詐欺で騙されたり、つい知人の嘘を信じてしまったりすることがある。そこにはどんな理由があるのだろうか? 社会心理学者の渋谷昌三氏に聞いた。

プロの手にかかれば素人は間違いなく騙される

--なぜ人間は、騙されてしまうのでしょうか?

人間には、基本的に何らかの欲求があって、それを手に入れるために行動します。そう考えると、例えばお金に関心のある人は「お金にまつわる話」に食い付いてしまう。その欲求があるので、まず話を聞こうとします。

すると詐欺などの場合は、相手が説得(騙す)のプロなので、プロにかかれば大抵の人が騙されるのは当然でしょう。こちら側が「話を聞く」ことでプロの土俵に乗ってしまう。これが間違い。そして欲求がなければ、そもそも騙されるキッカケにもならないのです。

心理学的には、このテクニックを説得的コミュニケーションと言うのですが、説得をするためのやり方はいろいろ研究されているんですね。素人がプロと対峙してしまえば、騙されてしまうのはやむを得ないところがあります。

--ですが「自分は騙されない」と意思を持っていたら、大丈夫そうですが

テクニックの巧さにもよるのですが、相手が話に乗ってさえくれれば、説得の研究だとOKなんですよね。返事をしてくれれば、その後はプロの手でうまく相手を説得できることがわかっています。

1番の問題は、「相手が話す内容に関心がある」という欲求です。 よく警察でも、個別訪問の詐欺被害に遭わないように「すぐ断る」「話を聞かない」と注意喚起をしていますよね。それはこのような理由があるからなのです。

知人の嘘を信じてしまうのは、信頼関係があることが原因

--詐欺などで騙されるときの心理はわかりました。では、騙すプロではない知人の嘘を信じてしまうのはどうしてですか?

まず、心理学的に厳密に言うと、騙すつもりがなくて事実と違うことを話して、相手が信じてしまうことは「嘘」ではないんですよ。でも、知人の言う本当でないことを信じてしまうことはありますよね。

それは関係性の問題となります。こういう「嘘」は、親しい人同士、もともと信用している人でやる場合が多いはず。「信頼している人の言うことだから」と、素直に信じてしまうのは当然の心理なのです。 

そしてもうひとつとして、「嘘の内容がもっともらしい」「信憑性がある」と信じてしまいやすいです。例えばダイエット食品の広告で、「医学博士の⚪︎×さんが勧めています」みたいな宣伝がありますが、こう表現すると本当でなくても信憑性が増すのです。友達に嘘をつくときも、前段階として「あの雑誌に載っていたんだけど」などと振っておくと、相手が信じる可能性は高くなります。

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「自分は騙されない」と思っている人ほど、騙されやすい

--騙されるのにはそんな理由があるんですね。嘘を信じ込みやすい人の傾向などはあるんですか?

さっき指摘した「欲求」の個人差が関係して、何に興味を持つかによります。ただ、共通して言えるのは「好奇心が旺盛な人ほど説得されやすい」ということ。ちょっと話しただけで関心を示してくれる人、自分に必要があろうがなかろうがとにかく興味を持ってしまう人です。

つまりは、聞きたがりの人はあぶないです。 その理由は、やはり説得の土俵に乗りやすいということになります。つい会話をしてしまい、知らないうちに騙されているということが、研究でわかっています。「とりあえず話を聞いて、きちんとあとで調べれば騙されない」と思っている人ほど、実は怖いんですよ。

--「騙されないと思っている人ほど騙される」。ちょっと矛盾を感じる表現です


騙されないと思っているから、話を聞いても大丈夫だという自信があるんですよね。でも、プロの手にかかってしまうと、いつの間にか騙される。友達関係でも、好奇心旺盛な人、ちょっと話しかけるだけでいろいろ答えてくれる人は騙されやすいです。

--信じてしまいやすい性格の傾向はそうなんですね。ほかに、例えば精神状態の状況によっても変わってきたりするんですか?
 

気落ちしているときなどでしょうか? この場合、実はワンクッションを挟み、騙されやすい状況に陥っているのです。気落ちしているようなとき、人間は誰かと話がしたいという「親和欲求」が生まれます。 

こういうときに話しかけられると、つい話の土俵に乗ってしまうんですよね。そして話を聞いてもらうと相手を信用してしまう。これは老人だけでなく、若い人たちであれば失恋したときなどにありえそうですね。年齢では一概に言えないところがあります。

嘘を見極めるの方法は、相手の顔から下の動きに注意する

--ここまでは騙される心理を伺ってきました。ここからは騙されないための「嘘の見極め方」を教えてください。

心理的な観点のほかでいうと、対面して話した方が人は騙されやすいということでしょうか。普通は「直接会えば嘘を見破れる」と、逆のような気がすると思うんですが、実はそうではない。会って話すと、相手の表情が変化したり、視線や仕草などいろんな情報が入ってきたりするので話に集中できないんです。

ですので、まず面と向かって話を聞く場合は、ずっと下を向いていることが有効です。相手を見ないことで話だけに集中でき、騙そうとする相手はどこかで矛盾した発言をするはずなので、それに気がつくことができます。

「嘘は顔色に出る」と言いますが、心理学の実験だと嘘をつくことに慣れている人は、顔に出さないトレーニングをしています。ポーカーフェイスという言葉があるように、上手な人は顔に出しません。「顔を見れば嘘かどうかわかる」と信じる人は多いですが、それは間違いなんです。

--表情でわからないとなると、どうしたら見破れるのですか?


そこで「嘘をついているかどうか」がどこに出るかというと、顔から下と言われています。手で顔を触るとか「手が落ち着かない」ということがあるんですけど、それは嘘をついている可能性が高い。そんなときに冷静に質問していくと、相手は動揺してしまいます。

--無意識に顔から下に出るんですね

そうなんです。その他としては、応答が早くて、手短にしゃべるという傾向があります。なぜかというと、嘘が用意されているからなのです。「こう聞かれたらこう答えよう」と、すぐ答えが出せる準備をしているんですよね。

例えば、振り込め詐欺にはマニュアルがあるようですけど、そういうことですよ。「スムーズに答えたから正しい」ということは一概には言えなく、あまりにもスムーズすぎると嘘である可能性が高いのです。

そして、このような疑いが生じてきたら、相手に話させるのが手です。嘘をつく人は話しているうちにバレてしまうのが怖く、早く聞き手側に回ろうとします。そこで自分が質問を続けることで、話の矛盾を見つけていくのです。 このようなことを理解しておくと、騙される可能性は低くなるのではないでしょうか。

心理学の視点からの「騙される理由」と「嘘の見破り方」はとても勉強になった。ただこれを学んだことで、「自分は騙されない」という自信を持ってしまうことは避けなければならないだろう。

◼︎渋谷昌三氏
社会心理学者、東京都立大学大学院博士課程修了、文学博士。山梨医科大学教授、目白大学教授などを歴任。「人はなぜウソをつくのか」「ウソつきの心理学」「めんどくさい人の取り扱い方法」など、多数の著書がある。

文=重野真