北斗の拳」「サンクチュアリ」など数々の人気漫画の原作を手がけ、70歳の今なお作品を生み続ける漫画原作者の武論尊さんにお話を聞きました。

武論尊さんは、航空自衛隊を経て、漫画のアシスタントの仕事を始めその後、漫画原作者としてデビュー。

代表作には「ドーベルマン刑事」「北斗の拳」「サンクチュアリ」「HEAT-灼熱-」など、熱烈な男性ファンが多くいる人気漫画の原作を手がけています。現在「BEGIN」を連載中。(「史村翔」名義でも活動)

鈴木理香子アナ
古市さんと武論尊さんが元々お知り合いなんですね。

古市憲寿
共通の友人を介して漫画のパーティーとかでお会いして、それから何回か食事をした。それで僕の友達もみんな仲良くしてもらっていて武論尊さんに「鈴木さんのことを紹介して欲しい」って言われたから(笑)

武論尊
そうだっけ?

鈴木
一度私も含めてお会いしたことがあって…ロケットニュースのお二人も緊張してますね。お二人かなりファンだということで。

古市
武論尊さんやっぱりすごいんですね。僕の周りの人おじいちゃん扱いだったんだけど。

鈴木
古市さんずっと私にも「おじいちゃんを紹介するよ」って言ってたんですよ。

P.K.サンジュン(ロケットニュース24記者):
先生、僕がやっつけましょうか?

武論尊
あのクラスは自分で大丈夫(笑)

漫画原作者になったきっかけ

鈴木
なぜ、そもそも漫画の道へ進もうと思ったんですか?

武論尊
漫画家には本当にまったくなろうと思ってなくて、自衛隊やめて食えないからプータローやってたら本宮ひろ志っていう自衛隊の同期がいるんですよ。(漫画家 代表作に「サラリーマン金太郎」「俺の空」など)

鈴木
自衛隊のときの同期だったんですか?

武論尊
そう、「お前仕事ないんだったら」って言われて転がり込んだ。そこで結局画もかけないし何もできないからただ麻雀やって酒飲んで、アシスタント集めて「給料安いから組合作るぞ」って言ってたらクビになった。その時の編集担当が「本宮から離さないと本宮が駄目になる」って思って、離すには俺に仕事与えなきゃダメだっていうんで「原作書いてみないか」っていうのが最初です。なろうと思ったんじゃなくてなっちゃった

古市
でも書いてくれって言われたらすぐに原作って書けるもんなんですか?

武論尊
不思議なんだけど、原稿用紙の書き方知らないから大学ノートにパパッてストーリーだけ書いて持って行ったら、編集に「あれ?おまえやれるかもしれないよ」って初めてそこで400字詰めの原稿用紙の書き方教えてもらって、それが最初です。

「北斗の拳」ラオウのあの名台詞 誕生秘話

古市
そんな中でみんなが大好きな「北斗の拳」ですよ。どんなところが好きですか?

サンジュン
北斗の拳」って愛と哀しみの漫画なんですよ。暴力漫画でもなく、少年誌としては一番おさえておかなきゃいけない所って、勇気・努力・友情そのへんなんですけど、そこからちょっと一歩踏み込んで愛と哀しみ、これをおさえているのが「北斗の拳」。

武論尊
俺に一番足りないものだね(笑)

サンジュン
先生は愛と哀しみのかたまりですから。

鈴木
先生ご自身もそれっぽいことを経験したからあの作品がうまれたんですか?

武論尊
いや経験なんかないですよ。あんなの全部空想ですよ

古市
「サンクチュアリ」とかも政治の世界をち密に描いてるって評判ですけれども、あれもあんまり取材とかされずに書かれたんですか?

武論尊
取材すると、例えば政治家さんと会っちゃうとそれが現実だから引っ張られちゃう。政治家さん一人も会ってないし、もちろん極道さん一人も会ってない。全くそういうことはしてない。

古市
やっぱり現実の方がつまらないですか?

武論尊
つまんないです。というか現実を知っちゃうとそこから出られない。最初から知らない方がいくらでも嘘が書けるんです

古市
でも想像力って限界があるというか、なかなか普通の人はそんなに想像ってできないけれども、それが絶えずできるのはどうしてですか?

武論尊
根っからの嘘つきってのがあるんじゃない(笑)

鈴木
武論尊さんの漫画にはいろんな男性が出てくるんですけど、モデルにしてるものとか自分の憧れとかあるんですか?

武論尊
ないよ。だってあんなかっこいいやつ現実にいるわけないじゃん。例えば、これが映画化するときに合う役者さんがいないんですよ。本当に架空に作ってるからモデルさんはいない。

鈴木
自分がこうありたいって思うから書いてる?

