衝突の映像公開

10月17日午後7時30分、水産庁は記者会見を開き同月7日に北朝鮮漁船と同庁の漁業取締船おおくにが衝突し、北朝鮮漁船が沈没した時の映像を公開した。

【速報】水産庁取締船と北朝鮮漁船の衝突映像を公開

映像を見る限り、衝突の原因は北朝鮮船が急激に舵を左に切り、取締船に近づき過ぎたことにある。故意にぶつかったのか、過失なのか判断が付きかねるところだ。

他国の漁船が排他的経済水域に侵入したため、不法操業を未然に防ぐため海域からの退去を勧告する。無線、拡声器など音声などでの勧告に従わない場合は放水を行い、相手を傷つけない程度の警告行為を行う。

放水の効かない風上に出ようとする北の船
放水の効かない風上に出ようとする北の船
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取締船から放水を受けた北朝鮮漁船は、取締船の船首をすり抜け、放水の効かない風上に出ようとした。その時、北朝鮮漁船は、自ら取締船の船首の水面下にあり突き出たバルバスバウに船体がぶつかり、水面下にある船体の横の部分に切り裂くような穴が開き浸水したようだ。帰還した取締船おおくにのバルバスバウに残された傷跡とも符合する。

新しいレーダーを搭載した大型老朽船

水産庁が公開した動画より
水産庁が公開した動画より

沈没した北朝鮮漁船は、大和堆に姿を現す北朝鮮漁船の中にあっては珍しく、鋼鉄船であり大型船の部類に入る。しかし、老朽船であり船体に錆が目立つ。船体の鉄板も摩耗し薄くなり傷んでいたため沈没を招くような損傷となったのである。

この船は、北朝鮮不法操業船団の母船だったようだ。老朽船であるが、他の北朝鮮漁船には見られない新しいレーダーが搭載されていたのである。沈没船は、レーダーにより取締船が単独で動いていたことを察知していた。敢えて取締船に近づき挑発するような動きをしたことになる。

水産庁が公開した動画より
水産庁が公開した動画より

国内向けのプロパガンダだったか

8月には、取締に当たっていた海上保安庁巡視船が北朝鮮船から小銃の銃口を向けられる事件が起きた。その後、北朝鮮政府は、自国の水域に日本の海保が侵入したと日本を非難している。今回、敢えて単独で行動する水産庁の取締船に近づき、国内向けプロパガンダのため水産庁の巡視船に近づき挑発的な行為をしたとも考えられる。北朝鮮人民の海を守るために日本の取締船に果敢に挑む北朝鮮船の姿を演出したと考える。

水産庁は、60人の北朝鮮漁民を救助したが、この船にそのような大人数が乗船していたのでは、甲板に人であふれ漁をするには邪魔になることだろう。朝鮮漁船の多くはエンジンを搭載していないか、遠洋航海に耐えられない小型のものである。母船に曳航され漁場まで運ばれてくる。その間、漁民は母船の中にいるのである。漁場に着くと木造漁船は不法操業の配置につき漁を行う。母船は漁民運搬船でもあるのだ。

今回公表された映像には、水産庁の取締船が、北朝鮮漁船に放水が届く範囲まで接近して行く様子が映し出されている。北朝鮮側は、この部分だけを抜き取り、執拗に近づき事故を誘発したのは日本側であると言いかねない。放水の正当性の国際法的な根拠と止む無く放水に至った経緯を補足しておく必要があるだろう。

投げ出された人々を海保と水産庁が救助 (公開された動画より)
投げ出された人々を海保と水産庁が救助 (公開された動画より)

公開された映像の後半は、海に投げ出された北朝鮮漁民を海保と水産庁が、人道的に救助する姿も映し出されている。事故後の救助活動を国際社会に伝えることは重要である。

取締船おおくには、水産庁が民間から傭船し取締活動に当たっていた。操船していたのは、民間人である。国境の最前線の警備を民間人が行うのは危険だ。海保には、、さらなる負担を課すことになるが、最前線に立つのは海保巡視船に委ねるべきと考える。

【執筆:海洋経済学者 山田吉彦】

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山田吉彦
山田吉彦

海洋に関わる様々な問題を多角的な視野に立ち分析。実証的現場主義に基づき、各地を回り、多くの事象を確認し人々の見解に耳を傾ける。過去を詳細に検証し分析することは、未来を考える基礎になる。事実はひとつとは限らない。柔軟な発想を心掛ける。常にポジティブな思考から、明るい次世代社会に向けた提案を続ける。
東海大学海洋学部教授、博士(経済学)、1962年生。専門は、海洋政策、海洋経済学、海洋安全保障など。1986年、学習院大学を卒業後、金融機関を経て、1991年、日本船舶振興会(現日本財団)に勤務。海洋船舶部長、海洋グループ長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。海洋コメンテーター。2008年より現職。