ストレスに慣れてしまうことの危険性

1週間にわたってお送りしてきた特集「不健康診断——その我慢が落とし穴」。最終日の本日は「ストレス」だ。

40歳前後のビジネスパーソンは、まさに働き盛り世代で中間管理職に就く人も多いだろう。責任を負わされるわりに裁量権はそれほどでもない場合も多く、上司と部下に挟まれて嘆く悲哀多き世代かもしれない。さらにこの年齢ともなれば体力の衰えも否定できず、家庭でも子どもの受験、進学など大事な節目が次々に訪れる。

この世代は日々のストレスとどう付き合うべきなのか? 健康社会学者の河合薫さんに話を伺った。

「40歳前後のみなさんには逃げ場がありません。上からは成果を求められ、下と接するにもパワハラだセクハラだと懸念点が多い。
また、マネジメントに専念すればいいわけでもなく、自らも現場に立つ『プレイングマネージャー』なので、余計に負荷が大きいのです」(河合薫さん、以下同)

夕方に、部下への指導と上司への報告が終わって、さあ、やっとこれから自分の仕事…とやっていれば、あっという間に終電の時間だ。働いても働いても、仕事が終わらない。平日は慢性的な睡眠不足という方も多いだろう。

「人間は『適応する動物』です。だから、ずっと忙しくてストレスの雨にさらされ続けると、その雨に慣れて感じなくなってしまう。
事実、過労死する人たちは、長時間労働に慣れて身体の悲鳴に気づかず心臓疾患や脳疾患の病気を発症して突然死に至るわけです。人間の脳の前頭葉には疲れの見張り番センサーのような部位があって、疲れを感じると休息を取るよう指示を出します。
私たちが疲れたら、眠気やだるさを感じるのは、そのためなのですが、その指令を無視して無理し続けると見張り番が疲れ切って指示を出せなくなってしまうのです」

よく「昔は8時間寝ないとだめだったけど、4時間睡眠に慣れちゃったよ」というような語りを耳にするが、それは要注意。「見張り番」が疲弊しているサインだということを自覚してほしい。

自分で自分を守るためのルールを作る

河合さん曰く、「『ストレスの雨』続きの働き盛り世代」には、だからこそストレスを回避する「傘」が必要なのだという。
その傘とは、自分で自分を守るための「自分ルール」。これを自ら意識して設定しなければならない。

「例えば、辛いと思ったら平日に思い切って休みを取る勇気を持つこと。丸1日休む勇気がもてなかったら、半日でもいいです。勤務中でも『今日は必ず1時間につき5分の休憩を取る』と決めて、トイレやお茶の時間を設けてみる。
ときには『今日は社内にずっといないで、近くのコーヒーショップで仕事してみる』と決めてみる。そうやって意識的にルールを作って『傘』を増やしていってください」

少しでも息抜きできるなら、どんなルールでもいい。ここで大切なのは、自分のためにルールを決める=自分のことを顧みる時間を設けることだ。
この行為そのものが、まわりに左右されず自分自身の時間を自分の手元に取り戻すことにつながるだろう。

「そもそも人間が集中できる時間は約60分、最大でも90分までと言われています。だから、ちょっと休憩することのほうが、結果的にはパフォーマンスは上がるんですよ」

休めるリーダーが、チームの雰囲気を変える

そのストレスが、合間の休憩でも対処しきれないほどに重大ならば、思い切って休みを取る勇気をもってほしい。
とはいえ、周りの目が気になったり、出世に影響が出るのでは…と踏み切れない方も多いかもしれない。しかし、多くの経営者のリアルな声を聞いてきた河合さんは「心配しないで」と言う。

「実際に経営者のみなさんに話しを聞くと、休暇の取り方で評価が変わることはない、と口を揃えて言います。長いこと休むことがあっても、きちんと仕事をする社員は高く評価されます。むしろ『アイツは休暇を取ったからダメだ』なんて評価をするような上司は、使えない上司だ、という声がほとんどでした。

それに、みなさん周りの目が気になるかもしれませんが、アナタが思ってるほど周りの人はアナタに興味ないんですよ(笑)。だから、どうぞ自由にしてください!」

「みなさん、忙しい=仕事がデキる、と思い込んでいませんか? 休んでいると、暇で仕事がないと思われてしまうんじゃないか、と。でも、そんなことはありません。
仕事がデキる人は例外なく、よく遊びよく学んでいます。そういう上司が、部下から見ても一番カッコいいんです。遊びの部分を持てる、休める余裕があるからこそ新たに学ぶ余力もうまれます。
若い部下のためにも、40代の中間管理職が自ら『休んだほうがパフォーマンスが上がるんだよ』と、進んで休みを取る。そういう空気をチームに作れる、カッコいい上司になって欲しいです」

チームのメンバーが皆しっかりと休みを取り、パフォーマンスを発揮して結果を出す。それが証明できれば「昭和的な長時間労働」に固執する面々も納得せざるを得ない。少し時間がかかっても、絶対に結果はついてくるので休む勇気をもってほしい、と河合さんは語る。

今こそ、過去からの流れを断ち切るべきときだ。
部下を抱える中間管理職の人々こそ、自分のためにも後に続く若者世代のためにも、ストレスを我慢しない働き方へと踏み出してほしい。

■河合薫(かわいかおる)
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークし、その数は600人超。メルマガ「デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』」(毎週水曜日配信)

文=高木沙織
写真(人物)=芹澤裕介
イラスト=前田はんきち