“ねえ。私の話、ちゃんと聞いてる?”と、妻やパートナーを苛立たせ怒らせてしまった経験はないだろうか。男女の会話のすれ違いは永遠のテーマだ。しかし、そのすれ違いは“聴く専門家”の“傾聴”の知識と技術において解消されるという。“聴き上手”になるコツを教えてくれるのは、産業カウンセラー資格をもつ傾聴講師の岩松正史氏だ。

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“聞く”の主体は自分、“聴く”の主体は相手

「根本的に人は“話すのが好き”なんです。そして、自分が話したことを相手にちゃんと受け取ってもらいたいと思っています。それなのに、人の話しを上手に聴ける人はなかなかいません。たまに“自分は聞き役にまわるほうが好きだ”と言う人がいますが、実は発言するのが苦手でただ黙っているだけだったりするのです

そもそも“聞く”と“聴く”はどう違うのか。岩松氏によれば、カウンセリングの場におけるその違いは明確だ。“聞く”は自分が聞きたいことを聞くこと。一方の“聴く”は、相手が話したい(伝えたい)ことを受け止めることを指す。主体が異なるのだ。

実際にカウンセラーが相談者の話を聴く際には、相手の悩みを自分ごとのように受け止め、共感しながら耳を傾ける。傾聴はトレーニングをしなければ身に付けることが難しい。しかし、傾聴のスタンスをふまえようとするだけでも、 “聴く耳”を少しづつ育てることができ、日常の人間関係向上にも役立つという。

妻の話を聴くときは、問題ではなく“気持ち”を優先

傾聴をするときはまず、話し手の気持ちを優先することが基本です。たとえば妻から『PTAでトラブルが起きてとても腹立たしかった。ちょっと聞いてほしい』と言われたとき。“トラブル”という“問題”を解決しようとするのではなく、“腹立たしい”という“気持ち”のほうをじっくり聴くべきです。

しかし男性は問題解決志向が強いので、ついなんらかの方策を妻に授けようとしたり分析したりして、肝心の感情のほうはスルーしてしまいます。そこで妻は“違う、私は解決したり分析されたいわけじゃなくて、聴いてほしかっただけなのに!”と、ますますイライラを増すことになるのです」

なぜ、そのようなすれ違いが起きるのか。その背景には、“安心の基準”が男女で異なることがあると岩松氏は分析する。女性は自分の気持ちを口に出して相手にわかってもらうことで安心する。しかし男性は問題となる事柄が解決することで安心感を得るため、かみあわない。

そして、それは同性の部下や同僚から相談をもちかけられた場合にも同様のことが起こるのだと言う。人は“気持ちが満足”しなければ納得できないものだし、相談の場合は相談者の“困った”が解決されなければ腹落ちできない。そこでまずは相手が抱えている“気持ち”や“困った”を受け止めてから、具体的な問題解決のアドバイスを行うとよいそうだ。

“聴く耳”をつくるための基本技法

岩松さんの主宰する「傾聴講座」では、傾聴に必要な知識をふまえてから実技に入る。たとえば“同感”と“共感”の違いがわからないと、いくら練習しても傾聴は身に付かない。

「“同感”とは賛成するの同義語です。そして相手がどう思うのかをわかろうとするのが“共感”です。似ているようでまったく異なります。解釈したり自分の感想を付け加えたりせずに、“あなたはそう感じたんだね”と、気持ちをそのまま受け止めようとする。ここをふまえなければどんな技術を実践しても、うわすべりで終わります。大切なのは“寄り添う気持ち”です。ご紹介する技法も、その気持ちをふまえて行ってみてください」

1)うなづき、あいづち
「話しを聴くときは、うなづいたりあいづちを打って“あなたの話しを聴いています”と態度で示します。相手の感情に合わせて“一緒に踊る”ような気持ちで、感情の起伏に合わせてうなづいたり、あいづちを打つのです。楽しい話しは楽しく、悲しいときは自分も一緒に悲しい気持ちを味わいながら体感的に理解をしようと試みる。頭で文脈を理解しようとするのではなく、肌感覚で理解しようとするスタンスをもってみてください」

2)くり返す
「話し手は自分が話した内容を相手に“くり返してもらう”と、 “ああ。ちゃんと聴いてもらっているんだ”と安心します。聞き手が黙ったままだと“あれ。自分はこのまま話しをしていていいのかな?”と不安になってしまうものなのです。話しに寄り添ってそばにいる感じを意識しましょう。そして話し手がわかって欲しいのは“事実”ではなく“感情”です。たとえば“やっとディズニーランドへいけたんですよ。だけど…”と言われたとき。“ディズニーランドへ行ったんですか!”と事実をくり返すのではなく、“やっと…”“だけど…”と、その人の気持ちが表れる“形容詞ではない言葉の端っこ”をくり返すことが大切です。すると、事実の裏側にある気持ちを引き出すことにつながり、話し手は心の奥にしまっていたことを口に出して話しやすくなるのです」

3)自分が理解したことを確認する
「相手の話しを受けて、“なるほど。君が言いたいのは○○ということなのか”と、決めつけたりすることはありませんか? 聞き手が断定してしまってはいけません。“今聞いていたら、○○が問題のように受け取れたけど、それであっている?”と、話し手に確認をとりましょう。その人を“より、しっかり知ろう”という姿勢を見せるのです。話しをしっかり受け止めて、それを伝え返すことが大切です。話し手は聞き手に信頼感を感じると同時に、自分の話したことが整理される糸口にもなります」

「人の話しを聴くときに、もうひとつ注意したほうがいいことがあります。“でも”という否定の言葉は使わない。“君はそう思うのか。でも僕はこう思うよ”と言われると、話し手は自分が否定されたような気持ちになります。“君はそう思うのか。僕はこう思うよ”と、並列で話すように気をつけましょう。傾聴を学んで実践をしていくと、だんだんと人の話しを聴くことが楽になります。自分が聴きたくなってくるんです。実は聴くスキルは、聴く人が楽になるためのものでもあるのです。他者への理解や関心が深まると、相手も同じように自分に理解や関心を示してくれる。人間関係によい循環が回り出します」

イラスト=さいとうひさし

プロフィール
岩松正史(いわまつ まさふみ)
1973年長野県生まれ。一般社団法人日本傾聴能力開発協会 代表。産業カウンセラー。国家資格キャリアコンサルタント。“仕事もプライベートも傾聴で90%うまくいく”を信条に、2005年から心理カウンセラーとして活動。引きこもり支援NPOの相談員、傾聴ボランティア育成、カウンセリングルームの運営、企業、団体向けのメンタルヘルスケア研修などを精力的に行う。2007年から始めた、聴き方の基本を効率的に学ぶ傾聴1日講座®は全国で270回以上開催。 受講者は4000人を超える。“聴く”ことに対する誤解を解く著書、『「ねえ、私の話聞いてる?」と言われない「聴く力」の強化書―あなたを聞き上手にする「傾聴力スイッチ」のつくりかた』(自由国民社社)も好評発売中。


(執筆:谷畑まゆみ)