ビジネスの現場では、常に謝罪しなければいけない事態と隣り合わせ。大失態を犯した時はもちろんのこと、例えばメールの返信が遅くなってしまった程度のことでも、日々、「申し訳ございません」と謝罪の言葉を口にしているだろう。これまで、多くの人々が謝罪で危機を回避してきたことと思うが、企業のトップたちはどうやってピンチをくぐり抜けてきたのだろうか? 

株式会社モダン・ボーイズ COO(最高執行責任者)で、『よい謝罪 仕事の危機を乗り切るための謝る技術』(日経BP社)の著者でもある、竹中功さんに話を聞いた。

お金よりも「相手のケア」を優先すべき
企業トップの“ダメ謝罪会見”とは?

まずは、これまでの企業の謝罪会見などを見て、見事ピンチをくぐり抜けた謝罪の成功例について聞こうとしたのだが、竹中さんいわく、「成功例と言われると、あまり記憶にない」とのこと。ただしそれは、記憶にないことが謝罪の成功とも言えるからだそう。そこで、反対にピンチをくぐり抜けられなかった事例を挙げてもらった。

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「2000年に起きた雪印集団食中毒事件の際の、雪印乳業(現在は雪印メグミルク)社長の会見や昨年のDeNAの会見は、うまくいかなかった例と言えるでしょう。特にDeNAの会見に関しては、“著作権”も大きな争点のひとつでしたが、著作権を侵害された人たちへの賠償よりも、自身の報酬を6カ月間30%カット(後に50%カットに拡大)するというお金の話が先でした。

一般の人にしてみれば、『そもそもたくさんもらっているだろ』と感じるし、何のお詫びにもなっていません。本来であれば、相手に与えた精神的な痛手をマイナスからゼロに戻すことが先決ですよね。精神的なケアもなく、『また一緒に協力して頑張ろう』『応援するよ』と思わせることもできなかった。この記事のテーマは企業のトップの謝罪ということですが、社長がやろうが現場の社員がやろうが、ここができなければ成功とは言えません」(竹中さん、以下同)

竹中さんが話すように、ここでの教訓は報酬や給与などの「自分事」ではなく、相手のケアを優先すること。しかも、DeNAのケースでは社長自らが会見を開き、それでも結局世の中が釈然としないままになってしまった。

「当然ですが、トップの上には誰もいません。企業のトップが失敗するということは、その後に挽回するチャンスを失うということでもあるのです。また、謝罪でどうこうしようというよりも、まずはリスクマネジメントをきちんとして、そもそも謝らなければいけない状況を作らないこと。謝罪が上手いとか下手とか、誰が謝罪するかではなく、謝罪しなければいけない状況が生まれてしまったことが何より大きな問題です」

理想は社長謝罪でなく現場による鎮火
責任や決定権のある人を出すべし

ここまで、企業の会見について見てきたが、もう少し規模を小さくして、もっと日常的なビジネスシーンでの話も聞いてみた。

「ビジネスシーンでは多くの場合、いわゆるヒラ社員が現場で頑張っています。そこで何かトラブルが起きた時、若い本人だけが謝罪をしても『お前の言うことは信用できない』となってしまうもの。ですので、私が指導する時には、『複数人で上司を伴っていくように』と言っています。まずはミスをした本人が頭を下げ、役職が上の人が頭を下げ、『管理を徹底します』などと発言して初めて信用できる謝罪になります。また、ある程度の決定権をもつ人間がいれば、比較的スムーズに物事が進みますから」

社長に限らず、ミスをした本人よりも役職が上で、ある程度の決定権をもつ人が一緒に謝罪に行くことで、さらなるトラブルを生まずに済むケースは多いという。しかし前述のように、社長=企業のトップが失敗したら、絶体絶命だ。なるべく最高権限をもつ社長にたどり着く前に、解決できるよう努力するほうが良いとのこと。

本人が100%現状把握する?
プロが考える謝罪のポイントとは

最後に、竹中さんがこれまで携わってきた「謝罪」の際、どんなことに気を付けてきたのかを聞いたところ、「何が悪くて、なぜ謝罪をする事態になったかを、当事者が100%理解すること」という。

「原因を作った本人が『なぜそれがいけないことなのか』『何が起きていて、どこが問題なのか』というのを理解できていない時が一番怖い状況です。先ほど、原因を作った本人だけでなく、その上司も一緒に謝罪をすべきだと言いました。上司という立場上、部下のミスのために頭を下げるという状況を、実際に味わったことのある人も少なくないでしょう。

しかし、裏方や周囲の人間だけが事実を把握するのではなく、本人が100%現状把握できていなければ、相手に誠意は伝わりません。本人が理解して謝罪しなければ、本当のお詫びは始まらないのです」

まず、あらゆる事態に備えリスクマネジメントを強化すること。それでもトラブルが起きてしまったら、相手のケアを優先すること。また、トラブルの原因になった本人がきちんと現状を把握すること。この3つのポイントを徹底していけば、いざという時がきても慌てずに対応できるはずだ。


取材協力
竹中功
https://www.mdnboys.com/

取材・文=明日陽樹/考務店