目が仕事のパフォーマンスを左右する

「不健康診断」第2回のテーマは、眼精疲労。パソコンやスマホと現代人は目を使いすぎであり、常に疲れている。とはいえ、「今日は目が疲れたから早退します」なんて人は、まずいないだろう。それだけ放置しやすい症状だが…。

「眼精疲労を放置すると、そこから頭痛や肩・首こりが起こる。これは誰でも経験があるでしょう。でもそれだけではなく、思考が低下します。さらに目の疲れが長期間にわたると、倦怠感・不眠・軽度のうつなど自律神経失調症にもつながります」とは、眼科医の森岡清史先生。

自覚しづらい目の疲れだが、「こまめなリセット」を意識しなければならない。
そもそも現代人の目を疲れさせる最大の原因は、パソコンやスマホだが、そのメカニズムとは?

「どちらもバックライトの機器で、目にとっては画面が光るものを見続ける状況は非常に過酷なこと。目は、強い光を浴びると、虹彩が動き瞳孔を調整し、『交感神経』にスイッチを入れます。人は、交感神経が優位になると行動が活発になりますが、常にそれではからだを休められません。強い光を長時間目に浴びせ続けると、虹彩の動きが鈍くなり、リラックスできる『副交感神経』へのスイッチが切り替わりづらくなるのです」(森岡先生、以下同)

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そう、目の疲れが引き金となって自律神経のバランスが崩れてしまうのだ。となれば、全身に影響を及ぼすことは言うまでもないだろう。

目の疲れとは、表面が乾きゴロゴロする、だけではない。目の「筋肉」のこわばりもその原因となる。

一般的に筋肉というと、手足や腹、背中などの部位をイメージするかもしれないが、例えば目がピントを合わせる時に働くのも、「毛様体筋」という「筋肉」だ。

肩周りの僧帽筋などの筋肉のこわばりによって「肩こり」が起こるように、目の筋肉がこわばり、血流が悪くなれば眼精疲労が起こる。そしてこの筋肉のこわばりが、前述の『交感神経』を過剰に働かせ、顔面から首の筋肉を緊張させ、脳への血流を制限することにつながるのだ。

目が疲れると思考も鈍くなる

脳への血流が悪くなると、当然のごとく栄養も酸素も巡らないため、頭の回転が低下する。さらに“見え方”が悪いことも、思考力に影響するという。

「視力と思考力には密接な関係があります。ものを見ると、網膜は視神経を通して脳中枢へ信号を伝達します。脳中枢に届いた信号を、前頭葉や言語野など様々な分野が連携して情報を解析。ものがクリアに見えれば、脳も即座に働きます」

長時間目を酷使したあとや、夕方になると、頭が働かないことを経験した人も多いだろう。あなたのパフォーマンスの低下は、目の機能も低下していることが原因でもあるのだ。

さらに目の筋肉の緊張が引き起こす、交感神経の過剰な働きに関わるリスクも改めて説明しよう。

「交感神経が過剰に働くと、体はいつまでも休まらない。うまくリラックスできなければ、いつまでも寝付けないことに。するといつまでも全身の疲れが取れません。疲れが慢性的になると、あらゆることにやる気がなくなり、軽度のうつ状態になります。しかしその原因が“目”にあることには気がつけない人が多いのです」

疲れ目に効く3つのアドバイス

放っておくと仕事だけではなく、全身の健康をも蝕む目の疲れ。ではどのように回復させればいいのか。誰にでもできる3つの方法を伝授してくれた。ひとつ目は「よく動かす」こと。

「目を頻繁に動かすことで、目の筋肉にたまった疲労物質である、乳酸と活性酸素を流すことができます。もっとも疲れがたまるのは、先ほどご説明したピントを調節する『毛様体筋』。ここがこわばったまま固定されると疲れがとれません。パソコン作業に集中して疲れたなと思ったら、まず遠くを10秒くらい見ましょう。遠くといっても、窓の外の緑を見てくださいとまでは言いません。たった『3メートル』くらい先でも効果があります」

森岡先生がお勧めしているのが、通勤電車での「つり革」を使った目のストレッチ。つり革の根元、近く手元を30秒見て、次につり革の輪を通して、3m以上先の遠くを見る。この動きを繰り返して目を動かすのだ。

続いての疲労回復法は、目を温めること。

「目のまわりを温めれば、毛様体筋がゆるみ血流が良くなります。その際、蒸しタオルなど、特別なものはいりません。といいますか、むしろ短時間で急速に温めると、反動で急速に温度が低下するのです。すると目の筋肉が再びこわばることもある。だから乾いたタオルを目の上に置くだけでもいいのです。これも30秒程度でもはじめてみてください」

大事なことは疲れが溜まりきる前に、「こまめにリセットする」こと。こまめに“目を閉じる”ことを習慣化してしまうだけでも回復は早まる。

最後は、目に良いサイクルを生活に取り入れること。先述したように、同じ筋肉ばかりを酷使することが疲れには良くない。メリハリのある1日を送ることだ。

「視力矯正が必要な人は、メガネやコンタクトを1日のうちで使い分けます。午前中はメガネで出勤。お昼休みにアイマスクなどをして15分ほど休憩。午後はコンタクトを装着。夕方に目が疲れてきたら、1時間ごとに3メートルでも十分なので『遠く』を見てストレッチ。夜はお風呂でタオルを目の上に乗せてリラックス。寝る前はパソコン、スマートフォンは触らない。部屋の灯りを落としてすごしましょう」

やることがいっぱいあって大変だと思うだろうか? でも、習慣にしてしまえば、考えずに自然とできるようになるだろう。まずは、パソコンの横に「1時間ごとに3メートル」などと付箋を貼ってみてもいいかもしれない。

たかが疲れ目だが、その影響は大きい。仕事の効率にも影響を与えることをお分かりいただけただろうか。さて、まずはこの記事を読了後に、目を閉じ、その後、「3メートル以上先を10秒間」を見る。ここから実践して欲しい。

森岡清史 もりおかきよし
医学博士。吉祥寺森岡眼科院長。浜松医科大学医学部卒業後、東京大学大学院医学系研究科にて網膜色素上皮細胞の研究(微細形態)に従事。東京大学大学院を修了。医学博士授与。日本眼科学会眼科専門医に認定。
東京医科大学眼科の勤務、田無第一病院眼科医長を経て、吉祥寺森岡眼科を開設。1998年からは全国でも数少ない眼精疲労治療室を併設。著書に『目を温めると身体が自然によみがえる!』(サンクチュアリ出版)など。

文=武藤徉子
イラスト=前田はんきち