銀座の歴史や人を振り返り、若者が集まるスポットや企業の銀座出店について見てきたが、銀座といえば、飲食店の激戦区。高級クラブや老舗の料理屋など、ハードルが高いイメージもあるが、最近では、少し裏手に行けばせんべろ的な飲み屋やリーズナブルな店も増えてきたような気がする。

銀座の飲食店を取り巻く環境は、どう変わってきたのだろうか? 本特集ラストとなる今回は、その変化について、銀座に居を構える飲食店の大将に話を聞いた。協力してくれたのは、並木通りに面したビルに店舗を構える、ミシュラン二つ星の名店・「てんぷら 近藤」の大将・近藤文夫さん。

老舗が減少する一方で低価格の店が増加
銀座進出の理由は企業のブランディング?

銀座の飲食店の変化について話を聞く前に、近藤さんのプロフィールについて、少し説明しておこう。

近藤さんは、山の上ホテルで20年ほど料理長を務めた後、1991年に現在の「てんぷら 近藤」をオープン。20年以上も銀座の地で、第一線で活躍している。そんな銀座のベテラン大将は、現在の銀座の飲食店事情について、まず次のように話す。

「昔の銀座に比べると、低価格のお店も増えてきたように思います。銀座って、以前はすごく高級なイメージがありました。しかし、そういった高級店は少なくなってきたし、安いお店がどんどん出店してきています」

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どうして低価格のお店が増えてきたのか。若い人が増えたから? 外国人観光客が多いから?

近藤さんは、そのどちらでもなく、「銀座」というブランドが一因ではないかと分析する。

「銀座って、見た目よりもなかなか大変な場所なんですよ。銀座で成功する店は少ないし、低価格なものが入ってきてもなかなか繁盛しない。その上、家賃も高い。それなのにどうして銀座を選ぶのかというと、やはり、銀座に店を持っているという『ステータス』だと思います。ゴミひとつ落ちてなくて、安心感がある。他の場所とは、異質なのです」

料理人なら誰でも憧れる「銀座」という「ステータス」。それを求めて参入する店は少なくないが、その多くは長く続かないという。そのため、銀座に出店するというのは、かなりの覚悟が必要になる。そんな状況でありながらも、低価格な飲食店やチェーン店などの銀座参入が続くのはなぜか。

「銀座に店を持っているという『ステータス』は、大手の企業にとって、名前をさらに知ってもらうチャンスです。最近は、若い人でも気軽に銀座に来るようになったし、外国人観光客も増えました。やはりそういう店のほうが入りやすいものです。そういった客層をターゲットにしている部分もあるかとは思いますが、採算を度外視しても、たった一度でも銀座に出店するだけの価値があるということではないでしょうか」

銀座の飲食店で成功するのはたった1割!?
「安い」「おいしい」だけじゃなく「プラスα」を

とはいえ、「採算度外視の出店」というだけでは、なかなか続けられないのが銀座。当然の話だが、続くか続かないかは、その店次第だ。

「特に老舗飲食店は、高級路線だけでやっていくのは難しい時代です。価格の問題ではなくて、『良いもの』でなければ成り立ちません。しかし、安ければ何でもいいというわけでもありません。『あそこおいしかったね』は当然のこと。それにプラスして、『来てよかったね』と思えるような店が続くし、それを求めてくるのが銀座のお客さんです」

近藤さんは「老舗といわれる店も、うちの店がオープンした当初と比べてかなり減った。銀座の飲食店はずいぶん変わったと思います」とも話す。

「銀座の飲食店でダメになるのは、『これを作りました』と、同じものだけ、何も変えずにずっとやっているところ。絶えず進化していかなければいけません。私は、銀座は食べ物の『発祥の地』だと思っていて、それは例えば『ニンジンの天ぷら』とかでも、基本的なルールは守りつつ、そこから何かを生み出すことが重要です」

多くの飲食店が、近藤さんがいう「進化」をせず、潰れていった。進化をさせないというのは、言い換えれば「こだわりが強い」ということでもあるのだが、飲食店は客商売。こだわりばかりを貫いていては、客は寄り付かない。近藤さん自身、オープン当初は周囲の人から「銀座で成功する人はたったの1割だけ」とくぎを刺されていたそう。安いだけではダメ、ましてや高いだけでもダメ。そしておいしいだけではダメ。銀座という街は飲食店業界にとって、文字通り「激戦区」なのだ。

飲食店の激戦区・銀座で長く続くコツは?
年齢・性別・国籍は違えど「おいしい」は共通

そんな飲食店の激戦区・銀座で、長年店を続けている「てんぷら 近藤」。銀座の街に訪れる客層の変化はあるが、その変化に合わせて店の何かを変えたというわけではないそう。話を聞くと、その秘けつは、「長い目で見た経営」にありそうだ。

「当時、『天ぷら』というものは、寿司やラーメンに比べ人気が低かったのですが、特に若い女性は、天ぷらは親父が食べるもので、油っぽいし胸焼けする、カロリーが高いと言って、毛嫌いしていました。そういう女性をターゲットに、『本物の天ぷらを食べてもらおう』という想いで始めました。はじめは『なんで味もわからないような若いお客を入れるの?』と言われることもありましたが、当時の20代は今や40~50代。本物の味がわかるお客さんが育ってきたのです。年齢層が高い人ばかりを相手にやっていると、その層がなくなったら潰れてしまいます。そのため、若い層も加えて、ぐちゃぐちゃでやっていかないと、続けていくのは難しいと思います」

「年齢や性別にこだわらず、誰でも気軽に」という点では、老舗よりもチェーン店や新しいイマドキの店のほうが向いている。こうしたことも、低価格帯の飲食店が銀座に進出していく理由のひとつと言えるだろう。

「昔は、お金がないと入れないとか、若い人はダメとか、厳しい店もありました。しかし、銀座は、本当はそんなに煙たいところではありません。海外の人もそう。食べ物は世界共通ですので、言葉がわからなくても、おいしいというのはわかる。おいしいものはおいしいのです」

若い世代や外国人の来店にも、積極的な近藤さん。海外のお客さんは、リピーターも多いという。残念ながらすでに閉店してしまった老舗店の店主たちも、「若い人は味がわからない」などと言わず、広い世代を受け入れていたら、まだまだ現役で店をやっていたかもしれない。

最後に、銀座全体の飲食店に対する思いについても聞いた。

「銀座には、例えば、うちなら天ぷらですが、ワイン専門店や日本酒専門店と、専門店がたくさんあります。たくさんの専門店がそろっているから、それぞれの店に行ってほしい。ワインが飲みたいならワイン専門店、てんぷらが食べたいなら近藤といったように。そうすれば、どこかの店だけでなく、銀座全体が元気になりますから」

昔は高級クラブや老舗が台頭していた銀座も、時代に合わせて変化してきている。「銀座の飲食店は入りづらい」「そもそも銀座の街に行くのは気が引ける」、そう思っている人は、一度行ってみればきっと印象が変わるだろう。

銀座は、勇気を出していく場所ではなく、行きたい時に行っていい場所なのだから。


取材・文=明日陽樹/考務店
取材協力
てんぷら 近藤