“嫉妬”は誰もが抱く自然な“感情”

自分より早く出世する同期、上司にかわいがられる後輩、自分の彼女と2人きりで出かける男友達。――嫉妬の対象と理由はたくさん考えられるが、なぜ人は嫉妬するのだろうか?心理学と脳科学、2つの観点から嫉妬のメカニズムを解説してもらった。

まず、人が嫉妬するメカニズムを教えてくれるのは、産業カウンセラーの川村佳子さん。

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「心理学では、人間は“他者と自分を比較する生き物”という前提があります。他者より優れていると証明したい『優越欲求』を持っているからです。才能、学歴、上司・恋人との関係性など、自分で優れていると感じている部分を、他者に奪われたり妨害されたりすると嫉妬の感情を抱くと考えられます」(川村さん)

人間として抱く自然な感情というわけだ。次は、脳科学者の澤口俊之さんに教えてもらった。

「脳科学の分野では、嫉妬はまだ研究段階の分野です。なぜかというと、嫉妬を生み出す環境を人為的に作り出すことが難しいから。その中でも最近わかったことは、男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が増えることで、嫉妬を抱くということです。テストステロンが分泌される状況は、男女で違いが出ています」(澤口さん)

嫉妬は、高みを目指し登っていくために必要なもの

人がわざわざ嫉妬というネガティブな感情を抱くということは、きっと何かしらの意味があると思うが、実際のところはどうなのだろう?

「心理学では嫉妬も感情の一つに過ぎないので、特別なメリットはないと考えられます。ただ、嫉妬によって苦しみを感じる場合、自分の内的な世界にある未解決の傷跡に触れていることが考えられます。それにしっかり目を向け『なぜ嫉妬するのか?』と原因を考えるようになった時、目標や夢に気付くことができれば、嫉妬は成長するきっかけになるといえるでしょう」(川村さん)

嫉妬の感情は、心理学的には成長のチャンスと考えられるようだが、脳科学でも同じことはいえるという。

「人間は自分の遺伝子を残していく上で、嫉妬という感情が必須なのです。男性は、女性が自分以外の男性の子どもを産むこと、つまり恋人や妻が第三者と性的な関係を持つことに嫉妬しやすいです。この感情は、自分の遺伝子を残していきたいから出てくるもの。また、嫉妬は出世に必須の感情といえます」(澤口さん)

人は感情を抱くことが、思考につながっていく。仕事で嫉妬心を抱けば、「なぜ同期は出世したのか」「なぜ上司は後輩をかわいがるのか」と考え始める。その中で対応法や戦略を練り、やる気が生まれ、行動に移すことができる。また、嫉妬した相手が持っている才能、人脈、資産などと同等以上のものを得たいという気持ちが原動力になるという。

“嫉妬なくして出世はない”と言っても過言ではなさそうだ。

瞬間的な男性の嫉妬と長期的な女性の嫉妬

メカニズムを解説してもらった時、澤口さんが「嫉妬には男女差がある」と話していたが、具体的にはどのような違いがあるのだろうか?

「男性は、恋人や妻が他の男性と関係を持つと嫉妬しますが、無関係のカップルが路上でイチャイチャしていても嫉妬しません。しかし、女性は無関係のカップルに対しても嫉妬を抱きやすいのです。なぜかというと、男性はセクシュアルに、女性はリソース(資産)に嫉妬するから」(澤口さん)

男性は性行為に対して嫉妬するのに対して、女性は男性が持つお金や時間などのリソースを別の女性に使われることに嫉妬するそう。つまり、彼氏や夫が別の女性と食事に行くだけでも、嫉妬の対象となる。また、女性にとっては「男性の容姿」もリソースに含まれるため、知らない人であってもカッコイイ男性とつきあっている女性に嫉妬することがあるというのだ。ちなみに、男性は性行為さえなければ、恋人や妻が男性と2人きりで出かけても嫉妬しないという考え方が脳科学の論理。

「男性の嫉妬は怒りの感情に近く、瞬間的に火が付き暴力的な行為に出る可能性もありますが、すぐに冷めるという特徴も。一方で女性の嫉妬は理性的で、憎しみに近いです。感情が長く続き、同性の抜け駆けを許さないという性質があります」(澤口さん)

心理学的にも、男女による嫉妬の対象に違いはあるのだろうか?

「男性は縦社会で生きていて、評価や秩序を重んじるコミュニティで生きているので、評価を奪う人、秩序を守らない人に嫉妬しやすいです。女性の世界は横社会で、平等や公平が重んじられるコミュニティ。人より目立ち、抜け駆けしようとする女性が嫉妬の対象になりやすいですね」(川村さん)

嫉妬心の表し方も違いがあるという。男性は嫉妬をさらけ出すと自分の評価が下がることを知っているため、嫉妬心を隠し、相手を見返す機会を窺う。つまり、嫉妬を原動力に他者を蹴落としてでも自らのし上がるのだ。しかし、女性は相手を自分と同じ位置まで引きずり下ろすことで安心する傾向が強いという。そのため、相手の悪口を言い、周囲の評価を下げるといった行動に出やすいそう。

川村さん、澤口さんの話を聞く限り、男性は嫉妬を抱え込む性質があるといえそうだ。思い当たる節のある男性も、いるのではないだろうか?

澤口さん曰く「仕事場での嫉妬は原動力になり、ネガティブな要因が少ないため、研究も進んでいない」とのこと。ネガティブな感情だと思っていたが、考え方によっては自分を成長させるきっかけになる“嫉妬”。少し見方が変わりそうだ。

(左)川村佳子氏 
産業カウンセラー。官庁や大学のカウンセラーとして働きながら、北海道札幌、東京南青山にてカウンセリングオフィスを運営。著書に『嫉妬のお作法』(フォレスト出版)。

(右)澤口俊之氏
人間性脳科学研究所所長、武蔵野学院大学&大学院教授。脳進化学のパイオニア。高次脳機能、特に前頭前野(前頭連合野)の研究を展開。著書に『脳を鍛えれば仕事はうまくいく』(宝島社)など。



(執筆:有竹 亮介)