ハレの日の写真なのに…

2月、東京都内の児童養護施設に、成人した卒園者の姿があった。

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女性が着ている渋めのピンク色の着物。ボランティア団体「イチゴイニシアチブ」代表の市ヶ坪さゆりさんが、自身の成人式に着用したものだ。飾りは、美容師のメンバーがこの日のために作った。

袴を着た男性は、普段は電気工事の仕事をしている。人生初の着物。久しぶりに会った職員に「似合っている」などと声をかけられ、うれしそうな表情をみせた。夢は小説で食べていくことだと言ってはにかんだ。

「ハレの日の写真なのに、この写真には顔が写っていない。この違和感から、今の日本が抱える問題を考えてほしい」と市ヶ坪さんは語る。

着付けや写真撮影には、時間もお金もかかる。レンタルや髪のセットなど20万円ほどが相場とも言われる。児童養護施設では費用の問題や、職員が日々の業務に追われていることなどから、そうした人生の通過儀礼のお祝いになかなか手が回らない実情がある。

市ヶ坪さんたちは、児童養護施設の子どもたちの誕生日や七五三、卒園者の成人のお祝いで記念撮影などを行っている。カメラマンや、美容師、ファッションデザイナーなど、いずれもその道のプロばかり。化粧品やファッションのPRの仕事をしていた市ヶ坪さんの声かけで集まった。

メンバーの私物や寄付で集められた着物、手作りの髪飾り、本格的なメイク道具で、ハレの日の演出を行う。

施設が抱える問題…定員、職員の負担

児童養護施設は戦後、戦争孤児を受け入れるためにつくられた施設が多い。いま児童養護施設に入る子どもは、虐待やネグレクトなどによって家庭で育てることが困難と判断されて、来ているケースがほとんどだ。

厚生労働省によると、児童虐待の相談件数は年々増加し、2015年度に全国約200ヵ所の児童相談所で対応した件数は、約10万件で過去最多となっている。児童虐待の事件報道等によって意識が高まって相談が増えた面もあるが、望まない妊娠や、離婚、一人親家庭の増加などによる経済的な事情から虐待につながるケースも指摘される。

児童養護施設と職員のニーズは増えるものの、対応は追いついていないのが現状だ。職員の負担は重くなる一方で、その負担の重さから職員が定着しにくいとも言われる。延長申請すれば18歳以降も施設にいられる制度があるのに利用する子が少ないのは、施設に入るのを待っている子どもの存在が少なからず影響しているという。

一人暮らしでは、施設にいる時と違って何か問題を抱えても、近くに相談できる大人がいなくなってしまう。本来頼りにできるはずの施設の職員も定着しにくいため、顔見知りがいなくなり、疎遠になってしまいがちなのだという。

「どうせ自分なんて、と自己評価が低い子が多い」とある施設関係者は言う。こうやって負の連鎖が続くケースも少なくない。

虐待をなんとかしたい

虐待事件のニュースを耳にし、「憤りを覚えた」と振り返る市ヶ坪さん。何か支援できることはないかと、ある児童養護施設に電話をかけたのだという。

「最初はケーキを届けたいと言いました。知らないおばさんから祝われても気持ち悪いと思うだろうから、ケーキだけ渡して施設の職員や、仲間たち、心許せる人だけで祝う機会を提供したいと考えたんです」

それを聞いた施設長は「ケーキの支援は、すでに企業などから支援いただいている」と言った上で、子どもたちを祝う方法を一緒に考えてくれたという。
 
「生活支援や教育支援は他にもあるだろうから、楽しい時間を少しでも提供したい」と、誕生日を迎える女の子にネイルやメイクをすることからスタート。その後、支援先の施設を徐々に増やし、七五三や成人のお祝いと活動を広げていった。

児童養護施設は、様々な事情を抱えている子が多いため、いきなり連絡してきた外部の人間が中に入るのは容易ではない。しかも、プロのヘアメイクやカメラマンなど、多くの人が施設を訪問するという提案は、本来受け入れにくい。しかし、一人ひとりを祝うことで、集団生活でなかなかできていない
“その子だけの支援”ができるということで実現したのだという。

着物は背中で魅せられる

成人のお祝いをするようになったのは、ある施設の職員から「卒園後の様子が心配な子がいる」と言われたことがきっかけなのだそう。成人のお祝いには、施設に来るきっかけづくりという役割があるという。

「写真撮影の後、卒園生と職員が一緒にご飯を食べて、何気なく今困っていることについて話ができたそうです。それをきっかけに、生活保護の申請を一緒にしに行ったそうです。書類って結構大変ですよね」

この日、写真撮影をした施設では、施設を出た後のケアを担当する職員がいて、誕生日に「おめでとう」とメールで送るなど定期的に連絡をとっているという。職員は「気にかけている、相談に乗る職員がいるということを伝えていく。そういう関係性を作れることが大事」と語った。

本人に渡す写真には顔が写っているが、対外的に見せる写真は、顔が写っておらず、場所が特定できないものにすることが多い。

様々な事情を抱えている子、施設出身者というだけで世間から特別な目を向けられるのではないかと感じる子どもがいるからだ。「子どもたちが抱える問題を知ってほしいと思う一方で、子どもたちを守るために、公に見せることが難しいというジレンマが現場にはあります」とある施設の関係者はいう。

「着物は背中で魅せられる。それに気付いたのです。せっかくのハレの日に、きれいな着物を着せてもらって、みんなに祝って貰っているのに、なんでこの子たちの顔を見せないのか。この違和感から考えてほしい」と市ケ坪さんは訴える。


(執筆:editors room)