「水中毒」という言葉をご存じだろうか?読み方は「みず・ちゅうどく」。

連日の猛暑でこまめな水分補給が必要だが、一度にたくさんの水を飲み過ぎてしまうと自分の身体を危険に晒すことになるという。

腎臓の働きが通常なら普通はならない

「水中毒」とはどのような病気なのだろうか。聖マリアンナ医科大学川崎市立多摩病院腎臓・高血圧内科の講師・今井直彦氏に聞いた。

「水中毒とは、水の飲み過ぎにより体液が薄まってしまう病気。医学的には、低ナトリウム血症となります」

低ナトリウム血症もさまざまな原因でなるが、まれな原因の一つとして水中毒がある。

体内のナトリウム量がほとんど変わらないが、一度にたくさんの水を飲むことで相対的に水分量が過剰になって起こってしまう。低ナトリウム血症の症状としては、頭痛や吐き気、嘔吐などがあり、重度になるとけいれんや意識障害を引き起こし、死に至ることもある。

しかし、「飲み過ぎ」と言われても、どれだけ飲んだら飲み過ぎになるのかあまりピンとこないが…。

「正常な腎臓は1日に10リットル以上の水を排出できるので、腎臓の働きが正常であれば水中毒にはなりません。腎臓が排泄できる以上の水を飲むか、腎臓が正常に働いていないときに水中毒になります」

腎臓は、体内の塩分や水分の排出量をコントロールし血圧を調節したり、体液量などを調節したりする。その腎臓が正常に機能していれば、普通は水中毒にはならない。

マラソン時の過度な水分摂取は危険?

1日に10Lも水は飲まなくても、例えば「マラソン中の過剰な水分摂取は、水中毒の危険が高まる」と今井先生は話す。

「腎臓が正常に働いていないというのは、水を溜め込む作用があるホルモン(抗利尿ホルモン)が腎臓に不適切に働いてしまう時のことをいいます。この抗利尿ホルモンは様々な刺激で分泌されますが、その中の1つに運動があります。

マラソン時に過剰に水分を摂取すると、水中毒となってしまうことが知られています。これはマラソンという運動時に、抗利尿ホルモンが分泌され、腎臓に水をため込んでしまうこととが関係しています」

マラソン以外にも、トライアスロン、水泳、ハイキング、アメフトなども水中毒に気を付ける必要がある。4時間以上の長時間にわたり、ゆっくりと何かの運動をするときには特に注意した方がいい。

また、水飲み競争など短時間に何リットルもの水を飲んでしまうと、腎臓が排泄できる以上の水を飲んだことになり、水中毒になってしまうという。

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水を飲むタイミングはいつ?

「水を飲み過ぎない」ことは自分でセーブすれば防げるかもしれない。また、普段の生活の中でも心掛けておかなければならないことがある。

「きちんと栄養をとっていないと腎臓の水を排泄する能力が落ちるので、より簡単に水中毒になりますし、不適切に抗利尿ホルモンが働いているときには、ふだんは全く問題のない量の水分摂取でも水中毒となります。

つまり、その時々の状況によって水の飲み過ぎとなる水の量は大きく異なります。その中でできることは不必要に、喉が渇いていないのに水を飲まないということです。

私たちの体は非常によくできていまして、水が必要なときには喉が渇くという形で教えてくれます。喉が渇く前に水を飲む必要はありません」

「のどが乾いたら水を飲む」これでいいというが、水を過度に飲み過ぎてしまうきっかけはあるのだろうか。

「大量の水を飲まずにはいられないという心の病気があります。ただし、その患者さんたちの飲む水の量は本当に大量です。普段の生活の中では、水分摂取量が不足していることを心配するよりは、過剰に水を飲み過ぎないようにすることが重要です」

しかし、「水を過度に飲む」という水中毒は、特異的な自覚症状がないというのが怖いところ。重度となると、けいれんや意識障害になることもある。飲み過ぎの判断は難しいため、今井先生は「のどが渇いていないときは、不必要に水を飲みすぎないことが大事」と話す。

ただ、自分の家族や友人が水を飲み過ぎているからと言って、水中毒と判断できる病気でもなく、低ナトリウム血症は採血をして初めてわかる病気のため、水中毒が疑われる場合は、まず内科の受診がベストだという。


今井直彦
慶應義塾大学医学部卒業。聖マリアンナ医科大学川崎市立多摩病院腎臓・高血圧内科の講師。専門は腎臓病・高血圧・腎移植。

取材・文=多古 海月