内閣改造・役員人事で見えた安倍首相の“後継”候補

9月11日の記者会見
9月11日の記者会見
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「令和の時代が幕を開けて初めてとなる今回の改造は、新しい時代の国作りを力強く進めていく。そのための布陣を整えました」

内閣改造を行った夜の記者会見で、安倍首相はこのように述べ、令和初の内閣改造を機に、新しい時代、新しい国作りを進めていくことを強調した。「安定」と「挑戦」。安倍首相は今回の人事について、一貫としてこのような方向性を示していた。

結果的に、小泉進次郎氏が環境大臣として初入閣を果たしたことが「挑戦」として注目され、麻生副総理・菅官房長官・二階幹事長の3人の留任が「安定」の象徴とされたが、実は安倍首相が仕込んだ「安定」と「挑戦」の人事はこれだけではない。

過去の記事(https://www.fnn.jp/posts/00310731HDK)でもご紹介した、安倍首相の出身派閥である細田派を中心とした次世代の後継候補たちが、肝となる各ポストに配置されているのだ。

まず閣僚から見ていきたい。安倍首相は会見で、大臣に任命した人物たちの狙いと目的を1人ずつ説明している。その中でも「いつでも誰でもその個性を生かせる社会。その目標に向かって教育・労働・社会保障3つの改革に安倍内閣は挑戦していく」と強調し、この3つの改革に挑戦する3人の大臣を紹介した。

物言える安倍首相最側近・萩生田氏は教育改革を担当

萩生田光一文部科学相(9月13日)
萩生田光一文部科学相(9月13日)

1人目が、「教育改革」を司る文部科学大臣に起用された、首相の最側近である萩生田光一氏だ。

萩生田氏は大臣になる直前は自民党の幹事長代行を務めていた。その仕事は自民党内外の調整とともに、豪腕を振るう二階幹事長に対しての、いわば“お目付役”として、首相官邸と自民党の間を繋げる役割も担っていた。自民党から離れて首相官邸で政権を運営する安倍首相にとって、党内の情勢には疎くなりがちなだけに、重要な仕事の1つだ。

萩生田氏はサラリーマン家庭から地方議員という道をたどった叩き上げ政治家で、人脈が多岐にわたる一方、歯に衣着せぬ発言で物議を醸すなど、武闘派としても知られる。一方で、保守派の論客でありながら、安倍首相を支援しつつ保守色の強い政策の実行を求めている“保守系団体”とは一線を画している。その団体の1つ「日本会議」と連携する超党派の議員連盟には2012年以降、出席を控えているほか、市議時代には共産党などとともに「乳幼児医療費無料化条例」を提案。キャリアとノンキャリアに分けられている、国家公務員の育成システムの一元化も訴えるなど、政策についてはフラットに判断している点が強みだ。

2月の衆議院予算委員会
2月の衆議院予算委員会

今年2月には、衆議院の予算委員会で政府が進めている「幼児教育の無償化」について、画一化された基準により補助金の対象外になった施設などが生まれていることを指摘。安倍首相に対して、「自治体が存続させるべきだと判断したところには例外を作るべきだ。地元の要望をくみ上げて総理の決断で判断すべきだ」と迫り、首相から「検討させて頂きたい」との答弁を引き出した。これを受けて共産党の宮本徹議員が「自民党の萩生田さんが予算委員会で、幼児教育無償化の対象外とされている幼児教育施設についても対象とすべきと質問、私も、「そのとおり。差別をするな」と応援」とツイッターで称賛するという異例の展開をたどり、政界でも話題となった。

共産党の宮本徹氏のtwitter
共産党の宮本徹氏のtwitter

自民党内でも「萩生田氏は安倍首相にも遠慮なく進言する」との声が挙がるように、安倍首相の最側近でありつつも、是々非々で意見をいう姿勢が際立つ。大臣就任後の会見で萩生田氏は、「これから国家百年の計、しっかりと打ち立てていきたいと思っています。特に様々な価値観が変わってきた子供たちを巡る環境にしっかりと対応できる多様性のある教育、一本道ではなくて、複数の道を作っていきたい」と語った。2020年には小学校から高等学校までの「学習指導要領の改訂」とともに、「大学入試改革」が控えるだけに、今後どう結果を出していくかが問われそうだ。

