“政権の選択肢”を意識…枝野氏が菅首相に挑んだコロナ論戦

菅政権が初めて臨む通常国会。その論戦の皮切りとして、20日の衆院本会議では立憲民主党の枝野代表が質問に立ち菅首相と論戦を交わした。

枝野氏は前日、コロナ禍での菅首相の施政方針演説について「危機感が総理には共有されていない」と酷評した上で、「この危機にしっかりと対応できるのは立憲民主党である、ということを多くの皆さんにお伝えできるような国会にしていきたい」と、年内に迫る衆議院選挙で“政権の選択肢”として認められる政党を目指す覚悟を表明していた。

昨年9月に合流新党として再スタートした立憲民主党は提案路線を強めようとしている。コロナ対策に関し、ひとり親世帯への支援やGoToトラベルの停止、緊急事態宣言の早期発令、大阪を含む対象地域の拡大などを菅政権に先んじて提案し、政府は結果的に後を追う形で実施してきた。立憲のこうした行動は世間にあまり浸透していないが、「政府の対応が遅すぎる」と批判する根拠となっている。

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そして迎えた代表質問当日、枝野氏は質問に集中するため、マスクにある細工をしていた。“立憲ブルー”と称する紺色の布マスクの内側に、自らで不織布を貼り付けたマスクフレーム(約100円)をあてていたのだ。そして「口が直接マスクにあたらなくて話しやすい」と語り、10枚の質問原稿を手に本会議場へと向かった。

枝野氏は質問の冒頭、「医療体制に不安を抱いているすべての皆さんに、国会に議席を持つ一人として心からお詫び申し上げます」と述べた上で、コロナ対策にテーマを絞っての質疑に入った。以下、枝野氏と菅首相の質疑について、質問と答弁を一問一答の形式に抜粋して詳述する。

緊急事態宣言をめぐる後手批判 菅首相の答弁は

枝野氏はまず、東京などへの緊急事態宣言の発令や、大阪府などを対象に含めるタイミングをめぐる政府の対応の遅れ、さらにコロナ特措法の改正の遅れを指摘し、菅首相に反省を求めた。

枝野氏:

「11月下旬には、政府自ら『勝負の三週間』と言ったくらいです。ところが総理は、私たちをはじめ多くの声を無視してGoToキャンペーンを続け、必要な対策を先送りしてきました。その結果が、感染爆発と呼ばざるを得ない現状です。(中略)なぜこんなに、後手に回っているのですか?今後の適切な対応のためにも、判断の遅れを認め、反省することから始めるべきではないですか?」

菅首相:

「緊急事態宣言は法律に基づく幅広い措置によって感染対策を徹底する強力な手段であり国民生活を大きく制約するものであることから政府として最善の判断が求められます。昨年の特措法改正による国会の附帯決議においても緊急事態宣言については、専門的な知見に基づき慎重に判断すべきとされております。こうした中で私は、日々の感染状況等を把握し専門家のご意見をお伺いしながら判断を致しました」

枝野氏:

「緊急事態を宣言してから、その根拠となる特措法の改正を進めるというのは、順序が逆で『泥縄』そのものです。(中略)政府からも対案を示し野党案とともに審議を進めれば、特措法等の改正は、とっくに実現できていました。総理には、国会を閉じ、法改正が遅れたことへの反省がありますか?」

菅首相:

「特措法の改正については私権の制約にも関わることから規制強化すべきという意見と、私権制限に慎重な意見があり、これまでの分科会や政府与野党連絡協議会で慎重な議論が続けられてきたと承知しております。政府としてはこうしたご意見を踏まえ速やかに法案を国会に提出してまいります」

枝野氏が仕掛けた「正常性バイアス」批判 菅首相「楽観論での対応遅れはない」

そして枝野氏は、「正常性バイアス」というキーワードで、菅首相の危機対応意識に疑問を呈した。枝野氏は、正常性バイアスとは、危機において『正常な日常生活の延長上の出来事と捉えてしまい、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまうこと』だと説明。危機においてリーダーが最も注意すべき事であり、最悪を想定して対応することが、危機管理の基本だと指摘した上で、次のように追及した。

枝野氏:

「残念ながら総理は根拠なき楽観論に立ち、それによって対応が遅れてきたと言わざるを得ません。まさに正常性バイアスそのものです。正常性バイアスに陥ってきたことを認め、最悪を想定した対応へと根本的に転換すべきと考えますが、いかがでしょうか」

菅首相:

