男性不妊の鍵を握る、「実年齢」と「体内年齢」

第1回で明らかになった、不妊治療に対する男性の意識の低さと、男性不妊の定義。
では、男性不妊の原因とは一体なんなのか。引き続き泌尿器科医の小堀善友氏に話をうかがった。

「男性不妊のもっとも大きな原因は、ズバリ『加齢』です。男性は35歳を過ぎると精子の状態が悪化してくるといわれています。精子の量や濃度、運動率には変化がなくても、染色体の中にあるDNAに損傷ができ、自然妊娠がしづらくなる可能性があるのです。また、年齢を重ねると精子中のY染色体を持つ『Y精子』が減り、女の子ができる可能性が上がるともいわれています」(小堀氏、以下同)

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晩婚化の波と、妊活開始から不妊を疑い病院に足を運ぶまでに時間がかかるなどの要因により、最近は40歳を過ぎてから初診に来るというカップルが多い。そして、不妊に悩む男性も、男女の割合としては増えつつあると小堀氏は話す。

「年齢は男性不妊を考えるうえで重要な要素ですが、実年齢とともに『体内年齢』にも着目しなければなりません。睡眠不足や運動不足、肥満、喫煙、乱れた食生活など、生活習慣が悪いと活性酸素が過剰に生成され、体内に酸化ストレスを増加させます。酸化ストレスは動脈硬化、心筋梗塞、糖尿病、癌など、さまざまな病気の引き金になるだけでなく、不妊症の原因にもなるのです」

1年以内に済ませたい不妊治療

もちろん、加齢や生活習慣の乱れ以外にも男性不妊には原因がある。

「精巣から心臓に向かう静脈内の血液が逆流し、精巣の周りに静脈のコブができてしまう精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)も男性不妊の原因の36.6%を占めるといわれています。この場合、触診やエコー検査を行い、状況によっては下腹部を切開して睾丸の横の血管を縛るといった手術を行うこともあります。この他、性病や先天性による無精子症なども男性不妊の原因として挙げられます。性病が原因の場合、精路(精子の通り路)が塞がっているだけであれば、精巣では元気な精子が生成されているため、手術によって問題を改善できることも。男性不妊の手術は保険外診療になるため、費用は大体50万円程度はかかります。不妊治療にはお金がかかりますが、加齢とともに状況は厳しくなってしまうため、手術が必要な場合は1年以内に行うことを推奨しています」


仮に無精子症が発覚しても手術で改善することは可能だ。しかし、時間が経つほど状況が悪化していくのは言うまでもない。できるだけ早く検査を受け、自身の精子の健康状態を把握しておく必要があるだろう。とはいえ、男性不妊の検査自体に抵抗がある人もいるのではないか。一般男性300人にアンケートを取ってみた(※)。

回答者の6割近くが「抵抗がない」という結果になった。検査自体は時間もかからず、女性に比べると行いやすいもの。もし自身の精子の健康状態が心配という方は、早めに検査を受けることをオススメする。

遅れをとる男性不妊の医療…男性ができること

第1回で小堀氏が語った男性不妊と女性不妊の歴史的な認識の違いにより、現状男性不妊の医療は、女性不妊の医療に大幅に遅れをとっている。そのため、男性不妊についてはいまだ原因がわからないということも多いという。一方、女性不妊の治療技術は近年飛躍的に発達しているため、例えば男性側に不妊の原因があっても、元気な精子のみを採取して人工授精をするという選択肢もあるのだ。

つまり、結局のところ男性にできることは残念ながら少ない。
しかし、この現状に“諦め”を感じるのではなく、だからこそ、できることに対して確実に取り組んでいくのが良いのではないだろうか。

「体内年齢を保つためには、『よく寝る』『運動する』『痩せる』『タバコを吸わない』『栄養バランスのとれた食生活をする』といった基本的なことが重要になります。また、コエンザイムQ10やアスタキサンチンなどの抗酸化サプリも効果的です」

生活習慣の見直しは、今日からでも始められる身近なアクションだ。もしあなたが現在、自分の子どもを持つという未来図を描いていないとしても、自分自身の健康のために、日々の生活を振り返ってみるのもいいだろう。また、パートナーと不妊に悩むときは、女性任せにせず、ぜひ男性も一緒に精液検査を。不妊治療専門の医師がいる泌尿器科などでは検査の当日に結果を知ることもできる。不妊は女性だけの問題ではないのだ。

■小堀善友氏
獨協医科大学越谷病院 泌尿器科医。2016年4月24日 宮城県仙台市にて開催された日本泌尿器科学会にて、ボールレンズ(小さな拡大レンズ)を用いた精液検査をテーマにした研究発表が、総会賞を受賞。2016年5月6日 アメリカ・サンディエゴにて開催された、アメリカの泌尿器科学会(AUA2016)にて、ボールレンズ(小さな拡大レンズ)を用いた精液検査をテーマにした研究発表がBest Poster Awardを受賞。

Facebook:コボちゃん先生射精障害講座
連載:ヨミドクター「オトコのコト医師・小堀善友ブログ」

取材・文=下條信吾
写真=高山諒

(※インターネットによる独自調査。調査期間:2017年3月実施。調査協力:ネオマーケティング)