北海道池田町が独自に開発したブドウ品種「山幸(Yamasachi)」が国際ブドウ・ワイン機構(OIV)に登録されたと通知されました。甲州、マスカットベーリーAに続き、日本で3番目の登録です。十勝ワインが約半世紀をかけて育種した山幸のストーリーをお話しします。


十勝ワインは日本初の自治体ワイナリーです。現在も町直営で経営しています。北海道十勝地方は夏が短く、厳しい冬が訪れることで知られており、おおよそ果樹栽培に不向きな土地といえます。主な作物は小麦や豆類、甜菜、ジャガイモで、寒さに強い穀類が中心です。そんな土地でどうしてブドウを栽培することになったのでしょうか。池田町は1952年に第一次十勝沖地震、1953年、1954年と2年連続の大冷害に見舞われました。極度の財政赤字に陥り1956年、「財政再建団体」に指定されています。町の倒産とよばれていることから、大変厳しい状況だったことが分かります。農業が主力産業だった池田町には税金が入ってこず、当時、ミシンがある家庭や犬を飼っている家庭にミシン税や犬税をかけたというエピソードが残っています。それほど町の財政は危機的だったといえます。一反(10a)の畑でざる一杯の小豆しか採れなかったという記録もあり、ミシン税や犬税が支払われることはなく、町は財政再建団体に陥ってしまいました。


この時、町長に当選した丸谷金保(まるたに かねやす)は町をめぐりながら、山に自生しているヤマブドウをみて「秋には山野にヤマブドウがたわわに実るのだから、冬の厳しい池田でもブドウ栽培ができるはず、ブドウ栽培が実現すれば、農業所得のアップにつながる!」と地域と地域の産業を救うため、ブドウ栽培を町内の若手農業者とともに開始しました。しかし、自然のヤマブドウは定着せず、山梨などから導入したブドウ40品種5000本の苗木が、十勝の厳しい冬の寒さですべて枯れてしまうなど苦難を重ねました。


その後、十勝ワインでは「焦らず、慌てず、諦めず」を合言葉に試行錯誤を繰り返し、導入品種の中からわずかに残ったセイベル13053を選抜育種し、清見と名付けました。清見は北海道十勝の短い夏でもみのり、熟してくれるブドウでした。これをワインにすると、とてもおいしく、フルーティーな味わいになりました。清見は黎明期から十勝ワインを支え続けるビンテージワインに成長しました。清見は成熟期間が短く、ブドウの生育に適した温度帯で90日程度で糖度がのり、成熟します。通常のワイン用ブドウは約120日間必要だと言われていますから、熟すための期間が約ひと月短くて済む早生品種です。清見は、夏が短い十勝のワイン用のブドウとして、今も君臨していますが、欠点があります。十勝は雪がとても少ない地域です。畑の土がみえる年もあるほど積雪がありません。冬になれば、零下20度を下回る日も珍しくなく、乾燥した冷たい風が吹き付け、ブドウを枯らしてしまいます。越冬のためには、コートのような役割をする雪の代わりに土を被せる必要がありました。土は雪と異なり、春になっても解けないため、ブドウを掘り出してやらなくてはなりません。その際、木を傷つけることもあり、そもそも、春の農作業が忙しい時期に重なるため、農家に嫌がられる作業でもあります。


そこで、土に埋めなくても厳しい冬を耐え、短い夏でも十分に熟す性質を得ようと、地域に自生するヤマブドウと「清見」を掛け合わせる交配を1972年に始め、現在までに21000種類を超える交配を重ねてきました。ワイン生産のためのブドウ品種は収穫量が多いこと、そのうえで、高い糖度と豊かな酸を備え、醸造した時においしいワインになる品種を選抜しなくてはなりません。21000種類もの交配品種のうち、ワイン販売にまでこぎ着けたのはたったの2品種で確率は0.01%、そのうちの1つが「山幸(Yamasachi)」です。山幸は清見に比べ、成熟する期間が長く、十分に糖度が高くなり、ヤマブドウ由来の豊かな酸が醸し出す、野性味あふれるおいしい赤ワインになります。さらに冬季間、埋めずに済むことから、樹が健全に育ち、作業性も大幅に改善しました。


こんな風に苦労して育種した山幸ですが、個性的な味わいなどが影響したのか、知名度がいまひとつです。「さんこう」「やまゆき」「やまこう」などと呼ばれてしまうことさえあるほどです。そこで私たちは、山幸の国際的な認知度向上と存在感を増すため、今回のOIV登録を目指し、このほど登録されました。


この登録をきっかけに、ブドウ栽培や醸造技術に磨きをかけ、広大なワインワールドで評価を確立できるよう努めます。そして、地域の財産として山幸が広く普及し、世界中の人に飲んでいただくことで、十勝の、そして北海道の農業あるいはワイン産業を盛り上げる一助となることでしょう。


池田町ブドウ・ブドウ酒研究所 所長 佐野 寛




行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