社会的成功者への嫉妬が生み出した脅迫事件

嫉妬という感情は「相手を見返してやる」「自分も頑張ろう」という原動力になる一方、嫉妬の対象への攻撃性を生み出す危険性もある。いきすぎてしまえば、事件に発展することもないとは言い切れないだろう。

アディーレ法律事務所の吉岡一誠弁護士に、オトコの嫉妬が原因で起こったと考えられる判例を教えてもらった。

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「小さないざこざであれば、裁判にまで発展せず話し合いで和解するケースが多いですが、嫉妬が動機になって刑事事件にまで発展しているケースもあります。例えば、東京地裁で2014年8月21日に判決が出た『黒子のバスケ脅迫事件』は、嫉妬が生み出した事件といわれています」(吉岡弁護士・以下同)

同事件は被告人が、漫画『黒子のバスケ』作者が在籍していた大学に硫化水素を発生させた容器を置く、同漫画のイベント主催者にイベントの中止を求める脅迫文書を送る、同漫画に関連するお菓子に毒物を混入し販売会社に「食べたら死ぬ」などと書いた脅迫文書を送るなど、8件にも及ぶ脅迫行為に及んだ事件だ。被告人には威力業務妨害の罪で、懲役4年6カ月の判決が下っている。

被告人が冒頭陳述で「自分が『手に入れたくて手に入れられなかったもの』を全て持っている『黒子のバスケ』の作者の藤巻忠俊氏のことを知り、人生があまりに違い過ぎると愕然とし、この巨大な相手にせめてもの一太刀を浴びせてやりたいと思ってしまったのです」と語ったように、犯行動機には社会的成功者である作者に対する嫉妬が含まれていたと考えられる。

肉親に対する嫉妬が暴力行為に至ったケース

「黒子のバスケ脅迫事件」における被告人と被害者は互いに面識はなかったが、過去には肉親に対する嫉妬が事件に発展したケースもあるそう。

「2001年10月29日、弟が兄に包丁を突き付けるという事件が起こりました」

消費者金融に融資を断られるなどして経済的に困窮し、精神疾患も患っていた被告人が、健全な家庭を築いていた実兄に対する嫉妬の感情から、実兄に文化包丁を見せつけて脅迫した事件だ。傷害事件にまでは至っていないが、銃砲刀剣類所持等取締法違反、及び暴力行為等処罰に関する法律違反で、懲役1年・執行猶予3年という判決が下された(神戸地裁2002年1月10日判決)。

「嫉みの感情を抑えきれず、実兄を困らせてやりたいという動機を被告人が語っているように、兄弟間の格差に基づく嫉妬が根底にある事件です」

肉親だからといって、嫉妬の対象にならないわけではない。身近な友人や同僚にも置き換えられる事件といえるだろう。

男女間の嫉妬が傷害事件に発展するケースも

女性に対する嫉妬心が原因で起こる事件も多い」と吉岡弁護士は言う。具体的には、どのような事件が多いのだろうか。

「不倫がきっかけで起こる事件が多いように感じます。当時話題になった事件ですが、1983年9月30日、警察官の男性が愛人から別れを切り出され、持っていた拳銃で射殺した事件がありました」

警察官の男性は結婚していて妻子がいたが、妻と離婚して愛人と一緒になる決意をしていたという。しかし、愛人にはほかにも愛人関係にある男性がいて、最終的にその男性を選んだことから、警察官の男性が激高し、拳銃で愛人を射殺した事件。警察官であったため、国家賠償請求訴訟が提起され、1624万3567円の賠償義務が認められた(大阪高裁1987年11月27日判決)。

不倫そのものが裁判に発展するのではなく、不倫によって生まれた嫉妬の感情が事件を起こしてしまうことがあるというわけだ。

「最終的に嫉妬の感情があったと認定されなかったケースですが、中学の英語教師をしていた男性が同僚の英語教師である女性に対して、ほかの教師がいる前で『○○さんが生徒にきつく当たるのは性的に満たされていないからだ』といった発言をして侮辱し、女性教師から訴えられた裁判例もあります」

一審では、英語教育に関して学校の内外で活躍していた女性教師に対して男性教師が嫉妬の感情を抱いていたと認定されているが(大阪地裁1997年9月25日判決)、控訴審においては、男性教師もまた熱心に英語教育活動を実践して相応の地位を築きつつあったことや、女性教師が他の教職員と十分に和を保ってはいなかったことから、嫉妬の感情があったとまでは認められなかった(大阪高裁1998年12月22日判決)。ただし、男性側に賠償金30万円の支払いが命じられたという。

「これは男性間でもあり得る事件だと思います。嫉妬から相手のことを悪く言ってしまうことはあると思いますが、相手の信用を落とすような発言をすれば名誉棄損、相手が知られたくないと思っているプライベートな事柄を口外すればプライバシー侵害に当たる可能性があり、民事責任や刑事責任を追及されることもあり得ます。くれぐれも注意しましょう」

吉岡弁護士も「話し合いで和解するケースは多い」と言っていたように、裁判に至らなくてもトラブルに発展する場合があることを念頭に置いておくとよさそうだ。自分自身が嫉妬に振り回されないよう、冷静に対処したい。

■吉岡一誠氏
弁護士法人アディーレ法律事務所所属弁護士。不倫・離婚問題など、さまざまな裁判や話し合いを担当している。

■参考文献
「「黒子のバスケ」脅迫事件の被告人意見陳述全文公開1
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20140315-00033576/



(執筆:有竹 亮介)