2008年のリーマンショック以降、銀座の高級ブランドは苦戦を強いられ、より生活に根付いたファストファッションが参入し始めた。それは数年経った今でも変わらず、衣料品店だけでなく、様々な分野の店舗が目立つようになった。お手頃価格で商品を購入できる「ニトリ」「LOFT」などもその一例。これらのブランドはなぜ、これまでのブランドイメージと相反する「高級」なイメージが強い銀座に出店を決めたのだろうか。それぞれ、銀座で勝負するための戦略を聞いた。

銀座での大繁盛はまさかの出来事だった!?
消費者意識の変化を見逃さなかったニトリ

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まず話してくれたのは、「お、ねだん以上。ニトリ」のキャッチフレーズでおなじみの株式会社ニトリホールディングスで常務取締役・総合企画室室長・広報部マネジャーを務める、玉上宗人さん。

ニトリでは、銀座をはじめ渋谷や新宿、池袋といったターミナル駅など、都市部に続々と出店。これまでは、郊外にあるイメージがあったが、なぜ今、都市部への出店を決めたのだろう?

「おっしゃる通り、これまでは郊外のロードサイドの店舗を中心に展開していましたが、『ニトリ』という名前を知っていても、行ったことがないというお客様が大勢いらっしゃいました。加えて、『ニトリ』=『安い家具屋』のイメージも長く続いていて、わざわざ車を使って時間をかけて郊外にある店舗まで来ていただけるお客様は限られていました。

わが社としては、それなりに商品を良くしてきたという自負があります。もっと幅広いお客様に来てもらいたいし、商品を見てもらいたいという想いは当然ずっとあり、駅前や駅近にある車を使わずとも気軽に行ける都心出店は狙っていました。そのタイミングでプランタン銀座(現・マロニエゲート)のテナントが空くから入らないかという話があり、『いきなり銀座か…』という気持ちもありましたが、『ダメ元でやってみるか』となったのです」

玉上さんは、「銀座店の出店はチャレンジだった」と話すが、そのチャレンジは見事成功。銀座店を出店する際、オープン前のメディア向け内覧会には35社、100人以上の報道陣が駆け付け、「銀座にあのニトリが...?」との意外感なども相まって一気に注目の的となった。

その副次的効果か、その後も都市部などの百貨店やビルオーナーからも出店のオファーが相次いだ。そして、港南台タカシマヤ、新宿タカシマヤ、東武池袋、渋谷など立て続けにターミナル駅周辺に進出した。

ここまでの話を聞く限り順風満帆なようにも思えるが、銀座店の出店当初は「やはりハードルが高く、銀座はなかなか難しいだろうから売れなくてもいい。とにかくプレゼンテーション重視で、『ニトリもこれだけできますよ』という店舗づくりがコンセプトでした」と、玉上さん。どうやら、銀座店のヒットは予想外のことだったらしい。

「郊外型の店舗と比べ天井が低いためゴンドラを少なくしたり、少しでも売り場の見通しがよくなるようにしたり、什器については随分変えました。また、同じ商品でももっとよく見える見せ方はないか、光の当て方はどうかといったプレゼンテーションのやり方も変えました。品揃えについても弊社の売れ筋の低価格帯商品はカットして、ニトリの中では若干高めの中価格帯商品を揃えるようにするなど、意識したところはたくさんあります」

そういった努力の甲斐もあり、ポイントカードの入会者数は増加。車を持っていない人や比較的若いカップル・夫婦、さらにはニトリを敬遠しがちだった50代や品質にこだわる人など、客層は広がったそう。「客層の拡大の大きな転換点は銀座店」と玉上さんはいう。

また、玉上さんは「銀座の価値観が変わったというより、消費者の価値観・意識が変わった」と分析する。

「日本は昔から高い物を買うことが豊かで、デパートや百貨店で買うことがステータスという意識がありますよね。しかし、大半の消費者の心理として、日常使いの物は品質さえ良ければ、安い方がいいという意識が芽生え始めたのではないでしょうか。簡単に言うと、『お金の使いどころを選ぶようになった』ということです。例えば、ソファにこだわりたい人は、ほかの出費を抑えて数十万円のソファを買うし、車が好きな人はほかのところではコツコツと節約して高級車を買う。より合理的な考え方に変わったのだと思います」

有楽町と銀座、距離は近くても大違い!
銀座ならではに対する“ロフト流”の対策

続いて、6月23日、銀座二丁目の並木通り沿いに「銀座ロフト」をオープンさせたばかりの株式会社ロフト。オープンして間もない「銀座ロフト」の館長・藤野秀敏さんに話を聞いた。

まずはじめに聞いたのは、「なぜ銀座に出店したのか」。

「現在、ロフトは全国各地に107店舗(10月3日現在)あります。地方のショッピングセンターなどにも出店しており、地元の人にとっては利便性が高いかもしれませんが、裏を返せば『リーズナブルでどこにでもある庶民派ブランド』でもあります。

