昨年は芸能人の不倫や政治家の失言、不正確な記事や著作権侵害などによる謝罪会見が相次ぎ世間をにぎわせた。その波は、今年に入ってもいまだ収まる気配はない。対応の仕方によって、無事に鎮静化するものがあれば、なかにはさらに炎上してしまうケースも…。

そこで、謝罪のプロにいくつかの謝罪会見を事例としてピックアップしてもらい、見習うべきポイントややってはいけないポイントを教えてもらった。

危機回避は謝罪の仕方次第で決まる!「悪い謝罪」例に見る謝罪のポイントは?

今回ご協力いただいたのは、『謝罪の作法』(ディスカバー・トゥエンティワン)の著者でコミュニケーション専門家の増沢隆太さん。増沢さんは、「前提として、私の中の『謝罪』というのは、あくまでもコミュニケーションの一環です」という。

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「お辞儀の角度や服装など、表面的なパフォーマンスも意味はありますが、謝罪は戦略的コミュニケーションのための手段です。謝り方さえどうにか工夫すれば、何とかなると勘違いしている人があまりにも多い印象がありますが、基本的には、謝ってもどうにもならないこともあります。例えば、『犯罪』は謝罪やお詫びして済むなんてことはありえませんよね。重要なのは、昨今の謝罪ブームに見られる、『不倫』などの道徳的には好ましくはないけれど、犯罪ではないもの。この“グレーゾーン”については、対応次第で危機を回避できるかどうかが決まります」(増沢さん、以下同)

では、“グレーゾーン”での謝罪対応に失敗したケースにはどのようなものがあるのだろうか? 増沢さんに、昨今の事例を挙げてもらった。

「一番わかりやすいのは、タレントのベッキーさんの例。本来であれば、これだけの時間が経って、世間の反応も『もういいんじゃない?』となっているはずですが、仕事の量が以前のようには回復していないのは、今もまだあの一件が尾を引き、世間が厳しい目で見ていることが影響しているからでしょう。

彼女の場合は、好感度トップの国民的タレントが、好感度とは真逆の行動をしてしまった。会見は、事務所の前でお話はしますが、質問は一切受け付けませんというものでした。また、『清純なイメージを維持したい』けど『仕事も続けたい』と、謝罪の目的を絞らず、全部やろうとしたことも良くありません。そもそも、個人的にはあれは謝罪になっていないと思っていますが…」

「悪い謝罪」の例を挙げてもらったが、どこをどう変えれば「良い謝罪」になったのだろう?

『なかったことにしよう』としたのが良くない点だと思います。もうやってしまったのだから、その点はきちんと認めるべきでした。極端に言えば、『私は不倫しました』『妻子ある男性と付き合いました』『性的な関係もありました』と、初めからすべて認めた上で会見すれば、また違った結果になったのではないでしょうか」

「そんなことあったっけ?」が理想的
記憶に残る謝罪は成功ではない!

一方、増沢さんが選ぶ「良い謝罪」もあるという。

「これも同様に芸能界の不倫の話になりますが、落語家の三遊亭円楽さん、ミュージシャンの石井竜也さんの謝罪会見は『良い謝罪』といえるでしょう。三遊亭円楽さんの場合、『何でも言って。時間制限は設けないよ』と、ベッキーさんとは真逆のケース。石井竜也さんは、登場から奥さんと手をつないできました。当事者である奥さんがもう許していると有無を言わさず見せつけた形です。これでは誰も文句は言えません」

また、「芸能人だけでなく、企業の謝罪でも『良い謝罪』の例がある」と、増沢さん。

「ペヤングでお馴染みのまるか食品も『良い謝罪』の一例。当時は、マクドナルドを中心に食品への異物混入が何かと話題になる時期でした。そんななか、ペヤングにゴキブリが混入。まるか食品は、ただちに操業停止をして、全品回収しました。このケースでは、出荷停止や出荷見合わせくらいが一般的ですが、まるか食品は工場のラインまでも変えました。おそらく、10億単位の損害が出たはずですが、そのおかげでペヤングの信頼は劇的に上がりました。

普通であれば、工場を止めたらそれはメーカーにとって自殺行為ともいえます。しかしその決断をスパッと下し、お詫びの代償をわかりやすく見せることができました。今はもうほとんど話題にもならないし、ゴキブリの話は言われれば思い出す程度ですよね」

増沢さんが紹介してくれた「良い謝罪」の事例は、いずれも今ではほとんど話題にならない。増沢さんいわく、「これこそが、私が定義する謝罪の成功」とのこと。

「『あの謝罪はよかったね』と記憶に残る謝罪ではなく、『そんなことあったっけ?』と、忘れられるような謝罪が理想的。それはビジネスシーンでも然り。完全に忘れ去られることが最上の状況です」

事態の収拾? 損失の軽減? 体面?
「良い謝罪」をするには目的の優先順位を!

ここまで、「良い謝罪」と「悪い謝罪」、それぞれ特徴を見てきたが、増沢さんはわかりやすく謝罪のポイントをまとめてくれた。そのポイントは、以下の通り。

1.謝罪は万能ではないと認識すること
2.コミュニケーションの一環であると認識すること
3.謝罪をするための目的が必ず存在することを認識すること


「冒頭で触れたように、謝罪すればすべてが許されるわけではありません。企業において何らかのトラブルが発生した場合、会社の損失を減らすことはできても、ゼロにするのはほとんど不可能。ゼロにするのではなく、これ以上広げさせないようにすることが大切です」

また、3つ目の「謝罪をするための目的が必ず存在することを認識すること」は特に重要と増沢さん。

「謝罪の目的とは何かということですが、事態を収拾したいのか、お金を損したくないのか、体面を保ちたいのかなど様々あります。しかし、ベッキーさんの事例でも話した通り、多くの人、多くの企業は全部を求めようとします。全部をうまくまとめようとする気持ちもわかりますが、そうではなく、目的の優先順位をつけるべきです。それができていないからパニックになって、失敗するのです。目的が違えば、対応の仕方も変わりますから」

芸能人に限らず、ビジネスシーンにおいても、常に「謝罪」とは隣り合わせ。同じトラブルでも、その対応次第では相手に与える印象も異なる。今回例に挙げた「良い謝罪」「悪い謝罪」の特徴や増沢さんが教えてくれた謝罪のポイントを頭に入れて置けば、いざという時にもパニックにならずに冷静に対処できるだろう。「申し訳ございませんでした」と言葉を発するのは簡単。重要なのは、きちんと謝罪の目的を持つことだ。

■取材協力
増沢隆太
http://rm-london.com/

取材・文=明日陽樹/考務店