阿武隈川流域でも…注目の「グリーンインフラ」

台風などによる相次ぐ大規模な浸水被害を防ぐため、今「グリーンインフラ」が注目されている。
「グリーンインフラ」とは、堤防やダムなどの人工の構造物だけに頼るのではなく、自然環境が持つ力を防災や減災に活用しようという考え方。

自然の力を防災・減災に活用「グリーンインフラ」
自然の力を防災・減災に活用「グリーンインフラ」
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例えば…京都市では、洪水対策として雨水をためたり、浸透させたりする機能を持った植樹帯を整備。また、福島県の沿岸部でも震災の教訓から、津波から命を守る海岸防災林を植樹するなど、各地で「グリーンインフラ」の取り組みが進んでいる。

東京大学客員教授・防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん:
「グリーンインフラ」と対立軸に、「グレーインフラ」という言葉があるんです。堤防などの構造物、コンクリートでできたものを言うんですね。「グリーンインフラ」というのは、私たちの身近にある自然とか生態系を防災・減災に生かそうという取り組みです。意外と新しくて、20年ぐらい前から欧米で始まっています

東京大学客員教授・松尾一郎氏
東京大学客員教授・松尾一郎氏

この「グリーンインフラ」は、2019年の東日本台風により大きな被害を受けた阿武隈川の流域でも、取り入れていく方針が盛り込まれている。

特に福島・郡山市が検討しているのが、治水の面。“治水”とは、大雨の際に上流から大量に流れてくる水をダムなどで一時的にためこみ、下流に流れる量を調整し、洪水を防ぐというもの。

これを身近な「田んぼ」を使って対策する。

「田んぼダム」で急激な水位上昇防ぐ

郡山市農林部農地課・和泉伸雄課長:
大雨が降った時に、まともに排水をすれば、下流域で浸水被害を引き起こしてしまうということで、こちらの装置を使って、ここに降った雨を一時的に貯留して、時間差をつけて排水する。下流域の浸水被害を軽減する狙いで設置したもの

田んぼの機能を治水対策に応用
田んぼの機能を治水対策に応用

福島・郡山市大槻町の田んぼで行われていたのは、“ダム”の実証実験。これは、「田んぼダム」と呼ばれるもので、水をためられる田んぼの機能を治水対策に応用することを目指している。

農家・永山博則さんは、2019年の東日本台風のような市内の広範囲にわたる浸水被害を防ぎたいと、実証実験に協力した。

2019年の東日本台風で広範囲が浸水被害
2019年の東日本台風で広範囲が浸水被害

永山博則さん:
この広大な田んぼを全部貯水できれば、いくらかでも水害は減るとは思うんですけども

すでに、山形県などでは活用が始まったという「田んぼダム」。
検討を進める郡山市が連携したのが、市内にキャンパスを構える日本大学工学部。その具体的な仕組みとは…

日本大学工学部 土木工学科・朝岡良浩准教授:
田んぼから排水路へ水を放流する際に、水の量を抑えることができる調整板になります。この板を設置すると、豪雨が起こった時に放流する水の量を抑えることができるので、田んぼに貯水することができます

田んぼの水を下流などに流す出口部分に、水の量をコントロールできる板を取り付けることで、一時的に雨水を貯留。ゆっくりと流すことで、水路や河川の急激な水位上昇を防ぐ。

「田んぼダム」の仕組み
「田んぼダム」の仕組み

日本大学工学部土木工学科・朝岡良浩准教授:
例えば逢瀬川の流域ですと、流域面積80平方kmくらいあるんですけど、それに対して20~30%ほど田んぼの面積が占めていますので、こういったエリアでは、田んぼダムの効果が期待できると考えています

朝岡准教授が福島・須賀川市で行った実証実験では、一定の条件を満たして機能すれば、浸水面積を約3分の2に減らせるというデータが試算された。堤防などのハード対策と比べると、効果は限定的だが、大きなメリットがあると考えている。

「日本大学工学部 水文・水資源工学研究室」提供
「日本大学工学部 水文・水資源工学研究室」提供

日本大学工学部土木工学科・朝岡良浩准教授:
堤防の整備、あるいは遊水地の用地確保など、時間がかかる点を補うという意味で、田んぼダムは期待できるという考え方になっています

しかし、1枚の田んぼで蓄えられる水の量は、約200~300mmほどのため、効果を最大限に発揮するには、多くの人の理解と協力が欠かせない。

「田んぼダム」は多くの人の協力が不可欠
「田んぼダム」は多くの人の協力が不可欠

郡山市農林部農地課・和泉伸雄課長:
農家の方々に少し協力いただくことで、下流の被害を少しでも軽減できればと。ご理解いただけるように進めていきたい

郡山市は今後も検討を進め、早ければ2022年春から本格的な運用に乗り出す計画。

“東京ドーム151杯分”の効果

この「田んぼダム」。郡山市によると、台風などの際に水をためる期間は、長くても1日程度ということで、稲の成長や収穫に影響はないという。

東京大学客員教授・防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん:
田んぼに降った雨は、水として田んぼに貯留される。川に流すことを少し遅らせることによって、下流への影響を少なくすることができる。例えば、福島県全ての田んぼを「田んぼダム」にすると約2億トン(1億8,720万トン)を貯められる。単純計算で、東京ドーム151杯分。部分的な取り組みしかできないので、大きな河川にはあまり効果はありませんが、小さな川ではちょっとした雨では冠水させない効果があると思います。

ーー2019年の台風では、小さな河川の氾濫で冠水する事例が相次いだ

東京大学客員教授・防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん:
田んぼも調整池も含め、そういう施設があればかなり効果があると思います

(福島テレビ)

福島テレビ
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