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神奈川県小田原市で生活保護受給者を支援する職員64人が「保護なめんな」などと書かれたジャンパーを着用していた問題で、新たにマグカップなどのグッズも作っていた事が分かった。なぜ作ったのか、なぜ着たのか、どこがいいのか?速水健朗が2人の専門家に伺う。

速水健朗の思うナゾ

ジャンパーの話は去年話題になったんですが、まぁ 謎が多すぎます。確かに不正受給は良くないです。それを根絶することは大事なことかもしれません。

ただ、生活保護の自立支援を担当している市の職員が、自分たちの連帯のために「なめんな」と書かれたグッズを作ったって言うんですが、それってどんな連帯なんでしょうね。これは専門家に聞きましょうっていう話ではないのかもしれません。

このジャンパーを着て家を訪ねるのは一般的にはあり得ない

NPO法人もやい 理事長 大西連さん

一番の問題は、このジャンパーを着て生活保護を受けている人の家を訪問していたという事です。生活保護を受けている人は、法律で家庭訪問を必ず受けなきゃいけないんですね。中には生活保護のことを周囲の人に知られたくないという人もいますから、通常はかなり配慮しています。こういったジャンパーを着て訪問するというのは、一般的にありえないという事だと思います。

生活保護の仕事をしている人=ケースワーカーは、かなり過酷な仕事であることは間違いありません。都市部だと1人で担当する世帯が100を超えるようなところもあります。それに加えて、高齢者の方には例えば介護の知識が必要になり、障害者の方には例えば病院の知識が必要になり、お子さんのいる家庭では例えば教育のことなど、かなり専門的な内容が求められるので、正直1人の方が抱えるのはとても大変なんです。そういうなかで小田原では、10年前に傷害事件が起きました。

小田原市は記者会見で、「10年前の平成19年当時、職員が生活保護を受給されている方から切りつけられる、という傷害事件が発生をいたしております」と説明。この事件がきっかけとなり「職員のモチベーションがだいぶ低下してきた。不正受給を許さないという、強いメッセージを盛り込みつつ、職員の連帯感を高揚させるために、当該ジャンパーを作成した」と述べた。

こういう“のり”で職員のモチベーションを高めていくという狙いが背景にあったのかなと思います。

不正受給の実態

生活保護受給者のうち、不正受給は金額でいうと0.4~0.6%と非常に少ないんです。国や自治体もかなり努力をしていて不正受給に関しては摘発を頑張っています。生活保護法自体も、不正受給対策のため2013年に60年ぶりに改正しているんですね。0.数%のために法改正をするぐらい、生活保護自体かなり厳しい制度改正をしているんです。

生活保護はこれからどうなるのか

今は、非正規労働が増えてきたり、企業自体も給与所得が下がっていたり、少子高齢化や核家族化で家族に頼ることも難しくなっていて、結果的に公的な支援ウエイトが大きくなっています。しかし国民年金だけだと一回も滞納しなくても、満額で6万5千円しかもらえないんです。

家族の在り方や、人口動態、働き方に合わせたセーフティーネットが作られていない事が今の問題で、生活保護が担っている役割が大きすぎます。例えば、年金制度の翼がもう少し広がってくれれば、生活保護に落ちてこない人が出てくるわけです。働ける年齢の人には、求職支援や失業手当の翼がもう少し広がってくれれば、生活保護で補足する必要がなくなるかもしれない。

若年の非正規労働者や低所得者が、高齢者になった時、年金で生活できるのか、そういうリスクも踏まえ、今のうちに将来への投資として、セーフティーネットをきちんと作る議論をもっとした方がいいと思います。

不正受給が増えるのは一生懸命探しているから

NPO法人社会保障経済研究所代表 石川和男さん

不正受給の件数は年々増えてるんです。なんで増えてるかというと、恐らく一生懸命摘発しているからなんですよ。直近だと、平成27年、2015年の不正受給の件数は43,900件です。だけど保護を受けてる全体の人数は214万人なので、比率でいうと4~5%ぐらい。金額で比較するともっと低くなっちゃって、0.4~0.6%ぐらいです。

本来なら、不正受給はもっと摘発してほしいんでしょう。ところが摘発するのにもコストがかかる。私から言わせれば不正受給は少ない方で、うまくいっていると思います。病気と一緒で、身体検査をすればするほど、病気の人は増えるんです。そう考えると、どっちがいいのか。これ以上コストをかけて調べるのか、もう0.5%ぐらい目をつぶってもいいという考え方もあります。ただ悪質な奴は一罰百戒で厳しい罰則を与える。こういうやり方のほうが抑止力はあるのかなと思います。

現金の代わりに現物支給で生活保護しよう

平成27年の統計を見ると、生活保護受給者の45%が65歳以上なんですね。これからも高齢化は進みますから、そうなると必然的に生活保護が増えると同時に医療扶助もドンドン増える。そろそろ支出を削減する方策を入れることを真面目に考えないといけません。憲法で保障されていますから生活保護のレベルを下げるのは良くない。その解決策として私は、現物支給があると思います。

厳密に電卓を叩いたわけじゃないですが、最初に現物支給でありうるのは食料。食べ物・飲み物のバウチャー(クーポン)だと思うんですよね。不正受給する動機をなくすために、目的外使用をやめさせるっていう事です。ギャンブルなどに使うのは生活保護の目的外でしょ。望ましくない事に使われないよう、「日本銀行券」を「食品券」などに変えちゃう。

例えばこういうサービスを行う特定の企業が利権を受けてもいいと思う。そのかわり、その特定企業に対して食料品供給サービスを義務化して、出来なかったら罰則をかけるとか、そういう事でバランスをとる。制度っていうのは完全無欠なものはないんです。説得の仕方さえうまくやれば、現物支給は日本人に受け入れられるんじゃないかなと思います。

厚生労働省社会援護局の研究会や審議会では、現物支給についての話はたまに出るんですが、時期尚早だとか難しいだとかの理由で先送りされています。やはり、みんな批判されることを恐れているんでしょうね。だけどこれをやらないと、これから高齢化が進んでいくと介護などの財政の方がもたないので、いつか本当にお金が足りなくなってしまうでしょう。

速水健朗のまとめ

ボクの疑問でもあった、職員が連帯する理由について、ケースワーカーは1人で100世帯を担当するような過酷な仕事であると。そんな過酷な事態において、何かしらの連帯になる、という事でした。

そこから、生活保護制度の現状の話になりましたが、不正受給者が多いわけではないと。取り立てるコストとリターンを考えると、今はそんなに不正受給が問題になっているわけでもないし、社会保障関連費の全体から見るとごくわずかという事でした。

セーフティーネットの中で、不正受給をなくす意味で現物支給という話が出ました。現金授受は一番コストが安い手法なんですが、現物支給で住む家があって食べるご飯があれば、そっちの方が気が楽じゃないかという感じも分かるんですよね。そういう議論は、これからも進んでいけばいいなと思います。