酔っ払いの外国人集団に緊張
日曜日の夜に行われたラグビーの日本・スコットランド戦は、ちょうどその時間に新大阪から新幹線に乗っていて、見ることができなかった。名古屋を過ぎたあたりで日本の勝ちが決まり、1人、ウイスキーで祝杯をあげた。
この記事の画像(4枚)すると新横浜駅で賑やかな外国人の一団が乗ってきた。男なのにタータンチェックのスカートを履いている。スコットランド人だ!横浜での試合が終わって東京のホテルに帰るのだろう。全員ビール片手に酔っ払っていて、絡まれたら嫌だなと警戒した。
そのうち1人と目が合ってしまった。すると彼は「おめでとう!グッドゲーム!」と握手してきた。一緒にいる人達もみんな、おめでとう、決勝進出おめでとう、と連呼する。思わずみんなとハグしてしまった。
自分の国が負けたのに悔しくないのだろうか。車掌さんが来て「その切符では指定席は座れないので出て行け」と言われた彼らは通路に移動して今度は歌を歌い始めた。酔っ払いだが実に気持ちのいい奴らだった。品川駅で別れ際、「もう国へ帰るのか」と聞くと「決勝まで見て帰る」とのこと。ラグビーが好きなんだな。
Twitterに投稿したら80万回再生
その模様をスマホで撮影してTwitterに投稿したら80万回再生され、6万回「いいね」された。2年前にTwitterを始めて以来の最高記録であった。やはり感じることはみんな同じなんだ。そう言えばアイルランド戦で日本が勝った時も、六本木を歩いていたら、アイリッシュパブの前でアイルランド人らしき酔っ払いから「おめでとう」と声を掛けられた。これほどマナーの良い酔っ払いはあまり見たことがない。
今回日本で初開催のW杯ラグビーは日本代表の失礼ながら意外な強さといい、選手たちのマナーの良さといい、驚くことばかりだったが、僕にとってはスコットランドやアイルランドなどから来た酔っ払いたちのことが最も印象に残った。ラグビー発展途上国の我々は奴らからラグビーの正しい観戦の仕方を教わったのではないか。終わったらノーサイドで勝者を称え、敗者を称える、ということだ。これは意外に難しい。
スコットランド人からラグビー観戦の作法を教わった
五輪を始めとする国際試合では常に愛国心が高まり、日本の応援につい夢中になってしまう。特に日本発祥の柔道などで日本人が外国人に負けると悔しい。
相撲の場合さらに複雑で、モンゴル出身の力士の活躍のおかげで相撲が存続しているのに、朝青龍や白鵬が日本人力士を負かすのを見るのは嬉しくない。ラグビーでスコットランド人の酔っ払いたちが我々を祝福してくれたことと同じことを我々はモンゴル人にしてないのだ。
僕の娘のご贔屓は白鵬で、いつも応援しているが、僕は内心負ければ良いのにと思っていた。優勝したら悔しかった。でももうそんなことはやめよう。次からは娘と一緒に純粋に白鵬を応援しよう。酔っぱらいのスコットランド人が教えてくれたように。
【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】
【イラスト:さいとうひさし】