「これまでも感染状況等を注視しつつ専門家の意見をお伺いしながら対策の判断を行ってきたところです。ご指摘のように根拠なき楽観論に立ちそれにより対応が遅れてきたとは考えておりません。引き続き国民の命と暮らしを守り感染拡大を抑えつつ雇用や事業を維持する、その考えに基づき必要な対策を講じて参ります」

菅首相の「根拠無き楽観論に立ち政府の対応が遅れてきたとは考えていない」との答弁に、野党席から「えー」というヤジが一斉にあがった。

正常性バイアスや根拠なき楽観論の是非はともかく、「最悪の感染を想定し生活や経済へのダメージを覚悟しつつも早めに強い対応をとる」のか、「生活や経済へのダメージに極力配慮し、強い対応についてはぎりぎりのタイミングを探る」のか、コロナ対策の難しさが浮かび上がる議論かもしれない。

枝野氏「zeroコロナ」への転換提案 菅首相のハンマー&ダンスは…

さらに枝野氏は、「今回の感染拡大は、政治によって引き起こされた「人災」と言っても過言ではない」として、医療機関への支援が十分でないと指摘し、「総理がこだわったGoToキャンペーンは、税金を使って旅行に行ってください!会食してください!と勧めるものです」と批判。その上で、「同じ失敗を繰り返すことは許されない」として、今後の新たな指針を提案した。

枝野氏:

「『withコロナ』から『zeroコロナ』を目指す方向へと転換することを提案します。まずは徹底した感染の封じ込めに取り組み、その間は、十分な補償と給付で支える。できるだけ早く感染を封じ込めた後に、いつでも封じ込めができる体制を維持しつつ、旅行でも会食でもイベントでも、制約なく安心して再開する。このことで、結果的に経済を最も早く立ち直らせることにつながります。これこそが取るべき基本戦略だと思いますが、いかがでしょうか?」

菅首相:

「対策を徹底し一日も早く感染を収束させ、みなさんが安心して暮らせる日常、賑わいのある街を取り戻します。そのため緊急事態宣言を発出し、これまでの経験に基づき効果のある対象に徹底的対策を行っています。飲食店をはじめ大きな影響がある事業者に支援を行うとともに事業継続、雇用維持のために雇用調整助成金や資金繰りの支援を行います。いわゆるステージ4を早期に脱却した上で引き続き対策を講じてさらなる感染の減少を目指して参ります」

両者の主旨は違わないようにも映るが、感染収束のための強い対策「ハンマー」をいつ・どのくらい振るい、社会経済活動を活発化させる「ダンス」をいつ・どのくらい踊るのかという、時期と程度の違いという点で似て非なる認識なのかもしれない。

さらに枝野氏は、医療の確保、感染封じ込めの徹底、補償と生活支援の3点について、批判と提案をセットの質問を展開した。

枝野氏「医療機関のコストと減収補填を」 菅首相「ニーズ汲み支援している」

枝野氏:

「(医療機関の陽性患者に関する)受け入れのためのコストと、受け入れに伴う減収を、全額補填すると明確にし、事前に包括払いすることが、協力を求める前提だと考えますがいかがでしょうか」

「(医療従事者に)もう一度20万円の慰労金を支給するその法案を提出しました。感謝を口にするだけでなく、個々の皆さんに確実にお金を届け、慰労の気持ちを具体化することで、少しでも離職を防ぎ、採用が進むよう努力すべきです」

菅首相:

「新型コロナ患者受け入れる医療機関が損失被ることないようにするとともに現場で戦う医療従事者の方々に支援が行き届くことが重要だと考えております。御党からもそうした趣旨から提案なされていること承知していますが政府としてはこれまでに3.2兆円の医療機関支援を行うとともに、今回の補正予算案で1.4兆円の追加支援を計上するなど現場のニーズをくみ取りながら支援を行っています。今般新たに対応病床を増やして頂いた場合には1床あたり最大で1950万円の強力な支援を行い必要な方が必要な医療を受けられるよう措置を講じています。引き続き必要な支援を実施してまいります」

枝野氏「PCR検査拡大へ戦略変更を」 菅首相「引き続き拡充図る」

枝野氏:

「倒産や休業を食い止めるために持続化給付金と家賃支援給付金を継続し、必要に応じて改善や拡大をした上で、再度支給すべきと考えますがいかがでしょうか」

菅首相:

「持続化給付金と家賃支援給付金については申請期限を延長したところでありさらに今回の緊急事態宣言において飲食店の営業時間短縮などの影響により大幅に売り上げが減少する中小事業者については一時金を支給いたします」

枝野氏:

「感染拡大を防ぐためには、検査の拡大が不可欠です。私たちは、昨年春の第一波から、繰り返しこれを訴えてきました。しかし政府は、一貫してPCR検査の拡大に消極的です。(中略)政府として明確に戦略変更することを提案します」

