「年を取ると、早く目が覚めてしまう」「若い頃みたいに、長時間寝られなくなった」なんて話はよく聞くが、実際に睡眠時間は短くなっていくものなのだろうか。

科学的根拠があるのか、はたまた感覚値に過ぎないのか。睡眠医療の第一人者である秋田大学の三島和夫教授に、加齢と睡眠の関係性について教えてもらった。

早く起きて太陽光を浴びると早く眠くなる「早寝早起き」サイクル

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「年齢と睡眠時間の関連性は昔から研究されていて、年を取ると早く目が覚めるようになることが証明されています。その理由は、年齢とともに必要睡眠量が減っていくからです」(三島先生・以下同)

幼年期、青年期、中年期、高齢期と年を重ねるにつれて、徐々に基礎代謝や筋肉量は落ち、日中の運動量が減っていき、必要な睡眠量も減る。そのため、同じ時間に寝たとしても、若い世代より高齢者の方が早く目覚めてしまうのだ。髪が白くなっていくことと同じ加齢変化の一つで、決して病気などではない。

起きる時間が早くなると、その分、寝る時間も早くなっていくという。そのキーとなるのが、太陽光だ。

「太陽光には、午前中に浴びると体内時計の時刻を早める効果があり、浴びる時間帯が早ければ早いほど、体内時計の時刻も早まります。そして、眠くなる時間帯は体内時計で決まるので、時刻が早まれば、眠気が襲ってくるタイミングも前倒しになります。つまり、早朝に起きて太陽の光を浴びると、夜も早々に眠くなるというわけです」

就寝時間が早まれば、目覚める時間もさらに繰り上がり、より早い時間帯に太陽光を浴び、早寝早起きが加速していく。三島先生は、「布団に入る時間が極端に早くなりすぎると、かえって睡眠の質は下がる」とも明かした。

極端な早寝早起きが“睡眠の質”を下げる

「高齢者の中には、朝からアクティブに活動して、ますます朝型が強まり、21時頃にはうとうとして寝床に入る方がいます。70代くらいだと、健康な人の必要睡眠量は6時間程度なので、3時頃には目が覚め、日の出の頃から光を浴びる。このような早寝早起きが辛くなければ、問題ありません。ただ、せめて夜が明ける時間帯まで眠りたいのであれば、体内時計を朝型に進める早朝の光は避けた方が無難です」

三島先生は、「あまりにも早い時刻から寝床に入ることも問題」という。

「体温が下がり、睡眠を促すホルモンなどが分泌し始める時間帯より前を『睡眠禁止ゾーン』と呼びます。若い世代だと平均で20時~22時、高齢者でも平均で19時~21時頃で、非常に個人差があるのですが、『睡眠禁止ゾーン』にうとうとすることがあっても、それは疲労から来るものであり、眠気とは異なります。そのまま寝てしまうと、深い睡眠が取れないことが多いのです」

早朝の光によって体内時計の時刻は前倒しになるが、一般的な20代の若者と比較してもせいぜい1時間~1時間半程度とのこと。現役時代に0時過ぎに寝ていた人が、リタイア後に21時に布団に入るのは、体内時計の観点からしても早すぎるのだ。

「リタイア世代は睡眠時間帯を自由に決めやすいと思います。6時に起きる人の場合、理想の睡眠時間帯は、23時~6時。この7時間の間にコンパクトに眠ることで、睡眠の質も高まります。早朝覚醒を防ぐ意味でも、科学的に推奨されている時間帯です」

夕方から深夜にかけて強い光を浴びて「体内時計」をリセット

理想的な時間帯があるとしても、加齢による早寝早起きのサイクルから抜け出すことは、難しいように感じる。睡眠時間を調整する方法とは?

「午前中に太陽光を浴びると体内時計は早まりますが、夕方から深夜にかけて浴びる光は、太陽光でなくても体内時計を遅らせます。若い世代が夜型生活から抜け出せない理由は、体質的に夜型が強まる年代であることに加えて、遅い時間帯にテレビやスマホ、パソコンの強い光を浴びているからだといえるのです」

白っぽく明るい光には脳の覚醒作用もあるため、朝型の人であっても、深夜に明るい光を浴びると眠気が覚めてしまうという。「若い人は夜間の光をシャットアウトすることで、睡眠の質を高めるケースが多いですが、極端に早く寝てしまう高齢者の方は、あえて夜に光を浴びるよう指導することがあります」と、三島先生は話す。

「夕方から深夜にかけての時間帯は明るい照明をつけたり、テレビを見たりすると、眠くなる時間が後ろ倒しになっていきます。深夜になればなるほど、夜型化の効果は強くなります。早朝に目が覚めてしまった時は、カーテンを開けず、6時頃まで太陽光を浴びないようにしましょう。睡眠時間が短くなることは、加齢変化なので避けがたいですが、寝る時間帯を調整して、質の高い睡眠を取ってほしいです」

「年を取ると、早く目が覚めてしまう」は、科学的根拠のある話だった。睡眠時間が短くなっていくからこそ、質を高めることが重要になる。改めて日々の生活を見直し、23時~6時に睡眠を取れるサイクルを作っていくと、生活全体の質も高まるだろう。


三島和夫
秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授。1987年に秋田大学を卒業し、秋田大学医学部精神科学講座助教授、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。専門は精神医学、睡眠医学、時間生物学。著書に『かつてないほど頭が冴える! 睡眠と覚醒 最強の習慣』『朝型勤務がダメな理由』など多数。

「人生の1/3を豊かにする“良質な睡眠”」特集をすべて見る!
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取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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