武論尊
かっこいいっていうのはこういう男だろう」っていうのは、自分の中の全能力を使って作る

サンジュン
それを日本全国の男たちに染み渡らせてるわけですからすごいことですよ。

鈴木
ラオウの名台詞「わが生涯に一片の悔いなし」はどうして思いついたんですか?

武論尊
たぶん本当に苦労して書いてるから、ラオウを引っ張って引っ張って最後に死ぬときに、多分あれは俺の仕事がもうこれで終われるんだみたいな。この作品に関しては書き切ってるかもしれないっていうのが出たかもしれない

鈴木
先生の言葉でもあった?

武論尊
かもしれない。あの台詞に関しては。

古市
名台詞とかいくつかありますが、ふっと思いつくんですか?

武論尊
いや、キャラクターがどういうことを言うかっていうのは結構悩む。それがキャラクターの一番の生命線だと思ってるから。すごい悩みますよ。キャラクターがいいと全部成長していくっていう言い方をするんだけど、例えばケンシロウって主人公だから受け芝居なんですよ。相手が強くなればなるほど強くなるんですよ。しょぼい雑魚キャラと闘ったってこれはただのチンピラなんですよ。ラオウとか強いやつと闘って初めてこっちが強くなっていく。なのでライバルをどのくらい強くするかってのは生命線。そうするとライバルに台詞を言わせなきゃいけない。だから一番苦労するのはかっこいい悪役の台詞

古市
主人公より悪役のかっこよさの方が難しい。

武論尊
主人公って高倉健さんみたいにやっつけて無言で去っていけばいいんだから。そっちの方がかっこいいでしょ。

サンジュン
先生、画は描かれないけど、先生の頭の中でストーリーが最初に生まれるわけじゃないですか。例えば「こういうキャラクターを作りましょう。雲のジュウザっていうのを登場させよう」って思うときに、先生のイメージとちょっと違うなって場合は口出ししたりはしないんですか?

武論尊
俺、画描けないから漫画家さんには一切言わない。俺はストーリー書くときに必ず映像で作るんですよ、画で作ってはいるんです。ところが、原哲夫先生とか池上遼一先生は俺の作ったものより全然すごいものが出てくるんで、それはすごいと思う。そうするとそのキャラクターをまた活かそうとしていい具合にまわっていく。
古市:そこはやっぱり信頼関係があるんですね。

逃げ出して牧場で働いたことがある

GO羽鳥(ロケットニュース24編集長):
先生でも締め切り遅れたりすることあるんですか?

武論尊
俺が締め切り遅れると漫画家さんの仕事がタイトになるから遅れちゃいけないんですよ。だから気をつけなきゃいけないんだけど一回逃げましたね

一同
(笑)

鈴木
本当に逃げたんですか?

武論尊
仕事全部やめて北海道行って馬の世話やってましたね

古市
「サンクチュアリ」の連載中、普通に連載してたのに逃げた?

武論尊
「休ませてくれ」って言って、他の連載も全部やめて3か月くらい逃げました。

古市
どうして北海道だったんですか?

武論尊
体を作ろうみたいな(笑)ちょっと病んでるんでしょうね。とりあえず体を元に戻さなきゃいけないっていうんで牧場で働くのが一番いいんじゃないかって。1か月くらいもろに働いたときに体がキュッと締まってきて「俺まだやれるかもしれない」って思って、やっぱり体って基本かなってのはあるね。

サンジュン
「サンクチュアリ」の中にもそういうシーンありましたよね。

古市
あれは実際に牧場に行った後に書いた?

武論尊
だったと思います。

故郷の長野・佐久市に4億円寄付

最近話題になった武論尊さんのニュースといえば…
武論尊さんが7月20日、経済的な理由で大学への進学が難しい子どもたちを支援する奨学金の原資として、出身地の長野県佐久市に4億円を寄付しました。奨学金は、学業に優れているものの経済的な理由で修学が困難な佐久市に住む若者らが対象で毎年10人、1人当たり年間100万円を4年間給付する。また武論尊さんや漫画家、編集者らが講師を務める「武論尊100時間漫画塾」を18年度、市内で開く。プロの漫画家や原作者を志望する人が対象で、受講料は無料という。

古市
最近ニュースになったのは4億円を郷里の長野県佐久市に寄付した。4億円ですよ。

サンジュン
俺4万円でも嫌ですよ(笑)

武論尊
魔が差したって言葉あるでしょ。本当にそうなの。4月1日エイプリルフールだったの。その日酒飲んでて何言ってもいいやと思ってたの。話でかくなって、ふと気が付いたら2日になってたの。これまずいって(笑)

サンジュン
かっこいいな。いくら魔が差したって4億円出てこないですもんね。

武論尊
4億ウォンだったんですよ(笑)

古市
また、地元の長野県佐久市で漫画塾を来年4月から開催。それは誰でも行けるんですか?