菅首相:

「必要な検査が受けられるように検査体制の拡充を図るとともに感染拡大地域では症状のない方も含めた大規模集中的な検査を国の費用負担で実質的にできるようにしてきたところです。引き続き検査体制拡充を図ると共に無症状または軽症の若年者が知らず知らずのうちに感染を広げていると指摘されており、こうした方々への働きかけを強化してまいります」

「入院拒否は懲役刑」の感染症法改正や補正予算案の組み替えも議論に

また枝野氏が、入院などの措置に従わない陽性患者に懲役刑を含む罰則を科すとした感染症法の改正案に関し、「強制力を持たせる考えを全面否定するものではない」とことわった上で、「懲役刑まで設けようというのは到底容認できない。行き過ぎではないか」と質した。

これに対し菅首相は「個人の権利に十分配慮しつつ感染拡大の防止を図るために入院措置を拒否した場合には罰則の規定を設けるなどの改正を行うもので、与野党のご意見も伺いながら速やかに法案を国会に提出していく」と修正に応じる可能性に含みを持たせた。

そして枝野氏は第3次補正予算案の組み替えにより、GoToキャンペーンの追加予算を削除するよう求めた

枝野代表:

「年度末の3月31日までに感染症が収束することは残念ながら期待できません。特にGoToキャンペーンについて、年度内の追加予算を計上しているのはピント外れの極みであります。補正予算は感染症対策に集中したものへと編成し直し、少なくともGoToキャンペーンの追加予算は削除して、感染症対策に振り替えるべきです」

菅首相:

「3次補正予算においては病床の確保、雇用や事業の支援に加えてコロナ予備費を確保しておりGoToキャンペーン予算の組み替えを行わなくても新型コロナ感染症の拡大防止策に十分な予算を確保しております」

東京五輪開催のプランBはあるのか? 選択的夫婦別姓の議論も

枝野氏は40分間の質問の大部分を占めたコロナ関連の質問の最後に、東京オリンピック・パラリンピックの開催についての政府の姿勢を質した。

枝野代表:

「アスリートなど関係者の努力と期待を思えば、私も何とか開会したいと思います。しかし、ここまで目前に迫りながら、世界的に感染拡大が収まらない以上、希望的観測だけで走るのは、かえって無責任です。本当に実施や参加が可能であるかを、各国のオリンピック委員会や競技団体と協議するなど、万一の事態に備えたプランBは、どのように検討し、準備しているのでしょうか」

菅首相:

「東京大会については安全安心な大会を実現するためIOCや各競技団体とも相談しながら感染対策の具体的内容を現在検討しております。バッハ会長とも東京オリンピックを必ず実現し、今後とも緊密に協力することで一致しており、引き続き東京都、大会組織委員会、IOCと緊密に連携しながら準備を進めて参りたい」

このあと枝野氏はコロナ以外で、復興と原発事故の処理、脱炭素と脱原発、外交などについて質問し、選択的夫婦別姓導入については党議拘束を外しての採決を提案するなどした。菅首相は諸政策に関する従来の政府の方針を説明し、選択的夫婦別姓については「男女共同参画基本計画に基づいて国民各層の意見や国会における議論の動向注視しながら検討している」と述べるに留めた。

代表質問後、枝野氏は記者団の取材に対し、「残念ながら、総理の答弁、一つとして前向きのものがなかった。専門家あるいは自治体に責任も判断も丸投げをしているような答弁の繰り返しだった。当事者意識を感じられなかったことは大変残念だ」と語った。

一方、自らも質問に立った自民党の二階幹事長は、菅首相のこの日の答弁について「しっかり自分の所信をお述べになった」と評し、岡田官房副長官は、「しっかり説明し国民にご理解を頂きたいという菅首相の姿勢に添った答弁だった」と評価した。

枝野氏の提案型の質問は国民にどう響いたか

今回の質問を通じ、枝野氏は提案型をアピールし、結びには「自己責任から支え合いへ、あなたとともに力を合わせ、感染症と闘い命と暮らしを守る政治へ」と訴えた。終了後には「次の総選挙の公示の日には、政権の選択肢と認めていただけるようにしていく責任を負っている」と意気込みを語ったが、国民にどのように響いただろうか。

4カ月前に立ち上がったばかりの新たな立憲民主党は、衆院選までに政権を担うに足る政党と多くから認知される域に到達できるのか、求心力の低下が指摘される菅政権ともども、最大の正念場を迎える。

(フジテレビ政治部 大築紅葉)