紀伊半島大水害で被災…“救命”伝え続ける女性

9月8日の夜。
和歌山県那智勝浦町では、地元の消防団をつとめる住民たちが、訓練に取り組んでいた。

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丸亀聡美さん:
第43、放水やめ。

丸亀聡美さん(49)は、数少ない女性の消防団員として、活動を続けている。

聡美さん:

次(の災害)があったときは、自分も消防団の一人として、助けに出たいと思います。

聡美さんが住む、那智勝浦町は8年前の9月4日に起きた紀伊半島大水害で、大きな被害を受けた。台風による豪雨で、土砂崩れや川の氾濫が起き、那智勝浦町では29人が犠牲になった。

聡美さん:
家の前の道も川になって、本当に家が川の中にあった。水がドンドンドンドン(家の中に)上がって来るので、窓から(出て)隣の家に助けてもらった。この家も流されたらあかんからと言って、子供らと紐で体を結んで、ずっと朝が来るまで待っていた。

聡美さんたち家族は隣の家の2階に、間一髪で避難。しかし、住む場所を失った。

周辺では、亡くなる人が相次いだ。

聡美さん:

裏側のおばあちゃんも逃げ遅れて、屋根の上に乗っていたが、家ごと流されたと聞いた。信じられなかった。(前日の)朝に会ったのに。

9月4日の午前1時。慰霊碑の前では、水害が発生した時間帯にあわせて、犠牲になった人と同じ数の29のキャンドルに明かりが灯された。

聡美さんには、周りの人を救えなかったという「後悔」が残っている。

聡美さん:
思い出すたびに胸が苦しくなる。絶対忘れたらあかんこと。

『自分には何ができるのか』
聡美さんは、ある活動を続けている。

聡美さん:

大丈夫ですか?大丈夫ですか?すいません、誰か来てください。

聡美さんは3年前に講習を受け、消防署から応急手当の「普及員」に任命された。
いまは、町内で心肺蘇生の方法を教えている。

聡美さん:
1回につき1秒、ふっと入れる。長くしたらダメなんです。

人工呼吸などの方法や、AEDの使い方を丁寧に伝えていく。

(AED自動音声)「体から離れてください」
聡美さん:
このとき皆に離れてくださいと言って、自分がボタンを押さないといけない。

(自動音声)「オレンジのボタンを押してください」
聡美さん:
これでショックを。

(自動音声)「ショックが完了しました。一時中断中です」
聡美さん:
この間に、胸骨圧迫します。

この講習に参加した人は、地域にこういう方がいるのは心強いと話していた。

『人の役に立つために、できることを続けたい』
この8年、その思いを抱いてきた。

必死に生きる母の姿に…息子がした「決断」

(聡美さんと次男・亜久里さん(15)の会話)
「救命講習?」「救命講習」
「どこで?」「宇久井」
「小学校?」「違う違う。おじいちゃんとおばあちゃん」

水害の当時、小学1年生だった次男の亜久里さん(15)は中学3年生になり、 来年の高校受験を控え、勉強を続けている。

丸亀亜久里さん:
志望は、自衛隊の高校を目指しています。どんなときでも人が困っていたら助けに行きたい。そういう、人をちゃんと助けられる大人になりたい。

亜久里さんは、聡美さんの姿を見て育ってきた。

水害のあとの、仮設住宅での暮らし。
夫の里志さん(45)がトラックの運転手として各地を駆け回る中、聡美さんは3人の子どもを育てながら、家計を支えるため介護ヘルパーの仕事にも出た。

聡美さん:
水害から後は必死。子育てするのも何をするのも必死で、働き続けた。

その後、住み慣れた場所の近くに、別の家を借りることができた。

少しずつ生活も落ち着き、聡美さんが応急手当の活動に力を入れ始めたころ。去年、『乳がん』と診断された。

亜久里さん:

最初に『がん』と聞かされた時も全然理解できなくて。最初嘘かなと思ったけど、結局本当やって。手術が終わっても、抗がん剤とかでしんどそうで。

聡美さんは左胸を切除し、今年5月まで、つらい抗がん剤の治療を続けた。

いまは毎朝、がんの増殖を抑える薬を飲んでいて、50m歩くだけで息があがるほど、体力も落ちているという。

そんな状態で聡美さんが再開したのが、中学校などでの応急手当の講習だった。
今年7月からすでに9回、行っている。

亜久里さん:

姿を見てて、かっこいいなって。病気になってしんどいのに、人を助けるためのことをやっているのはすごいなって。

『自分には、何ができるのか』

亜久里さんは、水害で地域の人たちを助けてくれた自衛隊に入り、今度は自分が災害で苦しむ人を助けたいと考えている。神奈川県にある自衛隊の高校に合格できれば、ふるさとを出ることになる。

自宅の近くにある、水害の慰霊碑。

亜久里さん:
景都くんと、紘明くんと、岩渕のじいちゃんと…朝は『行ってきます』って思っているし、帰りは『ただいま』と思っている。ずっと見守って欲しいと、ずっと思っている。

家族が歩んできた、水害からの8年。
いまも「自分ができること」を、続けていこうとしている。

(関西テレビ)

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