蛇口からみかんジュースが出てくる―。愛媛にまつわる“伝説”が、今月20日に現実のものとなった。松山空港に誕生した「Orange BAR」に「みかん蛇口」が常設オープンし、観光客などに評判となっているという。

そういった特殊な場所でない限り、蛇口から出てくるのは水道水だ。しかし、「タダの水」と侮るなかれ。

東京都内の水道管をすべてつなげると地球3分の2周あるというが、漏水なく安全な水を届ける技術は世界トップクラス。今では「安全」だけではなく「味」にまでこだわっているという。

そもそも「おいしい水」と「まずい水」とは何なのか。東京都水道局の担当者に話を聞いた。

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「まずい」から世界に誇る水へ

東京の水は「まずい」。

1984(昭和59)年に当時の厚生省(現、厚生労働省)が設立した「おいしい水研究会」が行った水道水の利き水大会で、こんな結果が出た。

実際、昭和40~50年代の東京の水は、都民からカビの臭いやカルキ臭がするなどと苦情が相次いだ。

水の味を悪くしてしまうのは、この「臭いのもと」。通常の浄水処理だけでは十分に取り除けないものだという。

これを解決したのが、「高度浄水処理」という技術だと水道局浄水部水質担当課長・木村慎一さんは語る。

「昔は川の水がきれいでしたが、高度経済成長期になり、人や産業が東京に集まり生活排水や工場排水を受けるための下水道インフラが追随せず、川に流れていきました。従来の浄水処理ではおいしさや臭いなどの観点で課題があり、おいしさや安全を向上させるため、高度浄水処理を導入しました」(木村さん)

水源として主に使用されている利根川水系の浄水場には、すべて高度浄水処理を導入しているという。

さらに、東京の水はより高いレベルで、安心でおいしい水づくりをしている。

水道法により定められているのは51項目の「水質基準項目」。東京都はこれに加え、カルキ臭を引き起こすトリクロラミンなど8項目を、厚労省が定めた基準よりも高いレベルの「おいしさに関する水質目標」に設定している。

これらの取り組みによって、東京の水は世界に誇れる水に様変わりした。しかし、課題はまだある。

「お届けしている水の品質に関して、本当に自信を持っています。ただ、飲み水として水道水が積極的に選ばれていない。このことに関してはこれからの課題」(木村さん)

飲み比べると「水道水がおいしい」

小学生の時は、体育が終わると蛇口をひねって水道水を飲んでいたのに、大人になってからはミネラルウォーターばかりという人も多いだろう。

水道局サービス推進部サービス推進課長・金山智子さんも「すでにライフスタイルの中で、習慣としてミネラルウォーターを飲むという人もいると思います」と認める。

「中高年齢層の方は、ミネラルウォーターが普及していたわけでもないので、水道水を飲む習慣がありますが、若い方たちはミネラルウォーターを買う習慣が身についているのではないでしょうか」(金山さん)

東京都水道局は、水道水を飲む習慣がない人にもおいしさを知ってもらおうと、どちらかわからないようにした状態でのミネラルウォーターとの飲み比べを実施している。

平成25年度~28年度まで約20万人が体験し、約半数が「水道水の方がおいしい」と回答したという。

飲み比べの活動以外にも「東京水」というペットボトルを製造・販売もしている。

「水道局から『お届けしている水は、高度浄水処理をした水です』と伝えても、普段あまり水道水を口にしない方にはそのおいしさが伝わりません。おいしさや安全性を実感してもらう目的で、『東京水』という水道水を詰めたペットボトルを発売しました」(金山さん)

一人一人の配慮が川をきれいに

生活の中で水は欠かせない。

飲み水として使っていない人でも歯磨き、洗顔、風呂、炊事など水道水はいろいろなシーンで使われている。

水道水は1日1リットルを使っても1年で約70円と安いため、つい水を勢いよく出して、ジャバジャバと使ってしまう人も多いだろう。

1人が1日に使う量は平均で219リットル。東京都全体だと平成27年度では平均409立方メートルにもなる。これは東京ドーム約3.3杯分だ。

使い過ぎだけではなく、川の汚染に対する意識の低さも問題だ。

コップ1杯(180ml)の牛乳を流した場合、魚が住める水質にするために必要な水の量は300リットルのお風呂13杯。使ったてんぷら油500mlを流した場合は、560杯必要になるという。

「汚すことは簡単ですが、きれいにするのは大変です」と木村さんは話す。

水道水も蛇口をひねればきれいな水が出てくるが、タダではない。

マイナスの評価から世界に評価されるまで、技術を磨き、高いレベルでの品質を保ってきた。

一人一人が配慮することで、きれいな川を維持することができる。日ごろから、家庭から汚れた水を流さない、そういった意識を持つことも大切だ。


取材・文=多古 海月