TwitterやInstagramなどのようなSNSが世の中に浸透して久しい。

「SNS映え」や「インスタ映え」という言葉も生まれ、SNSに夢中になる人の姿も見受けられる。どうして人はSNSに投稿し、“映え”を意識してしまうのだろうか?

自分の体験を誰かに伝えたい、保存したい

自分で作った手料理の画像、友人との遊びの一コマ、旅行の思い出、動物の癒し系動画、仕事の愚痴、社会への不満などなど…。SNSを見ていると、さまざまな投稿を目にするが、そもそもどうしてSNSへ自分の行動や考えなどを投稿したくなるのだろうか?

「SNSユーザーの増加時期はスマートフォンが普及してきた時期と一致しています。2012~2013年あたりで若者のスマートフォンの普及率が5割を超えていて、みんなスマホを持っているのが当たり前になりました。スマホにはカメラが搭載されているので、誰でも簡単に撮影することができ、せっかく撮ったものは誰かに見せたい、伝えたいといった気持ちがありますよね。こういった気持ちの受け皿にSNSがなっています」

そう話すのは、株式会社電通・電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬さん。SNSに投稿したくなる要因はほかにもあるという。

株式会社電通・電通メディアイノベーションラボ主任研究員・天野彬さん
株式会社電通・電通メディアイノベーションラボ主任研究員・天野彬さん
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「自分が遊びに行った場所やおいしいものを食べた体験などを広く伝えるためにSNSが使われています。たとえば自分が食べたものは保存しておきたいと思いますよね。実際に僕の友達にも足を運んだカレー店の情報をすべてInstagramに保存(投稿)している男性がいます。

“映え”意識ではなく、ただ単にカレーが好きで“カレスタグラム”をやっているだけです。このように自分が残しておきたい体験を保存したいというのが投稿のモチベーションのひとつです。

あとは、カレーが好きな方であればカレーの情報を提供し、誰かの役に立ちたい、もしくは興味関心が同じ人の投稿をチェックして情報収集したいといったようにギブ・アンド・テイク的な意味もあり、これは非常に大きな投稿のモチベーションになります」(天野さん、以下同)

前述以外にも、「いいね」も関係しているそう。「いいね」は評価のようなもので、自分の投稿がどれだけよかったのかが数値化されるため、得点付けされる楽しさがあり、“次はもっと「いいね」がほしい”という気持ちに。結果、投稿を促す要因のひとつになっているのだとか。さらに、いわゆるマウンティングのために投稿する人も少なからずいるそうだ。

バズるためなら危険な行動もしてしまう?

昨今、撮影のために立ち入り禁止区域に入ってしまったり、食べ残しをしてしまったりすることを問題視する投稿が増えている。なぜ、危険な行為やマナー違反な行動をしてしまうのだろうか?

「普通の投稿ではつまらないので、ほかの人ではできないようなことをして、コメントなどでみんなからすごいと言われたいという気持ちや、それがいいねや再生回数などで可視化されるのです。これらはある種の承認欲求のひとつで一面的な使用ではありますが、“バズる”ことの指標が重くなり、バズる=良質な投稿と勘違いが起こりやすくなります」

SNSを見ると、高層ビルの屋上の端に立って撮影した画像に多くのいいねやコメントが付きバズっていることが多々ある。ほかにも、SNSに投稿しがいためにタピオカミルクティーや大盛系グルメなどを注文し、食べ残してしまうこともたびたび問題になっているが…。

「流行っているタピオカ店に行くことは、自分は流行りにのっていると伝えたいという『マウンティング』の意味合いのほかに、実際にお店を体験することでレビューしたいという情報提供の意味もあります。さらに友達と行って楽しかったから記録に残しておきたいという思いもあるでしょう。このように複合的ではありますが、ここでユーザーが求めていることは、○○を飲食すること(主)ではなくて、“みんなが並んでいる話題のお店で飲食したという体験”をみんなにシェアしたい気持ち(従)があること。主従関係が逆転していることが、食べ残しにつながってしまっているのではないかと思います」

とはいえ、こういった行動は今に始まったことではないと天野さんは指摘する。

「僕が子どものころにはSNSはありませんでしたが、カード付きのお菓子を購入し、カードだけ取ったらお菓子は食べないということが問題になっていました。こういったことは往々にしてあるので、SNSが原因という話ではありません。でも、SNSで体験をシェアしたいから中身がおざなりにされてしまうという側面は否定できないですし、それは現代的な問題だと思います」

ちなみに、食べ残しをする人はそもそも「食べ残しはよくない」という考えがあまりないため、SNSが原因で食べ残しをしたわけではなく、たまたまSNSが利用されただけの可能性があると天野さんはいう。

「ググる」から「タグる」の時代へ

人によっては外出先や食事をSNSで“映え”るかどうかで決めることもあるだろう。

その背景にはいったい何があるのだろう?

「みんながSNSで情報を探すようになっていることが要因のひとつです。少し前までは雑誌やテレビ、ウェブサイトなどのようなメディアで情報を探していましたが、ここ数年はInstagramなどのSNSが使われています。SNS好きな人ほど、そのお店や場所に行ったらどんな写真を撮れてシェアできるのかを重要視していますし、それを逆算するためにハッシュタグなどを活用してみんながシェアしたものを確かめています」

天野さんいわく、最近は「ググる」から「タグる」に変化しているという。

「“ググる”の意味はご存知のとおりで、“タグる”はSNSのハッシュタグと日本語の“手繰り寄せる”という意味があり、SNSのハッシュタグで情報を検索する人が増え、結果としてみんなが投稿しているような“映え”を意識することにつながっています。

また、自分なりの“これだ”という一枚を投稿することで、いいねやコメントをもらえるのはうれしいですよね。これは健全な気持ちだと思います。承認欲求というと、よこしまな気持ちになりますが、行き過ぎなければ悪いことではありません」

Instagramなどで情報収集することで、自然と映えに触れる機会が増え、いつしか自分もそういった投稿をし、承認欲求が満たされることにつながっているようだ。

ほかにも、Instagramを体験した人たちは、写真テクニックが向上したり、撮り慣れ・撮られ慣れしたりもするそう。さらに人によっては、写真がうまくなりカメラマンになる、グルメ写真を多く投稿したことがきっかけでグルメ本を出版、グルメサロンを開催する人などのように活動の幅が広がるケースもあると天野さん。

「SNS映え」という言葉を聞くと、どうしても悪いイメージを思い浮かべてしまう人もいるだろう。危険行為やマナー違反がNGであることは間違いないが、映え投稿をすることで今まで気付かなかった良さに気づけるかもしれない。

『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』(宣伝会議)

天野彬

株式会社電通・電通メディアイノベーションラボ主任研究員。『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』(宣伝会議)は、シェアによって生まれた新たな社会現象やトレンドをキーワード化しながら、現代の情報環境を7つの視点で読み解く。特にInstagramをはじめとした最新のSNSについてのマーケティングの考え方を体系化している目まぐるしく移り変わるSNSのトレンドを細やかにトレースしつつも、その底流にある根源的な変化のあり方を深く見定められるような視点を提起し、誰もがスマホで写真や動画をシェアする時代のコミュニケーションとマーケティングのあり方や可能性をポジティブに描き出す。また、新刊『SNS変遷史~「いいね! 」でつながる社会のゆくえ~』(イースト新書)も。

https://dentsu-ho.com/people/498

取材・文=奈古善晴/オルメカ

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。