皆さんは「子ども用車いす」をご存知だろうか。
車いすというと、車輪を手で回して進むタイプのものを想像しがちだが、もうひとつ、介助人が押して進む「バギータイプ」のものがある。
今、Twitterでこの「バギータイプの子ども用車いす」に関するポスターが話題となっているのだが、まずはそのデザインを見ていただきたい。
「ご存知ですか?これはベビーカーではありません。」
「『ベビーカーを畳んで下さい』なんていわないで。これは小児用の介助型車いす(子ども用車いす)です」
こちらのポスターは、首都圏新都市鉄道が去年7月から、秋葉原駅からつくば駅までを結ぶつくばエクスプレスの20駅で掲載しているもの。
ポスターには「バギータイプの子ども用車いす」のイラストが描かれているが、このタイプの車いすがベビーカーと誤解され、「電車内では畳んでほしい」「ベビーカーに乗せずに歩かせないとダメ」などの注意を受けることがあるのだという。
確かに、ベビーカーとの違いを探してみるとなかなか難しい。
足を固定できるフットレストがついていたり、肘掛けの部分があるなどの差はあるが、一目見ただけではほとんど違いがわからないだろう。
SNS上では「子ども用車いす、初めて知った」「普段から車いすを見ていない人は間違えるかも…」などの声が挙がる一方、ベビーカーユーザーからは「ベビーカーは畳まなくてはいけないの?」と困惑の声もあり、話題となっているのだ。
首都圏新都市鉄道株式会社によると、そもそもこのポスターは国土交通省から「子ども用車いすの周知」に関する依頼があり、それを受けて作成したもの。
ベビーカーと車いすを見間違えたことによるトラブルは特別多いというわけではないが、「このようなポスターによる周知をすることで、お客様によりよい環境を提供していきたい」という。
首都圏新都市鉄道でも駅員間で特別な研修などは行っていないというが、この2つをすぐに見分けられるポイントはあるのだろうか?
ポスターの作成に協力し、「子ども用車いす啓発プロジェクト」などを行っている一般社団法人 mina familyにお話を伺った。
見分ける方法は「ほとんどなし」
――ベビーカーと車いすを見分けるには、どこに注目すればいい?
子ども用車椅子とベビーカーを見分けるポイントは、ほとんどありません。
車椅子の方がベビーカーよりも若干大きいということはありますが、最近では大きいサイズの海外製ベビーカーなども広く使われていることから、大きさでも判断することは難しいと思います。
――車いすがつけなくてはならない“マーク”のようなものもない?
必ずつけなくてはいけないというものはありません。
「こども車いすマーク」というものがあり、購入する方の中には「電車などでいやな思いをした」という方もいらっしゃいますが、電車の中ではマークをつけていても、街中では外している、というケースもあります。
また、一目で「車いすだ」とわかって目立ってしまうことに抵抗があり、あえてベビーカーと似たデザインにしているという方もいらっしゃいます。
mina familyによると、子ども用車いすとベビーカーを見分ける手段は、ほぼ無いという。
子ども用車いすは医師の処方・指示に基づき、使用者の症状に合わせて機能を追加し、オーダーメイドで作るのが基本。
しかし、ほとんどカスタムしていない状態の車いすはベビーカーとほぼ変わらない見た目ということで、見分けるのは非常に難しいそうだ。
そのため、mina familyでは2016年6月に「こども車いすマーク」を独自に作成。
これらを通じて、子ども用車いすの存在を周知する活動を行っているのだという。
これらのマークに使用義務はないというが、他にも「バギータイプの車いす」を示すマークなど、様々な団体が独自にベビーカーと子ども用車いすを見分けるためのマークを作成。
しかし、まだまだ周知度は低いのが現状だ。
交通機関などの“ベビーカーの利用法”に誤解も…
ちなみに、「電車内のベビーカー問題」は度々議論になっているが、公共交通機関などにおけるベビーカーの利用に関しては、平成26年に国土交通省が「ベビーカーを安心して利用できる」ことをあらわす「ベビーカーマーク」を導入。
混雑時などには畳んでもらうこともあるというが、このマークのある場所や設備では、基本的には子どもをベビーカーに乗せたままの乗車が可能となっている。
首都圏新都市鉄道でもこのルールに則っており、話題となったポスターがベビーカーを畳む前提に作られているものではないということを付け加えておきたい。
ポスターに対して「ベビーカーなら必ず畳まなくてはいけないということ?」という疑問を投げかけているユーザーも見られたが、子ども用車いすへの誤解は、ベビーカーの利用法への誤解からも繋がっているのだろう。
首都圏新都市鉄道ではこのポスターを通じ、「鉄道をご利用される全てのお客様同士に互いにご理解・ご協力が得られるような環境づくりを進めていければ」とコメントしている。
子ども用車いすの利用者の中には、「これは車いすです」と一目でわかってしまうデザインを避ける人もいるということで、まずはベビーカーと見分けることよりも、多くの人が「子ども用車いすの存在を知る」ことが大事なようだ。