「充電難民」となってしまうのだ。

「でんきの避難所」は災害時に見落とされがちな長期停電による被害に備え、防災施設を整備して、地域住民の情報孤立を防ぐことが目的。
提供される防災アイテムは「太陽光発電設備」「カセットガス発電機」「ポータブルバッテリー」「スマホ充電BOX」「LEDランタン」「工具セット」「電源コード」「携帯トイレ(100回分)」の8つ。
まずは大阪府全域、兵庫県、岡山県の一部が利用可能エリアで、9月6日~12月20日まで対象施設の募集を受け付けている。

提供には条件があり、
(1)公民館・集会所・倉庫など地域防災に関わる施設であること
(2)建物がおおむね築25年以内であること
(3)日陰ができない屋根があること
(4)すでに発電、蓄電設備を設置、所有されていないこと
(5)10年間の屋根貸の契約ができること
(6)施設利用者(住民・自治体等)の同意を得ること

が条件となっている。(上記の条件の他、諸条件により利用をお断りされる場合も)

たしかに、今や生活に欠かせない存在となった電気。しかし、今なぜ「でんきの避難所」を始めようと思ったのか。ビジョンを一般財団法人大吉財団に聞いた。

避難所に誰もが気軽に電気を使える環境を整備

ーーでんきの避難所はどのような仕組み?

サービス利用者が、公民館や集会所など地域の避難所として利用できる建物の屋根を電気事業者に貸し、電気事業者はその屋根を使って太陽光発電事業を行います。

サービス利用者は屋根を貸す対価として太陽光発電設備で作られた電気を無料で使うことができ、さらに大吉財団から7つの防災アイテムを無料で提供してもらうことができます。

太陽光発電設備は10年間、電気事業者が所有しますが、10年後はサービス利用者に譲渡され、それ以降はサービス利用者が売電をすることが可能となります。

ーーいつから利用することが出来る?

申込後最短で1ヵ月で利用できるスキームではありますが、実際のところは経産省へ申請し、認可が下りなければサービスを利用することができません。現在の経産省の様子だと、認可が下りるまでに半年ほどかかると見ています。このため、今申し込みをいただいた場合、サービスを利用できるのは半年後になると思われます。

ーーなぜでんきの避難所を始めようと思った?

大吉財団の事業として何度も被災地支援を行っていく中で、災害が発生すると住居の損壊や浸水などの情報が取り上げられる一方、長期間の停電により不便な生活を強いられる被災者が数多くいることを知りました。「在宅避難者」とよばれるこれらの方は「避難所に行くほどでもないから」という理由で自宅に留まり、場合によっては避難所より厳しい環境で生活されていました。

電気は水や食料とは異なり、それがなくなったからといって即、命に係わるものではありません。しかし電気が使えないことで確実に生活の質は落ち、災害時に最も必要となる情報を得る手段がなくなってしまいます。

とはいえ、災害に備えてすべての家庭で太陽光発電設備や発電機を備えることは現実的に難しい。それなら避難所が充電ステーションになればよいのではないかと考えました。避難所に太陽光発電設備やガス発電機を置き、誰もが気軽に電気を使いに来れる環境を作れば、在宅避難者の生活の質の向上と、情報的孤立を防ぐことができるのではないかと考えました。

ーーでんきの避難所は避難施設が対象?

公民館や集会所といった緊急避難場所に指定されている建物が対象です。必ずしも避難所指定されている必要はありませんが、災害時に人が避難することを想定されている建物である必要があります。また、ある程度の発電量が見込めないと太陽光発電設備を設置することができないため、電気事業者による現地調査を経て、対象となる建物かどうかを審査させていただきます。

全国への拡大はニーズがあれば検討

ーー費用は全くかからない?

太陽光発電設備の設置工事費、設備のメンテナンス費は太陽光発電事業者が支払うため不要です。太陽光発電設備を含む8つの防災アイテムについても、費用はかかりません。ただし、10年後は太陽光発電設備を譲渡するため、それ以降のメンテナンス費用はサービス利用者が支払うこととなります。

ーー防災アイテムは8つあるが、この8つのアイテムがあれば、長期の停電時を乗り切ることが出来る?

生活の質は人によって感じ方が変わるものですので一概にいうことはできませんが、避難所ではテレビや照明、扇風機といった比較的電気使用量の少ない電子機器が利用でき、誰でもスマートフォンの充電ができるようになります。

しかし、電気が使えるのは太陽光発電設備が発電する晴れた昼間か、カセットガス発電機を使っているときだけですので、2~3日を過ぎると不便を感じるかもしれません。過去の停電の事例を鑑みると、東日本大震災や北海道胆振東部地震は例外として、1日~3日で電気が回復するケースがほとんどであるため、ニーズは満たせるのではないかと考えています。

また、でんきの避難所は「避難所に行くほどではないが電気が使えないことで困っている」という方を減らすための事業ですので、地域住民の電気ニーズをすべて解消するものではありません。


ーーでんきの避難所利用可能エリアは大阪と兵庫、岡山の一部であるが、エリアの拡大の予定は?

他エリアから多数のニーズがあれば検討していきたいと考えています。

ーーでんきの避難所でどのようなことを達成したい?

全国どこでも災害が起こる恐れがある日本だからこそ、全国各地にある避難所を、もっと行きやすい避難所にしたいと考えています。そうすることで避難所の避難者と、在宅避難者が受けられる支援サービスの差を埋めることができたり、避難所に来ないため集めづらい在宅避難者の支援ニーズをより早く、効率的に集められるようになると考えています。


いつ私たちを襲うか分からない災害。そして現代社会において、災害により想定されるのは長期停電と情報孤立だろう。これらに備えるために、近くの避難所、防災施設に充実したアイテムがあれば、長期の停電を乗り切ることができるのはないだろうか。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。