インターネットやスマートフォンの普及により、これまでは複雑な手順が必要だったサービスが片手だけで利用できるようになった。そうした流れから、『メルカリ』のようなフリマアプリなどが登場。これにより、自分が作った洋服や農産物などを生産者と直接取引する人、つまり「個人と個人」での取引が増えた。おそらく、今後もこうした事例は増えていくのだろう。しかし、これまで間に立っていた卸や問屋、取次といった企業を介さなくなることで、何か不都合はないのだろうか?

経済ジャーナリストの磯山友幸さんに聞いた。

金融機能やモノの目利き機能
意外と知らない卸の重要な役割

そもそも、卸や取次など、間に立つ人や企業というのは、これまでどんな役割をはたしていたのだろうか? 磯山さんは、「大きな役割は2つ」と話す。それぞれについて、詳しく説明してもらった。

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「まず1つ目は、『金融機能』です。昔は、資金力がない小売店が多かったため、小売店が卸から仕入れたらその場で代金を支払うのではなく、売れて資金が回収できるまでの資金のつなぎをしてあげるというシステムが一般的でした。このシステムは、資本がない時代には重要で、流通において必須だったのです」(磯山さん、以下同)

しかし、金融緩和による金利の引き下げなどに伴い、だんだんと小売店も資金力がついてきた。次第にこの金融機能は薄れていき、卸(問屋)に資金を“おんぶにだっこ”な状態は減ったという。

そして、2つ目の重要な役割は、「モノの目利き機能」だという。

「全国にたくさんいいものがあっても、当時はまだ小売店がそれを知るすべはありませんでした。そこで、卸がそのネットワークを活かして、全国から質やコストパフォーマンスのいいモノを小売店のニーズに合わせて見つけてくる。しかしネット社会になって、この目利き機能は崩壊。小売店自ら生産者にたどり着けるようになりました。そうすると、例えば農業では生産者側も農協にしか出荷できなかったものが、ダイレクトに小売店や消費者に売ることができるようになったのです」

これが、ここ20年くらいの動き。それが最終的には、ネットで“ポチっ”とすれば、生産者自らが直接消費者に配送するという時代になったのだ。

さらに、「この目利き機能には、ほかの面もあった」と磯山さんは続ける。

「それは『信用』です。卸を仲介すれば、たとえば『偽物ではない』とか品質が担保されていました。しかし、現代のように生産者と個人が直接つながると、それは一目瞭然。『品質の保証機能』もいらなくなったというわけです」

流通がダイレクトになる弊害はあるの?
中間の業者がいるメリット・デメリット

では、次に中間業者を介さなくなることのメリットとデメリットをそれぞれ聞いた。

【メリット】
「これらの業者がいなくなることによって、コスト(仲介手数料やマージン)が抑えられます。また、生産者と消費者が直接取引すれば、お互いの声も届きやすくなります」

【デメリット】
「キュレーション的な役割でいいモノを選んでくれるというのは、中間業者がいてこそ。情報が大量にあるなかで、その人に適したモノを選んでくれる。間に立つ人が信頼できる人なら、品質保証とか、失敗もありません。それがなくなるというのは、デメリットといえるでしょう」

また、当時は物流がネットを介していなかったため、これらの中間業者に一度モノを集め、分散する役割も担っていたという。しかし、今は宅配便も含め小口の荷物が全国どこへでも動くようになり、その物流機能もなくなった。

卸や取次の衰退は避けられない?中間業者が生き残るために必要なこと

これまでの潮流を総合的に見て、「卸や取次は衰退化していくし、それは避けられない」と磯山さんは話す。

「実際、築地でも仲卸は潰れていますし、必然的で抗いきれないこと。今までの形での存続は厳しい」と磯山さんはいうが、では、このまま卸や取次という業種は消えてしまうのだろうか?

「これからは『どういう機能をもっていくか』が重要です。また、全部が個人と個人で縦横無尽につながると効率的なのかというとそうでもない。だからこそ、本来持っている目利き機能をもっと磨くべきです」

たとえば、「日本中においしいスイカはたくさんあるけれど、あの人が探してくるスイカはいつもうまい」といったことだ。生産者がわかるというのももちろん大事なことなのだが、別の生産者が作るもののほうがもっとおいしく、自分好みかもしれない。しかし、普通はそれに気づけない。「いつものヤツもいいけど、こういうものもたくさんあるんですよ」と伝える役割が重要になってくる。

さらに、卸や取次だけでなく、中間にいるサービス業者などは「信用保証がますます必要になってくる」とのこと。

「たとえば家電製品が壊れた時、修理しようと購入した販売店に行っても『メーカーに直接言ってくれ』と言われることがありますよね。それでは中間にいる意味がありません。自分たちが持ち得る知識で解決するとか、右から左に流すだけではなく何らかの保障、信用供与をすることが必要です」

保険業界で例に挙げるなら、『ほけんの窓口』はまさにそうした新しい役割のひとつ。これまで一般的には保険会社がセールスに来て販売していたが、同社のように、顧客の立場にたって、「Aさんはこっち、でもBさんはあっちのほうが合う」といったように、消費者の気持ちに寄り添った商売をしている。これを磯山さんは「新しい中間業者の役割」と話す。

また、中間業者は消費者ではなく生産者と密に寄り添うこともこの時代を生き残る方法のひとつだという。

「農業などの生産者は、消費者のニーズがあまりわかりません。ですので、それをわかっている卸業者がモノを作るところから指導するのは有効です。こういうものを作れば売れる、こういうパッケージのほうが売れるとか。モノ作りと一体化するか、もしくは自分たちで生産もしてしまうというのもアリだと思います」

今後、中間の業者が生き残れるかどうかは知恵次第。生産者や消費者との関係を密にし、いかに信用を積み重ねていけるかがカギを握っている。

■取材協力
磯山友幸
http://isoyamatomoyuki.com/

取材・文=明日陽樹/考務店