「父の日」と言えば、お父さんに感謝をする日。

しかし、感謝されるほど、子どもたちに何かをしてきた自信はありますか?

頼りないながらも子どもと一緒に少しずつ「父親」として成長していく、“パパ目線の初めて育児”をテーマにした話題作『ヨチヨチ父』を描いたヨシタケさんが、「自分の父親」「父親になった自分」そして「あるべき父親像」について語った。

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夫から父になる きっかけも境目もない

現在、2人の男の子の父親であるヨシタケさん。父親になり、“父親”ということを意識し始めたことで、むしろ「父の日」というイベントに恐縮しているという。

「僕の小さい頃は、大それたことをした記憶はないですね。父もあまりイベントが得意な人間ではなかったので。父親になってお祝いをされる側になって、『自分は感謝されるだけのことをしているのかな』という戸惑いもあります。僕の誕生日が6月17日で『父の日』と近いので、お祝いは大体セットなんですよね」

ヨシタケさんの家庭でも「父の日」の存在感は薄いようだ。赤ちゃんが生まれた時を振り返ると、そもそも「父」という存在が曖昧だとヨシタケさんは考えている。

「父親になっても、身体的にも何も変わらない。自分が夫から父になる時って、きっかけもなく、はっきりした境目がないんです。僕はむしろ、妻が母になるという劇的な変化に戸惑いました

ヨシタケさんはさらにこう続ける。

「どう頑張っても赤ちゃんに対してお父さんはお母さんにはかなわないわけで、おっぱいもあげられないですし、お父さんにしかできないことと言ったら、お母さんのサポートしかないんです

赤ちゃんがしゃべり始めたら子育てが楽しくなる

「ヨチヨチ父」(赤ちゃんとママ社)

赤ちゃんの時代に「父親として感謝されるようなことをしていない」と思っても悲観する必要はない。子育てが面白いと感じられるのが「赤ちゃんが言葉をしゃべれるようになってから」という父親も多いという。

「僕も育児が面白いと感じるのが遅いタイプでした。生まれてすぐは何もできなくて、焦るのもわかるのですが、“赤ちゃんがしゃべり始めたら楽しくなる”とわかっているだけでずいぶん違うと思います。『生まれてすぐかわいい、かわいい』と思えれば、つらいことも我慢できるのですが、そう思えないとなかなか大変です」

母親が一番大変なのはわかっているものの、「優しかった嫁が一日中怒っている」とか「何を言っても怒鳴り散らされる」など、子どもが生まれたことによる嫁の変化に悩んでいる父親もいる。

「お母さんは自分の体調や育児への不安がイライラとなってお父さんにぶつける。じゃあ、お父さんは誰にぶつける?となるんです。そういった状態の中で、『1~2年経つと育児が楽しくなってくるよ』という話も残酷なのですが、少なからず救いになるはずだと思っています」

父親はちゃんと失敗と成功を子どもに見せること

「ヨチヨチ父」(赤ちゃんとママ社)

一番上のお子さんが10歳になり、父親歴も10年となったヨシタケさん。「感謝してもらうこと」が目的ではないが、子どもに対して何をすることが“あるべき父親”なのだろうか。

「ちゃんと『失敗』と『成功』を子供どもに見せる役割、だと思っています。僕は父と相性が合わずあまり好きではありませんでした。『あんな人になりたくない』と昔から思っていました。ただ、今になって振り返ると、僕の人格形成に大きな影響を与えています。『ああいう時にこんな言い方をしたくない!』とか思っていたことから、今の自分ができているので感謝しています」

好きではなかったはずのお父さんに対して、「感謝」という言葉が出た。ヨシタケさんのお父さんは10年前に亡くなったそうだ。

「親は『お父さんみたいになりたい!』と思ってもらいたくて頑張るけど、『ああいった人になりたくない』という反面教師のパターンもあると思うんです。親に言われたことで納得のいかないことは割と覚えていて、そこで『納得するかしないか』といった考え方の基準になることを作り上げるのが、一つの親の役目だと感じます」

世のお父さんたちに対しては、「お父さんはすごくモテた」や「頑張って今の地位を築いたんだぞ!」などの武勇伝を言いたい気持ちもわかるが、それと同じくらい「昔はこんな失敗をした」と伝えてほしいとヨシタケさんは考える。

「人間は完璧ではなく、得意なことや不得意なことがあり、それを持ち寄って集団生活をしている。世の中の面白いこと、楽しいこと、悲しいこと、辛いことは、全部そこから起きているんだよと教えることが大事だと思う。お父さんもお前も足りないところがあって、足りない部分を補ってどうにかやっていくものなんだよって」

そして、ヨシタケさんからふたたび「感謝」という言葉が出た。

「『毎日塾に通わされて嫌だった』などと思っていても、いつかは育ててくれた親に感謝せざるを得ません。最終的には自分は愛されていたんだってわかるんですよね。育て方に良し悪しはあるかもしれませんが、それは大人になってみるまでわからないのかもしれません」

「父の日」の存在感は少し薄くても、今はあまり感謝をされなくても、いつか子どもはわかってくれるはずだ。

取材・文=多古 海月

「ヨチヨチ父」(赤ちゃんとママ社)

プロフィール
ヨシタケシンスケ
1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。日常のさりげないヒトコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど、多岐にわたり作品を発表。
『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)で、第6回MOE絵本屋さん大賞1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。2児の父。最新刊「あるかしら書店」(ポプラ社)が現在発売中


(執筆:editors room)