コミー氏を告訴?裁判になって困るのは…トランプ大統領 

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コミー氏は議会公聴会で、大統領と一対一の際に何を言われたか、どう受け止めたのかを証言した。同席者はいないので、トランプ大統領は安心して「そんなことは言ってない。コミーが嘘を言っている」と反論できる。実際、そう吠えている。

大統領の個人弁護士がコミー氏を『情報漏洩で告訴する』と言っているが、これは言っているだけだ。実際に告訴しても、いずれ(公判が始まる前に)取り下げると確信している。

トランプ大統領は会話を録音したテープの存在を示唆しているが、裁判で「テープを提出せよ」と命じられたら困るのは大統領の側。一方のコミー氏は、自分の発言が裏付けられ、嘘をついているのは大統領と分かるので、テープがあるなら是非出してほしいと言っている。仮にテープが無ければ大統領の発言は何だったんだとなるため、どう転んでもトランプ氏にとっていいことはない。だから裁判までは進まない。

だが、この告訴をちらつかせる発言は、リークの連鎖をけん制する効果はあるだろう。

緻密な戦略家 コミー氏の狙い

いずれにせよコミー氏は、大統領側の反応・反撃は百も承知で議会証言したと思う。公聴会で明らかになったが、コミー氏は『緻密な、大変な戦略家』なのだ。

証言によれば、トランプ氏との最初の会談で、この人は嘘つきで、信頼できないと直感(確信)し、いずれ必要になる時がくると予見して、即座に詳細なメモを作ることにした。それを3回の会談、6回の電話会談で実行し、その都度、FBIの幹部と情報を共有した。

突然の解任の直後には、友人を介してそのメモをメディアに流し、報道してもらおうとした。その報道によって特別検察官の任命につながるのではと考えたからで、結果、実際に任命が行われている。

このような戦略家が、単純に求められたからといって公聴会に出てくるとは思えない。しかも偽証罪に問われる宣誓証言だ。証言することによって何が得られるかを緻密に考え抜いた末に出席したと考えるのが妥当だ。

そして、コミー氏の経歴や経験を見てみると、特別検察官→犯罪捜査→起訴という司法決着ルートも、議会→真相究明→大統領弾劾という政治決着ルートも、現状、その実現可能性は低いと考えているに違いないと思われる。起訴するにはもっと捜査が必要だし、弾劾は議会を与党共和党が握っているため難しいのだ。

コミー氏はワシントン(司法省)での仕事も長いし、ニューヨークの連邦検事もやっていた。有名マフィアのガンビーノ・ファミリーなどを相手に検事の仕事をしてきて、悪い輩のことはよく分かっている。どれくらいの証拠があれば連邦大陪審が起訴の判断をしてくれるかという相場観もきちんとあるはずだ。

FBI長官を解任される直前に、ロシアゲートの捜査のために追加的人員と予算を要求していたという報道に見られる通り、まだまだ起訴にもっていける段階ではなかった。

では一体何を得るために議会証言に出てきたのだろうか?

「孫悟空の輪」をトランプ大統領にかけた“三蔵法師”コミー氏

起訴でもないし、弾劾でもない。コミー氏のねらいは「ロシアゲートの捜査継続」だと思う。

何故なのかその理由は判然としないところがあるが、とにかくトランプ大統領はプーチン贔屓・ロシア贔屓だ。実に危うい。先週のWeeklyトランプでも指摘した通り、「アメリカの情報機関よりロシアを信用する‥」という人なのだ。そんな大統領が国益を損ねるような判断・行動に走らないように制御(=コントロール)したい。それが東西冷戦以降、敵国の旧ソ連・ロシアからアメリカを守り、スパイ活動やアメリカの政治・経済への干渉を阻止するために、命がけで働いてきたと自負するインテリジェンス・コミュニティー全体の願いだ。

それは、三蔵法師に見立てたコミー氏が、ロシアゲート捜査という「孫悟空の輪」でトランプ大統領の行き過ぎを制御しようとしている構図で考えると分かりやすいかなと思うのだが、どうだろうか。

三蔵法師に「こら、孫悟空!そんな勝手なことをやってはダメだ」と怒られると、輪がギリギリとしまって痛くなる。コミー氏はそういう効果をトランプ大統領に対して及ぼしたい。 

コミー氏は議会証言の中で「自分が解任された理由はロシアゲート事件の捜査だ」と明言した。トランプ大統領はロシアゲート捜査をとことん嫌っている。であれば、それを続けない手はない。

大統領はもしロシアゲートの捜査が行き詰まり、あるいは注目されなくなったら、捜査はやめろと言うだろう。捜査が終結すれば、大統領は遅かれ早かれ対ロシア経済制裁を部分的でも解除へと動く。ロシアの望みに応えることになる。

それはロシアの軍事的圧力を感じているNATOの前線国にとってすごく厳しいことであり、トランプ大統領がNATO加盟国を守ってくれるのか自信が持てないという疑念を膨らませる。

国内外の動揺や不信を抑えるためにも、ロシアゲートの捜査継続という『悟空の輪』を緩めてはならない。そのためには議会証言や報道の形で、国民と議員たちに関心を持ち続けてもらわないといけない。コミー氏が公聴会に出てきた最大の理由はそこにあると見ている。 

さらに言うと、コミー氏と与党共和党の議員が共感できるところがある。共和党は伝統的に安全保障には厳しいといわれており、ロシアには警戒心を持っている議員が多い。議会共和党とコミー氏そしてインテリジェンス・コミュニティーが、そこを共有し続けるように働きかける。それもコミー氏のねらいだろう。

今回の議会証言を受けて新たな動きがある。

コミー氏が証言を行った上院情報委員会の与野党のトップが今週、ムラー特別検察官と会うことになった。共和党のバー委員長は、特別検察官と協力しつつロシアゲートの真相究明に取り組んでいくと言っているので、その点では、コミー氏のねらい通りの動きとなっているのように見える。

“自分、そして組織と国を守る”コミー氏が自らリークしたと述べた理由

最後にコミー氏の「自分がリークした」発言の真意、ねらいを確認しておく。

まず、コミー氏は「リークしたのは自分自身」と明言することで、大統領との会談メモを共有していたFBIの幹部やインテリジェンス・コミュニティーの仲間たちを、『情報漏洩者狩り』から救える。これが最大の理由だろう。彼らが現在のポジションに残ってくれることは、ロシアゲート捜査の継続・進展に不可欠で、『トランプの悟空の輪』を機能させるためにも必要だ。

次に、トランプ大統領は都合の悪い報道は即、「フェイク・ニュースだ」「でっち上げメディアだ」と言い張り、特に天敵のニューヨークタイムズやワシントンポスト、CNNやMSNBCを攻撃する。当事者のコミー氏自身が情報源だったと明かすことで、「フェイク・ニュース」でも「でっち上げメディア」でもなく、大統領の言いがかりには全く根拠がない。やっぱり嘘つきだ!と示すことができる。 

自分一人の戦いでなく、FBIという組織と仲間を守り、インテリジェンス・コミュニティーを機能させ、なおかつこの国を守っていく使命を考えて行動していく。

かの「ウォーターゲート事件」で、ワシントンポストへの情報提供を続けた「ディープスロート」は、当時のFBIのナンバー2だった。

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