元フィギュアスケート選手・浅田真央さんの印象的な引退会見は、その内容まで海外メディアで大きく取り上げられた。トランプ大統領は演説で「マサ!日本の偉大な男だ!」とソフトバンクグループの孫正義社長をたたえる。

ビジネス、スポーツ、政治など、様々な場面で、日本人が世界を相手に「伝える力」を発揮している。

しかし、これまでの教育や社会などの影響もあって、「何かを他人に伝えるのが苦手」という日本人が多いのも事実。

日米の教育やコミュニケーションに詳しいお笑いタレント・パックンに、「簡単に実践できるコミュニケーション術」を聞いた。

日本の教育は良いことがたくさん

――日本の教育で一番良いところはどんな点ですか?

一番は挙げづらいな。でも社会性だと思います。本当に他人のことを想いますよね。平等、優しさ、思いやり。

行動の例を挙げるなら、学校で生徒が掃除すること。これはもう世界に輸出したいですよ。みんなの社会だから、みんなの力できれいにする、きれいに保つ。

日本で落書きする小学生を見たことないです。机にはあるかもしれないけど、外壁にペンキをかけてある学校なんて見たことあります?

――ほとんどないですね。かなり荒れた学校かもしれません。


相当でしょ。でも、アメリカでは結構普通ですよ。

あと、日本の道徳の授業もすごいなって思いました。学力調査であんなに良い点数取れるのも強みですし、日本の学校は音楽もアートもちゃんと教えている。

吹奏楽部のレベルの高さ、合唱団のレベルの高さもすごい。合唱団じゃなくてもクラスがみんなで歌うとき、音程や音階を守るのは、すごいですよ。

そういえば、このあいだ、小学5年の息子が稲を持って帰ってきて、うちに植えたんですよ。農作物の基本を教えるとか、偉いなって思う。日本の教育は良いことがいっぱいあるんですよ。

でも、良くないことは、学校じゃ勉強が足りなくて塾に通わさなきゃいけないことかな。うちの子も塾に通っているけど、人生が半分減ったね。塾も超楽しみですよね。毎日行きたいって言っているんだけど、行ってグッタリだし、スポーツもできなくなる。友達とも遊べなくなる。想像を膨らませる力を失っているかもしれないなって心配です。

国・性別・世代によって“当然”は違う

――日本の教育にもいいところはたくさんあるんですね。パックンの中ではどういう日本人が世界に通じると思っていますか?

「日本国内で通じるコミュニケーション」と「世界で通じるコミュニケーション」は微妙に違うものです。日本では、すごく空気を読んで、相手の言おうとしていることをくみ取って、「あの人は話が上手だ」と思われている人が、世界に出るとこっちが汲み取っていても、相手に汲み取ってもらえなく、「言おうとしていることが伝えられない」という壁にぶつかってしまうことがあって、それは悲しいなと思います。

日本人は『くみ取り式コミュニケーション』はすごく得意なので、その受信力を持ったまま発信力を高めれば、世界一のコミュニケーターになれるんじゃないかなと思っています。

世界に通じるには、相手の文化や価値観、固定観念などを意識して、それを踏まえたコミュニケーションが取れることが大事です。

「当然」と思っていることは、国によって変わるし、性別によって、世代によっても変わります。

世界に通じるコミュニケーターかどうかというのは、“相手の固定観念”をわかっているかどうかなんです。わかっていなくても、自分から十分な情報を与えて、限られた範囲で共通する常識や固定観念でも通用する「共有意識」で通じ合えるようにできる。

20ぐらい言って、やっと10を知ってもらう。そういうコミュニケーションもできる人がいいなと思います。

“人”が見えると心にストーンと落ちる

――コミュニケーションの中で、気を付けるべきことはありますか?

付加価値ですね。PTAの情報誌とか、どっかの会社の社内報は本当に業務連絡っぽい。僕だったら、そんな文章を誰かに読ませるのはもったいないなって思うんですよ。せっかく誰かが読んでくれると思うならストーリーをいれなさいって思う。業務連絡を三分の一に減らして、三分の一を描写とか人間ドラマ的な要素をいれるとつかみがよくなるんです。

僕はニューヨーク・タイムズの書き方を参考にすることが多いんですけど、同じ事件とか時事ネタでも頭と最後は、個人の話が入っているんですよ。例えば、「国境に壁を建てる」という賛否両論ある大きな政策。それを取り上げるなら、まずこう始まります。

「アリゾナ州の街角で小さな売店を経営しているラモスさん。こういう風格でこういうしゃべり方でインタビューに答えてくれた」

すると「人」が見える。そして、その人に対する影響はどうなんだ、どうなるのかって気になると思う。

そういう出だしから入って、大きな政策を取り上げて、中央政府やアリゾナ州政府の動向を説明した後にまたラモスに戻る。

「それでもラモスは『壁ができても俺はハシゴを持っていくぞ』と語った」

ストーンと落ちる。読んだ後に心に残るわけですよ。そういう書き方や話し方をもう少し広めたいなと思います。挑戦はしているんだけど、やっぱり日本の教育を変えるのは結構難しい。

会話の中で“and”を使うことを心掛ける

――他にも簡単に実践できることはありますか?

今すぐでも使える簡単なものもあります。それは、話すとき、「“but”ではなく“and”を使う」というテクニック。

“but”を使うと「パーティーに行きたいけれど、仕事がある」のように、可能性を断ち切ってしましますが、“and”を使うと「パーティーに行きたいし、仕事がある」と両方の可能性を探ろうという姿勢に変わるんですよね。2つを両立させる、小池さんがいうアウフヘーベンに近づきます。

他にも、話の中にストーリーを入れるとか、質問をしようとか。そういう風にちょっと心がけると、日々の訓練で間違いなく上手くなるんですよ。

下手だと思っている人こそ伸びる!

――それでも、「パックンとか、しゃべりが上手な人だからできる話で、簡単にはできない」という人もいそうですね。

その疑い方、よくわかります。僕、ゴルフを2年半頑張ったんですよ。どこかから取り寄せたDVD『あなたも30日で100を切る』みたいなタイトルで勉強して。

出ている人はすごいですよ。「歩きながらゴルフをやる」とか言って、歩いていてパチーンって200ヤードとか飛ばして、そのまま歩き続ける。「なんだこいつ!?」って思いました。

あとは、「ゴルフは深く考えるものじゃなく、ゴルフは自然に楽しむものだ」とか、「バケツリレーをやっていると思ってやればいいんだよ」とかいろいろ言っているんですよ。

そう思うように一生懸命がんばっても、僕はそもそもバケツリレーをやったこともないし、歩きながら打とうとすると全然うまくできないし、「詐欺だ」と正直思ったんです。僕はゴルフを歩きながらできるとは思わない。その人のプロフィール見ると、2歳からゴルフをやっているとか、4歳で優勝とか。あれは持っている才能だと。

僕が読みたいのは、40歳の体の固い中途半端なおっさんが100を切るコツ。そういう教材もある。うまい人をみて「お前は生まれ育った環境が違う」って憎むんじゃなくて、参考にして自分にもできる業を盗むのです。

コミュニケーション力アップを目指すなら、いつ始まっても遅くないです。苦労するのは間違いないけど、話が下手だと思っている人こそ伸びる可能性があるはずです。

「butとand」などのコツは普段の会話にちょっとセンサーをはれば自分でも気づくことができる。僕も2、3年前から心がけています。「パックンだからできる、でも(but)…」と思わないで、「パックンも頑張っている、そして(and)…」って思ってほしい。