子ども時代をどう過ごすかで、将来の賃金が決まる? そんな衝撃的な調査が行われた。特集「子どもとお金」第4回。今回は労働経済学の観点から、「稼げる人物」に育てるためのヒントを探ってみたい。

「一般に、偏差値の高い学校を出ると、高い賃金を得られる可能性が高いことは知られています。ですが、賃金に影響するのは知能指数や偏差値だけなのでしょうか。いわゆる『勉強』以外の要素が賃金に影響を与えていないかを調査してみました
このように語るのは、リクルートワークス研究所、主任研究員の戸田淳仁氏。

戸田氏は、2012年にインターネット上にて、20歳〜69歳まで、6128人にアンケートを実施。その結果を『幼少期の家庭環境、非認知能力が学歴、雇用形態、賃金に与える影響』という論文にまとめた。
アンケートで調べた大きな柱は4つ。「今の給料」「子ども時代の成績」「子ども時代の家庭環境」そして「こども時代の過ごし方」である。

そして調査の結果、ある共通点が見えてきたという。まず結果からお伝えしよう。アンケートによると、賃金に良い影響を与えたのは次の要素である。

パーソナリティや性格も賃金に影響する

「もちろんキャリアの形成は様々な要素が絡まり、単純に上記だけが影響を与えているわけではありません。アンケートの結果から回帰分析したものなので推測ではあります。けれども、様々な質問との関連性を見ると、子ども時代に上記に当てはまる人の今の賃金は高い傾向にあります」(戸田氏、以下同)

ここでちょっと解説を入れよう。15歳時の成績の良さを「認知能力」と表現しているが、この「認知能力」とは、IQに代表されるように、記憶力、計算能力など「知能」として測れる能力を指す。
そして、無遅刻や運動系クラブ所属の経験を通じて身につけた性格や態度は「非認知能力」と呼ばれる。

小中学校ほど生活指導が厳しくない、高校生活で無遅刻であることは、自己統制力、計画性、真面目を表します。また、運動系クラブに属することは、人と触れあう機会を増やし、協調性が養われます。生徒会経験者にはリーダー経験があるはずです」

「非認知能力」とは、いずれも仕事に不可欠な能力である。しかしそれは、性格であり個性であるため、賃金への影響は必ずしもすべてを説明できるものではない。それにも関わらずなぜ、今この「非認知能力」に注目が集まるのか。

知能指数は7歳まで? だが非認知能力に期限はない

「IQなどの『認知能力』にはクリティカルエイジという、能力の伸びるピークがあり、だいたい6〜7歳です。この時期にトレーニングを受けると、IQのスコアは大きく伸びますが、8歳以上で同様のトレーニングを受けてもスコアは多少は伸びますが、大きな伸びは期待できません。ですが、『非認知能力』を高めると『認知能力』も高まるとの研究結果が出ています。しかも、『非認知能力』は何歳になっても延ばすことができるのです

知的能力が伸びるピークは6〜7歳…って我が子はもう過ぎた、という人もいるだろう。いろいろと衝撃的な発言だが、ここで頭に入れて欲しいのは、「『非認知能力』を高めれば『認知能力』も高まる」という点である。例えば子どもが8歳でも、15歳でも、20歳を過ぎていても、「非認知能力」は延ばすことができるのだ。人生に遅すぎるということはない。そのような可能性を感じさせるのが「非認知能力」である。

ではどのように延ばすのか。

「『能力』を身につけるには『くり返し』と「フィードバック」が重要といわれています。『非認知能力』もくり返し練習し、自分の状態のフィードバックを受けることで身につけられるはずです」

「非認知能力」で一番、手っ取り早く身につけられそうなのが、「勤勉性」であろう。朝自分で起きられない、宿題の期限が守れない、そんな子どもには親がある程度手助けをし、自ら計画的に行動するよう手助けをしてやれるからだ。方法論を記した書籍も多く刊行されている。

けれども難しそうなのは、外向性や協調性、リーダーシップだ。引っ込み思案な性格の子も多い。これについてはどう伸ばせばいいのか。

「外向性、協調性は、人と触れあう機会を多く設けることで身に付くでしょう。子どもは経験を通じて学びます。学校だけではなく家庭でもいろんな人と関わる工夫が求められます。ただし、『やらされている』と思うと逆効果になるのは目に見えています。『自ら人と関わりたい』と思う環境を無理のないかたちで用意できればいいですね」

コミュニケーション力を高めるには、まず人と関わる機会を増やすこと。だが引っ込み思案な性格を否定するのではなく、何度もチャンスをくり返し与えるのがここでの親の役割だ。デリケートな子どもには簡単に身に付く能力ではないだろう。だから大人になるまでに時間をかけて培ってあげたい。

リーダーシップとは目標へ向かって努力すること

しかし、コミュ力を上げても、もっと高いハードルをクリアしなければならない。「リーダーシップ」経験は、人生でそう何度も機会に恵まれることはない。この難関に対し、どう力を付けていくのか。

「リーダーシップとは、生徒会長や部長など、人をまとめる立場だけを指すのではありません。『目標を決めて、目標へ向けて努力する』こと。クラブのみんなで『地区大会で優勝する』という目標を掲げてもいいですし、自分のなかで『ベンチ入りする』と決意するのでもいいのです。『目標』へ向けてどう『行動』するか。これがリーダーシップの本質です

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なるほど、これなら今からでも子どもと一緒に取り組むことができる。特に夏休みシーズンに入り、自由研究などはうってつけである。親も目標へ向かう子どもに簡単に介入せず、自身で目標を達成する姿勢を見守って欲しい。

リクルートワークス研究所、主任研究員・主任アナリストの戸田淳二氏。2008年リクルート入社、現研究所に配属。人材採用や転職について継続的に研究。今回、紹介した戸田氏の論文はこちら(http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/14j019.pdf)

イラスト=さいとうひさし
取材・文=武藤徉子