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基本情報とニュースのおさらい

韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領への逮捕状を韓国警察が請求した。朴前大統領は、友人の崔順実(チェ・スンシル)被告を巡る国政介入事件の容疑をほとんど否認し、証拠隠滅の恐れがあるとして収賄などの疑いで逮捕状が請求された。30日の午前10時半から、裁判所で逮捕するかを判断する審査が行われるという。

アンカー佐々木俊尚:
韓国では、90年代に全斗煥(チョン・ドゥファン)と、盧泰愚(ノ・テウ)という2人の大統領経験者が、民主化運動の弾圧などの罪で逮捕されて実刑判決を受けたんだけど、朴前大統領が逮捕されたら3人目になる。韓国の歴史を見ると、なぜこれほどまでトップリーダーが、次々投獄されたり自殺したり亡命したりしているのか、どうもよくわからない。そんな謎を専門家の方に解き明かしてほしいなと思います。

「制度圏」と「運動圏」

慶應義塾大学名誉教授・九州大学特任教授  小此木政夫さん

韓国には「制度圏」と「運動圏」という言葉があります。「制度圏」とは、大統領や、議会や、与党野党、行政機関など、伝統的な政治制度のこと。「運動圏」は、利害ではなく正義を求めている。社会正義を求めていると言ったらいいでしょうか。ただ、正義といっても自分たちが求めるものが正義であるとしていますから、行動がかなり原理主義的なんですよ。慰安婦問題でも正義を求める人がいて、おばあさんたちが一人でも納得していなかったら抗議しなきゃいけないと、そういうことをしているんですね。

日本の場合は、代議制の間接性が非常に強いんだと思います。だから市民運動や社会運動などは選挙の間は比較的おとなしい。韓国の場合は、直接性と言ったらいいんでしょうか。参加型の民主主義で、いつも行動しているようなところがあります。その原因は難しいんですが、これは多分儒教的な文化ではないでしょうか。

朴前大統領は正義に反した

朴槿恵前大統領の政治手法というのは密室政治だとか側近政治とか言われていて、中の事はうかがい知れなかったんですね。ところが、ケーブルテレビがそれを放映し始めて、なにやら横にいる女性がいろいろやっているようだと。しかも徐々に贈収賄的な事件に巻き込まれてくる。これは正義に反するわけです。

韓国は儒教社会だから、インテリは正義を求めて抗議することが求められます。そして信じがたいぐらいの規模のデモが毎週行われたわけです。あのデモは、民主主義と言われればそのとおりなんですが、「制度圏」政治の欠点を修正しているんだと思います。

制度圏の欠点

「制度圏」の政治は、正義ではなく指導者への忠誠心を基準に動きます。指導者は、忠誠心に対して恣意的な人事でポストを与えたりするんです。その結果、親族が政治に介入してきたり、財閥と癒着したりする。それが伝統的な「制度圏」の政治の欠点なんです。

欠点はあるんですが、これは一種の文化なんだと思います。韓国はその辺の許容範囲が広いですから、朴前大統領も崔順実被告に頼ることはそんなに悪いことだと思っていなかった可能性があります。肉親と同じぐらいに感じていたんじゃないでしょうか。

もし今回のように「制度圏」の政治が改修されなかったら、もっと大変なことになっていたでしょう。例えば弾劾が成立しなかったら辞職する政治家が続出したり、デモが毎日行われたり、結局 騒乱状態になるでしょう。すると軍隊を出して戒厳令が敷かれる事態になるかもしれません。だから憲法裁判所は今回の事件を収集するうえで非常に大きな役割を果たしたと言えるんですね。

崔順実被告よりも大きな問題がある

大阪市立大学大学院経済学研究科教授  朴一さん

私は昨日、取材で行ったソウルから戻ってきたんですけど、朴前大統領を支持する人の抵抗運動は想像以上にすさまじく、特に土曜日のソウル市内は車がまったく動ない状態で大変な目に会いました。朴前大統領の支持者たちは次期大統領選が始まっても、そっちのけで抵抗運動を続けていくんじゃないでしょうか。

朴前大統領が友人である崔順実被告に秘密文書を見せたと言われていますが、それ自体は弾劾されるほどの理由ではないと思います。問題は財閥との癒着です。はっきり言うと、財閥を強請って大量のお金を引き出し、それを私的なものに流用したわけです。この事件が騒がれた背景には、経済民主化を希求する大きな社会の流れが存在すると思います。

韓国経済は自分で首を絞めている

朴前大統領の事件を追及すれば追求するほど、韓国経済をけん引してきた財閥と政治の癒着の構図が明らかになっているんです。サムスングループのトップが捕まったり、韓国3位の財閥SKグループが、免税店の権利を巡って大統領に裏金を流していた事が明らかになったり、ロッテグループも高高度防衛ミサイル(THAAD)関係で土地を提供した問題が大きくなる可能性があります。こういうことがドンドン出てくると、財閥叩きに発展していくわけです。財閥叩きとは、韓国経済が自分で自分の首を絞めている状態です。

次の大統領選挙のレースは、もうスタートしているんですけど、候補者はそろって「財閥解体」を口に出しています。この事件を契機に、本格的に財閥にメスを入れないと国民は納得しないという段階まで来ているんですが、それをやったら、経済が委縮して、失業率が高まって、逆に国民の不満が高まってしまう。「経済改革」イコール「経済の委縮」というジレンマにどう向き合っていくのか、国民にとっては苦渋の決断だと思います。

大統領の権限が強すぎる

朴前大統領は、盧泰愚や全斗煥と同じように逮捕される可能性は非常に高いと思います。なぜ韓国の大統領は、逮捕されたり問題を起こすものが多いのか。韓国の研究者の多くが唱えているのは「大統領の権限が強すぎる」ということです。

政治システムを分析すると韓国の大統領は、アメリカの大統領と日本の首相を合わせたぐらいの最強の権限を持っていると言われているんです。その権力を利用しようという財閥が群がってきますから、ここに腐敗の構造の根本があるんじゃないかと。韓国は今、大統領制自体を問い直す時期に来ているんじゃないかと思います。

佐々木俊尚のまとめ

結局、大統領に権力が集中しすぎていて、従来からある儒教的な縁故政治をやっている。年長の者は敬わなければならないとか、家族を大事にしなさいとか、政治の中枢にそういう人を引き込んでしまって、それが利権になってしまう。こういうことを乗り越えない限りこういう問題は繰り返されてしまうのでしょう。

ある意味、このシステムを変えれば、うまくいくようになるのかもしれない。しかし韓国は財閥に過剰に依存していて、今は経済が非常に良くない状況にある。例えばサムスンは、韓国のGDPや輸出の約2割ぐらいを占めいている。
鈴木アナの持っているgalaxyもその中に含まれていますよ。

一方国民は、財閥が政権と癒着しているという事にはすごい怒りがあって、財閥解体の声が出ている。でも財閥を解体すると今度は経済がうまく回らなくなる。そのジレンマをどうするのか。いろんな課題を抱えているので乗り越えるのは難しいでしょう。時間をかけて少しずつ落ち着いてくるのを期待するしかないと思います。