“働き方改革”にはポスト安倍の側近

加藤勝信厚労相(9月13日)
加藤勝信厚労相(9月13日)

第2の“挑戦”である働き方改革を担う厚生労働大臣には、2度目の登板となる加藤勝信前総務会長が就任した。加藤氏は、ポスト安倍候補を指す「岸破義信」の1人として、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、菅義偉官房長官に並んで名前が挙がる人物だ。

東大から旧大蔵省に入省し、いわゆるエリート街道を歩んできた。そして、安倍首相の父・晋太郎氏の元側近であり当時農水相だった加藤六月議員に見いだされ娘婿として政界入りした。

しかし当初は自民党から出馬できず2度の落選など挫折も経験し、自民党入り後は現在の竹下派に所属することになった。それでも2012年の総裁選挙では、派閥の意向とは別に、個人的関係の深かった安倍首相を支持し、安倍内閣では官房副長官、拉致担当相、厚労相を歴任・直近では自民党四役である総務会長も経験した。

政策通であるとともに、答弁の安定感や敵を作らない人柄が評価されているが、一方で発信力不足との指摘もある。同じ竹下派には、将来の首相候補と目される茂木外相もいるだけに、自らの存在感をどうやって高めていくのかが今後重要な点だ。

働き方改革では「労働生産性の向上」「長時間労働の是正」などが大きな課題となっている。厚労省は裁量労働制をめぐる調査データの不適切使用問題や、「毎月勤労統計調査」の不正問題など、不祥事が続出しているだけに、そこの立て直しとともに「働き方改革」の挑戦を実現できるのか。手腕が問われることになるだろう。

“社会保障改革”には「憎めない」忠臣を

西村経済再生相の初登庁
西村経済再生相の初登庁

そして、第3の“挑戦”「社会保障改革」を担うのは内閣府特命大臣の西村康稔経済再生相だ。

安倍首相は会見で「少子高齢化と同時に、ライフスタイルが多様となる中で誰もが安心できる社会保障制度へ改革を進めていく」と強調し、新たに全世代型社会保障検討会議を設置することを発表した。その担当大臣として、2年間官房副長官を務めた西村康稔氏を指名した。

経済産業省出身で、政策にも精通している西村氏は実直に安倍総理の忠臣として仕事を果たしてきた。一方で、2018年の自民党総裁選挙直前には、西日本で豪雨となる中で、安倍首相とともに自民党議員の懇親会に出席した集合写真を自身のツイッターに投稿したことで謝罪に追い込まれるなど、リスク管理などの甘さも指摘されている。

ただ、閣僚経験者からは「足りない点は多いが、憎めない性格だ」と人柄を評価する声もある。今後、幅広い世代が納得できるような制度設計に向けて、どう調整を進めることができるのかが鍵となりそうだ。

この3人が今回の組閣で最も期待され、攻めの視点で「挑戦」を実行に移す“安倍三羽烏”として抜擢されたといえるだろう。3人が結果を出すのを競い合わせることで、安倍流の人づくりを実践しようという形だ。一方で次は「安定」を目指す自民党内のポストに注目したいと思う。

バランス重視の自民党人事の中で“注目の細田派3人衆”

大胆な抜擢が行われた閣僚人事の一方で、自民党役員人事は各派閥のバランスがとられた。幹事長は二階派の領袖である二階俊博氏が留任。政調会長もポスト安倍に名を連ねる岸田文雄氏が留任。また、総務会長には麻生派の重鎮で、父の善幸元首相と親子二代にわたっての就任となる鈴木俊一氏を起用した。国対委員長には石原派の森山氏が留任した。それぞれの派閥に中核となるポストを分配した形だ。その中で安倍首相の出身派閥・細田派から3人が党内を安定させるための重要なポストについたことが注目される。