しかし、今後さらに店舗数を拡大していくことを考えた時に、このまま“庶民派ブランドの雄”になりたいわけではありません。弊社はSPA(製造小売業のこと)ではないため、限界が来ます。そこで、重要なのが『ブランディング強化』。企業のブランディングを高めるためには、一等地への出店が不可欠。だから銀座なのです」

なるほど、ブランディング強化のために銀座に出店とはなんとも単純明快だ。

とはいえ、ついこの前まではすぐお隣の有楽町に店舗を構えていたロフト。そこまで大きな変化はないようにも思えるが、「銀座と有楽町ではまったくの別物です。私たちも、有楽町とは徒歩4分くらいしか離れてないので、てっきり有楽町に来店されているお客様にご来店いただくと思っていました。しかし、実際はまったく異なり、面食らっている状態です…」と話す藤野さん。「来店客層の変化」が一番の驚きだったという。

「有楽町は、例えば渋谷や新宿、池袋と一緒でいわゆるターミナル駅です。近隣には企業があり、商業集積地があり、少し歩けば住宅地もあります。仕事や学校、遊びに行った帰りにフラッと訪れやすい街ですよね。そのため、30代のビジネスパーソンが中心で、有楽町店のピークの20~21時になると仕事帰りのビジネスパーソンでごった返していて、当初21時閉店だったところを30分繰り下げたほどでした。乗り換えのタイミングや電車に乗る前にちょっと寄るというお客様も多くみられました。

一方、銀座には地下鉄しか乗り入れていません。買い物や食事といった『目的をもった人』が訪れる街。そのため、そもそも買い物や食事という目的だけにゆっくりと時間をとれる人が多い。そこが全く異なります」

ロフト全体の平均客層は30代のビジネスパーソンやさらに若い年代の学生が中心。しかし、銀座店ではロフトターゲット層の来店中心ではなく、正確なデータではないが、おそらく平均は40代とのこと。ほかの店舗よりも10歳ほど高い。またこの微妙な客層のズレは、買い物の仕方にも変化をもたらしているそう。

「例えば渋谷の女子高生は、明日学校で自慢するシールとか文具を買いに来店します。慣れているのでシールがどこに売っているかを知っていて、ただ買って帰るのでその売り場しか見ません。しかし、銀座店の場合はわざわざ来ているので、『せっかく来たから6Fまであがって全フロアまわりながら降りていこう』という方が多く、そのうちに『こんなのもあるんだ』『買ってみよう』と、複数買いになるケースが多い印象です。

実際、銀座店はオープンしたばかりですが、ひとり当たりの買い上げ単価は全店1位。狙っていたわけではありませんが、結果的に客単価は高くなっています」

このように、客層が変われば、買い方も変わる。銀座店だからこそ意識した店舗づくりを聞いてみたところ、「全部です。これまでの店舗とはまるで違います」と藤野さん。

「品揃えや売り場の環境、商品のゾーニング、接客まですべて変えました。フロアごとに扱っている商品が異なるので、それぞれのトーンに合わせています。フロア構成や商品構成に合わせて什器の色も変えているので、効率は悪くなりました。

とはいえ、それはマイナスの意味ではなく、これまでは多店舗化するにあたって効率重視でしたが、銀座店は“質の強化”に力を入れています。多少価格帯の高い商品もいれていますが、ただ商品が効率よく並んでいるだけでは敷地面積1000坪の面白みや商品の良さが伝わらないどこにでもあるような売り場になってしまう」

銀座店ではフロアにスタッフを多めに配置。これまでの「自分で商品を探してカゴに入れてレジに行く」スタイルから、「何か困ったこと、必要なことがあればお声がけください」という“かゆいところに手が届く”的な接客スタイルに変えた。

また、銀座という街の特性上、「訪日外国人向けお買い物サービス」も当然強化しており、免税カウンターはもちろんのこと、9月末には3Fと6Fの2フロアに「外国人向けのサービスカウンター」を配置し、外国語でインフォメーションを行う「フォーリンカスタマーサービス」を開始した。これは銀座店が初めてとのことだ。

面白いことに、ニトリもロフトも銀座への対策として、商品のラインアップやその見せ方を工夫したという点では共通している。それらの施策は功を奏し、話しを聞く限り銀座への出店は好調のようだ。だが、両者ともそこに一喜一憂せず、早くも次のステップを見据えている。

ニトリはもうひとつの軸である、食器や収納、コスメといった生活雑貨などを多く扱う「デコホーム」の拡大やインターネットを活用した「ホームファニシング部門」の小型化。ロフトは会社となって22年。初期である20年前のフォーマットを銀座店などの実験的な店づくりの成功例をディフュージョンし、変えていくこと。そして名実ともに雑貨業界のリーディングカンパニーとなること。

銀座への出店が企業のさらなる飛躍のきっかけになることは間違いなさそうだ。


取材・文=明日陽樹/考務店
取材協力
・ニトリホールディングス
http://www.nitori.co.jp/

・株式会社ロフト
https://www.loft.co.jp/