これまでに本特集で考察してきたとおり、SNSはうまく使えば夫婦の仲をより密なものにすることができる。知らなかった相手の一面を知ることができたり、あまり時間がない中でも相手の状況がわかって安心したり。

だが逆に、何気ない投稿がパートナーの機嫌を損なうきっかけになり、もしかしたら離婚という最悪の結果につながる可能性もある。

その背景には、現実世界における夫婦関係がきちんと成立していない可能性があるというのは第3回で紹介したとおりだが、さらに深く考えていくと、それはお互いに夫婦としての距離感をまだ認識しきれていないということを意味しているかもしれない。

夫婦も一般的な人間関係のひとつであるという自覚が必要

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「お互いの関係が近いほど依存心や敵意を抱きやすい傾向にありますが、距離感がわかる人はどんな場面でも良好な関係を維持することができます」と先生が話すように、夫婦関係においても距離感は非常に大事なものだ。

結婚し、家族になったからといって何でも許されるわけではない。たとえば、つい先日も「父の死をSNSに投稿した夫が許せない」という新聞への投稿が話題になったが、自分は問題ないと思うことが、パートナーにとってもそうとは限らないのだ。

インターネット上に公開された情報は、基本的に消すことは難しい。本人たちが投稿を削除したとしても、どこかの誰かがキャプチャ画像を保存している可能性もある。

だからこそ、パートナーがいる人はSNSへの投稿を自分だけの問題とはせず、きちんとお互いのこととして考えなければならない。夫婦やその両親、子どもの話題を世間一般に向けて話しても大丈夫か、パートナーが写っている写真を公に紹介しても良いのか、と。そうしたSNSにまつわることについてきちんと意見を共有しておく必要がある。

パートナーのSNSに対する考えを尊重することも大切

もちろん、そうした夫婦間の取り決めをすると同時に、パートナーのSNS上での行動を尊重することも大切だ。パートナーが自分の知らないところで独自の人間関係を築いていたからといって問い詰めたり、こと細かに関係性を聞いたりするようなことは避けた方がいいだろう。

「相手のSNSを常にチェックしていないと不安だという人は、そもそも夫婦関係に依存している可能性があります。そういう人は相手に自分の欲求を押し付ける傾向が強いため、次第に関係が悪くなり、最悪の場合、離婚という形になることも」

相手に「ああして欲しい」「こうして欲しい」と思う依存的な欲求は、子どもが親に抱くものに近い、と加藤先生は続ける。しかしそれは、親子関係だから成り立つのであって、そもそもが他人である恋愛関係や夫婦関係では成立しにくい。もしSNSにおける考え方や意見が食い違っても、それを受け入れるだけの心の余裕がお互いに必要なのだ。

SNSで喧嘩になったら、SNSで解決しない

では、夫婦がSNSでトラブルになったらどうすればいいのだろうか。

「もしSNSに関するトラブルが発生したとしても、それをSNS上だけで解決しないようにすることが大切です。たとえば、相手のSNS上に浮気相手と思わしき人がいたとしても、勝手な憶測で物事を考えないこと。はなから決めつけられてしまうと、問い詰められた相手は本心を出さなくなっていきます。やがて、相手に求められる偶像だけを演じるようになっていき、本当の自分を押し隠すようになる。それはもちろんストレスとなり、夫婦の亀裂を生むきっかけになるのです。SNS上で気になることがあったとしても、落ち着いて相手の意見や考えを聞き、誤解を解くことが大切なのです」

夫婦でなくとも、SNS上で見られる言い合いは平行線を辿ることが多い。そして、会って話してみたら分かり合えたという結末も多々。

SNSは非常に便利なツールであるが、万能ではない。その他多くの夫婦問題と同じように、互いの考え方の相違を理解し合うことからはじめるのが得策だろう。夫婦とSNSの距離感は、実は夫婦の距離感そのものだから。

加藤諦三
1938年、東京生まれ。東京大学教育学部教養学科、同大学社会学研究修士課程を終了。1973年以来、度々、ハーバード大学准研究員をつとめ、現在は早稲田大学名誉教授として、同校でも現役教授中。さらに、ニッポン放送系ラジオ番組「テレフォン人生相談」のパーソナリティーを半世紀近くつとめ、国内外の文化・文学に精通した作家としても活躍中。著書に『「うまくいく夫婦、ダメになる夫婦」の心理』(PHP研究所)をはじめ、『「自分の働き方」に気づく心理学』(青春出版社)、『なぜ、あの人は自分のことしか考えられないのか』(三笠書房)、『人生は「捉え方」しだい 同じ体験で楽しむ人、苦しむ人』(毎日新聞社)など、多数。http://www.katotaizo.com/

文=安東 渉(EditReal)
編集=村上 広大(EditReal)
イラスト=浜名 信次(Beach)
モーションデザイン=濱本富士子(Beach)