特集「○○にサラリーマン人生を振り回されない」、2回目の今回取り上げるテーマは初回に続いて「人間関係」。そのなかでも、まさにサラリーマン人生の主戦場、「職場」の人間関係だ。
今回も、第1回に続いて対人関係療法の専門家、精神科医の水島広子さんにお話を伺った。

完璧じゃない自分を見せていい

読者のみなさんのなかには、なんらかのリーダー的立場について部下を指導する役割の人も多いかもしれない。

部下といえば、仕事を仕上げるスピードもクオリティも千差万別。仕事の内容さえ伝えれば動いてくれる人がいる一方で、励ましたり褒めたり、が必須の部下もいるだろう。注意するたびに反抗的な態度を取られる…なんて困った部下もいるかもしれない。

「思ったように動いてくれない後輩には、頭から否定するのではなくて『なぜ、その働き方になるのか』を責めないでよく聞いてみてください。いったん自分の考えは脇に置いて『インタビュー』することが大切です。すると、例えば仕事が遅い人なら『昔、自分のミスが取り返しのつかない失敗につながった』という事情があったり、どんな人にもその働き方につながる『なるほど!』なポイントが見つかるはずです。そこを掘り下げて聞いてあげましょう」(水島さん、以下同)

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見つかった問題点を指摘するときに大切なのは、一般論として「こっちが正しいから」という言い方をしないことだという。なぜなら正論をぶつけると、相手は「自分を否定された」と受け取りやすいから。そうではなくて、「私はこうしてもらったほうがやりやすいから」と、あくまで自分を主語にすることが大切だ。

「自分は完璧ではない、という前提に立って、『自分は任せたほうが楽なタイプだから』とか『干渉しすぎちゃうタイプで…』とか伝えておくのがおすすめです。そして、相手との最適な仕事の進め方を話し合う。例えば、過干渉の上司、対、干渉を嫌う部下という構図ならば『ついつい干渉し過ぎちゃうかもしれないけど、適当に聞き流して』と言っておく。そうやってコミュニケーションを取りながら進めていければいいですよね」

こう言うと、「完璧じゃない面を見せるとナメられるのでは?」という不安が頭をもたげるかもしれないが、それに対して水島さんは「人間関係なんて『自分は完璧じゃない』って言ってる上司の方が絶対尊敬されます(笑)」と断言する。

「どこから突っ込まれるかなってビクビクしている上司のほうがよっぽど小物に見えますから。まず『ナメられるかもしれない』ってそういう発想自体がナメられるんだって思ったほうがいいですよ(笑)」

職場は「よく知らない人同士」のコミュニケーション

では、上司との関係性についてはどうだろうか?
それに対して水島さんは「まず、『上司とは人格者である』なんて絶対に期待しちゃいけません」と語る。

「もちろん年数分苦労して高い人間性を備えた上司もいますが、みんながそういうわけじゃない。上司が人格者らしくない態度を取るたびにイライラすると自分が疲れちゃうので、そういう場合は、たまたま上司になっちゃっただけの人なんだなって思うことです」

難癖をつけてきたり、あまりに過干渉だったりと、明らかに「適切な態度ではない」上司に対しては、「困った人だ」と頭のなかで自動翻訳してしまったらいい、と水島さん。攻撃的な態度は、自信のなさや、満たされなさなど、その人個人の問題の裏返しだという。
だから、こちらの問題と同化して心を乱す必要は全くない。線引きして「受け流す」術を知るだけでも楽になれるはずだ。

「『受け流す』ことを、人として冷たいのではないか、と思う必要はありません。例えば、電車で困った人と乗り合わせたときには、うまくやり過ごしたいと思いますよね? あらゆる場面で『人間的な成長のため』と真正面から突っ込んでしまっては身がもたない。職場という環境も、同じ車両に乗り合わせたのに近い感覚だと思ってください」

つまり、自分自身に対しても「人格者である」ことを期待しないのが吉だ、ということ。

「部下の話をじっくり聞くのは、いい上司になるためというより、信頼してもらえたほうが部下がよく働いてくれるからです。もちろん人間だから人情もあって、部下がかわいいという感情もある。でもそれとこれとは別の話です。

最低限の骨組みとしては、職場は仕事をする場で、人間関係を構築する場所ではない。だから、滞りなく、楽に仕事ができることが一番だと思います」

とにかく「職場」という空間は特殊だ。
「関係性としては親しくない、『よく知らない』相手と、下手したら家族以上に長い時間をともに過ごすのです。さらに利害関係も生じます。様々な背景を持ち、様々な事情を抱えた人々が集まっていて、家族のように『以心伝心』とはいきません」

職場の人間関係は、「よく知らない人」同士のコミュニケーション。知らない相手には期待できないし、知らないのだから、相手の話を聞かないとスムーズに仕事はできない。
この前提を忘れないことが、職場の人間関係に振り回されないコツ。自分自身を救ってくれるのだろう。

水島広子さん
慶應義塾大学医学部卒業。同大学院博士課程修了。医学博士。同大学医学部精神神経科勤務を経て、現在、対人関係療法専門クリニック院長。慶大医学部非常勤講師。日本における対人関係療法の第一人者。2000年6月〜2005年8月、衆議院議員として児童虐待防止法の抜本改正などを実現。著書に、ベストセラー「女子の人間関係」(サンクチュアリ出版)「怒りがスーッと消える本」「自己肯定感、持っていますか?」(大和出版)、「対人関係療法で改善する 夫婦・パートナー関係」(創元社)、「部下をもつ人の 職場の人間関係」(ダイヤモンド社)など多数。

イラスト=ひぐちさとこ
文=高木沙織