武論尊
今募集中。基本は近県、交通費だけは負担してもらうのであんまり遠くからだと来てもらえないと思うんで。受講料は無料。

古市
武論尊さんも中心になっていろんなこと教えるんですよね?

武論尊
教えるって難しいんですけどね。技術論とかは言えると思うんだよね。あとは俺みたいなこういう作り方もあるよとか。たぶん習作させて評価して「ああしなさい、こうしなさい」そういう教え方じゃないかな。

古市
画ってのはイメージできるんですけど、漫画のストーリーとかはセンスとか才能とか思っちゃうんですけどそうでもないんですか?

武論尊
たぶんね、よく本を読む、よく映画を観る、よく空想する、このくらいの能力が必要だとは思う。あとは本当にうまく嘘をつく能力。詐欺師的な能力って必要かもしれない。俺ももう少し度胸があればいい詐欺師になってますよ(笑)

現在連載中「BEGIN」で本気出します(笑)

武論尊さんがビッグコミックスペリオールで現在連載中の漫画「BEGIN」。物語の舞台は、現代の日本の沖縄。米軍普天間基地の移転問題に揺れる沖縄で、この日本を変えようと1人の極道と1人の警察官僚の生き様が描かれています。物語には尖閣諸島の領海侵入など、まさに今の時事的な内容も多く盛り込まれています。

古市
これ、なかなかきわどい漫画ですよね。沖縄を舞台にして沖縄の独立運動に関して、ここ最近の普天間基地の問題とかリンクしながら中国にケンカ売ってたりとかね。結構いろいろ大変なんじゃないですか?

武論尊
書いてるうちにそっちに入っちゃったって感じかな。

古市
ある意味「サンクチュアリ」の続編みたいな感じ?

武論尊
イメージ的には「サンクチュアリ」の続編書いてみようかなというのがあった。

古市
他にはどんな構想があってこの漫画書こうと思ったんですか?

武論尊
真面目な話になっちゃうんだけど、メディアの人とか文化人とかが一つの方向に偏っちゃってて、「この国をどこへ連れて行こうとしてるのあなたたちは」っていうのがどっかにあるのね。結論出してないの、反対するだけ。ちょっとフラストレーションというか俺の中でいろんなものがたまってきて、一人ぐらい結果っていうか答え出した方が良いんじゃないかって俺なりの答えをちょっと出したかったみたいな

古市
これから日本はこうすべきとか沖縄こうすべきとか。

武論尊
こうすべきじゃなくてこんな方法もあるんじゃないかという形だろうね。俺なりのね。

鈴木
連載を開始されたのも久しぶりでなぜ、沖縄のことを描こうと思われたのですか?

武論尊
沖縄を考えたときに結局日本全体も同じことなんですよ。沖縄も日本も本当に独立してるのか?沖縄を考えるときに日本全体を考えることにつながるんですよ。

古市
いまだに現役っていうのはかっこいいですよね。普通は大御所になっちゃったら書きたいものだけ書いちゃえって感じだけど、まだ大ヒットさせようとしてるわけですもんね。

鈴木
原動力ってなんですか?

武論尊
まだやれるんじゃないかというのがあるんですよ。だから毎回新連載やるときには「俺まだ本気出してないから」と自分に言い聞かせてからやるんですよ。

古市
これまで「北斗の拳」とかいろんなもの出してきたけど本気じゃなかった?

武論尊
そういう風に思わないといけないんですよ。

古市
じゃあ本気はいつ出すんですか?

武論尊
どっかで頭の中で俺まだ使ってない部分あるぞみたいなところある。100%使ってないぞっていう思いはあります。だからやれるのかもしれない。

古市
「BEGIN」は本気なんですか?

武論尊
出します(笑)

鈴木
今後どうしたいとかありますか?

古市
レジェンドになって静かに終えていきたいのか、それとももっともっとブレイクしたいのか?

武論尊
ブレイクじゃないけど俺はどこまで書けるんだみたいなところを挑戦したいっていうか、ずっと書き続けていたい。ニーズがあってオファーがあったら続けていたいと思ってるね。自分の老いとの戦いでもあるし、さっき言った自分の使ってない脳があるかもしれないっていう挑戦でもあるし、自分に対してまだ飢えてるのかなどっかで。

古市
70歳でこれってのが頼もしい。

武論尊
これが嘘かもしれない(笑)

古市
「BEGIN」は本気出して最高傑作になりそうですか?

武論尊:牧場行ってるかもしれないよ(笑)



(執筆:FLAG7)