細田派はおよそ100人の議員が所属する大派閥だが、去年の総裁選後の人事では他派閥に譲る形で、党の主要役員ポストからは外れていた。他派閥に配慮した形だが、派内の中堅・若手からは「細田派から党役員を出すべきだ」と怒りの声も挙がっていた。その中で今回、安倍首相の信頼が厚い下村博文氏が党四役の1つ、選対委員長に就任した。

都知事選で小池知事を支持できる?選対委員長を務める下村氏

下村博文選対委員長(9月11日)
下村博文選対委員長(9月11日)

下村氏は細田派の事務総長として、他派閥との連携を強化して、去年の総裁選挙で安倍首相の三選実現に動いた。また、直近では憲法改正推進本部長として、安倍首相の悲願である憲法改正の実現に向けて、全国行脚や広報活動にも努めた。

一方で、憲法改正論議に慎重姿勢の野党を「議論さえしないのは国会議員としての職場放棄だ」などと批判し、議論をより停滞に追い込んでしまった局面もあった。選対委員長としては、衆議院の任期がまもなく残り半分となり、解散総選挙のタイミングを探るという中で、10月27日に投開票を迎える参議院埼玉選挙区補欠選挙の対応が最初の山場だろう。

そして、選対委員長は党の要の幹事長との連携も重要だが、その点では来年に控える東京都知事選挙の対応も注目される。小池都知事の再選を後押しする二階幹事長に対して、小池知事と都民ファーストの会への積年の恨みがある自民党東京都連内では、「死んでも小池だけは応援できない」との怒りの声もあがっているのだ。都連幹部でもある下村氏にとっては、難しい舵取りが迫られる。様々なバランスを取りつつ選挙で結果を出せるのか。まさに安定を維持できるかどうかの核となるポジションとも言える。

稲田元防衛相は幹事長代行の重責に

稲田朋美幹事長代行(自民党本部・9月11日)
稲田朋美幹事長代行(自民党本部・9月11日)

2人目の注目人事は、萩生田氏が担当していた幹事長代行に就任した稲田朋美氏だ。安倍首相の秘蔵っ子の稲田氏だが、あまりに早い党幹部や大臣への就任で、準備不足な面や、周囲の理解を得られることができず評価を下げていた。今回の幹事長代行への就任についても反対する声が党内から挙がっていた。

しかし、この約1年、総裁特別補佐として党務に尽力したほか、二階幹事長との関係も良好とされることを背景に幹事長代行のポストを勝ち取った。今後は幹事長代行として党内外の調整のほか、党のお目付役として安倍首相と二階幹事長の間でバランス感覚を保ち、自民党の安定を維持し続けられるかのキーポイントになりそうだ。

松野元文科相は細田派を取り仕切る事務総長に

事務総長に就任した松野博一氏(9月13日)
事務総長に就任した松野博一氏(9月13日)

そして3人目が、下村氏の後を継いで、細田派の事務総長に就任した松野博一氏だ。事務総長は派閥の実務面での責任者になる。「細田派では非主流派」と評されるように、安倍首相の側近でもなく親しい関係でもない松野氏だが、派閥内の人望は厚い。政治家としては控えめな性格で、与えられた仕事を着実にこなす職人肌。こうした姿勢が、自民党内からは「目立たないが、重要な仕事は必ず実現してくれる」と評価され、重要な法案の担当などには引っ張りだこになっている。

松野氏自身は、駅前の居酒屋で1杯100円のハイボールを飲みながら政治を語るような庶民派でもあって、役人やマスコミにもシンパが多い。細田派内では、実は安倍首相と距離がある議員が多いだけに、そういった議員の声をくみ取りつつ、派閥の求心力を高めて安定政権の土台を作り上げるという重要な役割を担ったと言える。

こうして今回の人事を振り返ると、安倍首相が内閣では「挑戦」、党内には「安定」を目指して、自らの出身派閥を中心とした信頼できる次世代の政治家を要所に配置し、競わせることで、将来の総理を育成する構図を作り上げていることがわかる。

この人材配置が吉と出るか凶とでるか。ポスト安倍よりも一歩先の視点で、安倍首相が期待する後継候補たちがどのような働きをしていくのか注目される。

フジテレビ報道局 中西孝介 門脇功樹

政治部
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