大手コンビニや飲食チェーンが営業時間の短縮を検討する中、長年24時間営業に取り組む老舗商店がある。人手不足、働き方改革が進むなか、大手と比較すれば少ないマンパワーで運営していることは間違いないが、なぜ24時間営業を続けられ、どこに続ける理由があるのだろう。

話を聞くべく訪れたのが、東京江東区・東陽町にあるベーカリー「モンシェール」。高級デニッシュ食パンの老舗として知られ、千葉や埼玉をはじめ栃木など関東近郊からも買い求めにくるという。味の評判もさることながら、365日24時間営業の異色のパン店としても知名度を上げてきた。

工場の24時間稼働のついでにはじめた販売

東京メトロ東西線東陽町駅から徒歩約5分、ごく普通の住宅街を歩いたところにモンシェールはある。デニッシュ食パン専門店として1995年に創業。都内には、ほかに銀座の博品館1階で店舗営業を行っている。デニッシュ食パン以外のパンは製造していないというから筋金入りだ。

近くまで来るとバターの甘い香りが漂ってくる。外から中を見通せるオープンエアーな工場では、生地練りから焼き上げまで、さまざまな工程を5人ほどの従業員が分業。入り口のわずかなスペースで販売を行っている。

ベーカリーというより、工場がメインで売り場はおまけ、といった様相。ただ、売り上げは「銀座博品館」をはるかに上回っているという。では、なぜ工場で販売することになったのだろう。工場長の阿部慎也氏が答えてくれた。

工場長・阿部慎也さん

「もともと販売スペースはなく、ただの工場でした。銀座博品館に納品するためだけのパン工場だったんです。直売を始めたのは、10年ほど前のこと。近所の方から『ここで一本買えませんか?』という声をいただいたのがきっかけです」

以来、工場でパンを作るスタッフが販売も担当するようになったという。入り口にある売り場テーブルの上の呼び鈴を鳴らせば、店員が工場から出てきて対応するスタイルだ。

「お客様の来店が落ち着く時間帯もあれば殺到することもあるので、対応が難しくなることもありますが、あくまで工場での仕事の延長として接客を組み込んでいます。年末年始、ゴールデンウィーク、お盆は混雑しますね。

とくに大型連休中は帰省する際のお土産にうちのパンを買っていく方が増え、5本10本まとめ買いされるケースが多いので、かなり忙しくなります」

深夜にはタクシーの運転手も

肝心の24時間営業になった理由を尋ねると「何となくの流れ」だそう。

「パン生地を練って袋に入れて売るところまで、8~10時間ほどかかります。お昼に納品するためには、夜中に生地を仕込まないといけません。ピーク時には1日1000本ほど売れますので、作り続けないと間に合わなくなりました。気づいたら24時間の操業になっていたのです」

工場が24時間稼働しているため、「需要があれば」と販売も24時間通して行うことに。現在の営業スタイルは計画的に決めたわけではないそうだ。

「ただ、24時間営業していると、朝しか買えない人、深夜にしか買えない人、本当にさまざまだなということに気づきます。深夜はタクシーの運転手さんもいらっしゃいますよ。職種によって買いに来る時間がばらばらで、そういう人の声に合わせていくには24時間を継続していくのが一番かなと思います」

ベテランがいてこその24時間営業

工場の売り場で購入できるのは、プレーン(980円/2斤)と日替わりメニューのみ。あんこデニッシュやチョコ、メープル、シナモン、カスタード、季節商品などのフレーバーデニッシュ(1130円〜1300円前後/1.5斤)は予約制だ。

通常の食パンよりも割高だが、デニッシュだけで勝負しているとあって、材料選びから製造にいたるまで細部にこだわっている。

「小麦粉やバターなどの材料は、同業他社とくらべてもワンランク上の厳選したものを使用しています。また、オール機械ではなく、生地練りから成形まで人の手を加えています。その日の気温とか生地の状態を見て微妙に作り方を変えるので、ある程度の経験が必要です。

現在、工場にはアルバイト含め24人ほど従業員がいますが、なかでもパンの命でもある生地練りに携われる人は、6人とわずか。24時間のうち、この6人の誰かが必ずいないと、製造がストップしてしまいます」

そうした状況において、目下の課題は人材の確保だという。

「僕がモンシェールで働きはじめてから7年ほど経ち、人も随分入れ替わりましたが、結果的に残ってくれているのは昔から勤めている人たちです。そのため、活躍している従業員の年齢層が60代と高い。

5年後、10年後を見通したときに、若い力を探して育成しないといけません。常に募集はしていますが全然集まらないですね。やはり体力も使いますので、いまの若い人には敬遠されるのかもしれません。ただ、人材との出会いがあってこその24時間営業。本当に美味しいものを届けたいという軸がぶれたら意味がないですから」

利益追求からではなく、美味しいデニッシュを作り、それがたくさんの人に求められた結果としての24時間営業。注目すべきは、この営業のスタイルが他店にはない“個性”になっているところだ。

大手同様に人材確保の問題はあるが、モンシェールの事例には小規模商店が24時間営業を成功させるためのヒントがありそうだ。


取材・文=末吉陽子/やじろべえ