日本代表目当てにホテル前に300人出待ち

サモア戦の熱狂が冷めやらぬ10月6日午前、日本代表の姿を一目見ようと、愛知県豊田市内のホテル前に300人ほどのファンがいわゆる「出待ち」状態で集まっていた。

親子連れや昔ながらのラグビーファンに交じって、50~60歳代の女性の姿も多く見られた。彼女たち数人に話を聞いてみると、口を揃えてみな地元で行われたサモア戦に心を打たれたのだという。
柵で仕切られた最前列には、3時間近く待っている女性グループの姿もあった。彼女たちに聞いてみると、「特定の選手というよりチームにお礼が言いたい」という。

豊田市からJR名古屋駅まで選手やスタッフを乗せるバスは2台。当初はホテル玄関から少し離れて止まっており、これならファンにとってはホテル玄関から少し歩いてバスに乗る選手の顔が見え、声を掛けやすい・・・はずだった。
しかし、いざ出発の時間が迫ると警備の関係からか、ホテル玄関の真ん前にバスが横付けされたのだ。

 
 
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その瞬間、“出待ち”のファンからは「えー!」というため息混じりの声とともに「これじゃ選手の顔が全く見えない」という声があがった。そんな事情も知らない選手たちは続々とバスに乗り込んで行く。ファンたちは声を出す隙もない・・・

「チームにお礼が言いたい」ファンの気持ちに応えた日本代表

その時だった。サモア戦で途中出場し活躍した中島イシレリら数人の選手が、バスから降りてファンと手を取り合い、感謝の意を示す行動に出たのだ。

この瞬間、なぜか私は正直ホッとした。もちろん選手たちがファンに挨拶する義務はないことくらいは分かっているし、挨拶してほしいというつもりもない。
ただ、10月とはいえこの日の気温は30℃。中には3時間以上も待っていたファンに直接駆け寄って挨拶してくれた選手が数人でもいたことが、正直私はうれしかったのだ。

 
 

普段「神対応」という言葉はあまり使わないが、この時ばかりはラグビー日本代表選手の「神対応」に救われた気がした。それは、選手と握手した子供たちの笑顔が最高だったから。

バスから降りてきた選手の中には、サモア戦の登録メンバーに入っていないトンプソン選手の姿もあった。本人の気持ちはわからないが、「試合にも出ていないのにファンと握手なんて」と思っていたかもしれない。私の勝手な推測では「これは僕の役割なんだろう」と思ったはずだ。

日本代表とは、プレーでパフォーマンスするだけでない。代表メンバーたちは常々「試合に出てないメンバー含めてチームには色々な役割がある」と言っている。今回の日本代表が掲げるスローガン「ONE TEAM」を自分なりに実感した瞬間だった。
 

(フジテレビ報道スポーツ部 坂本隆之)

坂本 隆之
坂本 隆之

1990年入社後、カメラマン・政治部・社会部・スポーツ部・番組プロデューサー・クアラルンプール、ベルリン、イスタンブールの支局勤務を経て現在はマルチメディアニュース制作部長。バルセロナ・長野・シドニー・リオ五輪やフランス、ドイツW杯の取材経験あり。