評価したい「オバマケア改廃法案」の議会対策

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4月29日に政権100日を迎えた際、口先だけで公約は実現できていないと概ね辛口の評価をされたトランプ大統領。しかし、その翌週にドラマがあった。「オバマケア改廃法案」の復活だ。5月4日の下院採決では、4票差で、議会の過半数もわずか1票上回っただけの実にきわどい採択となった。それをトランプ政権の弱さと受けとる向きもあるが、もっと前向きに評価すべきではと考える。

3月24日に同じような法案の採決を強行しようとした際は、過半数を確保できないという票読みにより、土壇場で採決自体を見送らざるを得なかったことと比べてみてほしい。それからわずか6週間で議会を通過できる法案に鍛え直し、元々反対していたフリーダム・コーカスなど共和党の一部議員を大統領自ら説得した。

4月に採決を見送ったときのトランプは、「少しだけ票が足りなかった。だが、票を獲得する手続きについて大いに学んだ」と悔し紛れの発言をした。

そして、ちょうど6週間後の5月4日、下院を通過した時には「オバマケアは死んだ」と誇らしげに宣言した。実に好対照だ。

下院は通過しても、上院は共和党が100人中52人でしかなく、上院は否決では‥といわれるが、たとえそうであっても6週間で議会対策をきっちりやってみせたことは、素直にすごい。政権の今後を見通す時、まさにそこを評価したいのだ。

さらに翌日(5日)、暫定予算が成立したが、ここでも、トランプこだわりの「壁」建設費用の予算化を見送り、一部の連邦政府機関が閉鎖される事態を回避したことを前向きに評価できる。「閉鎖」の事態は避けると公言していた議会共和党幹部の立場に配慮したからだ。

トランプは議会との協力を確かに「学び」、そして実行している。

トランプ大統領が現実味を帯びてきた時、トランプはめちゃくちゃかもしれないが、アメリカの政治制度は議会と裁判所の三権分立がきちんとしているからトランプの好きなようには動かない。心配しなくて大丈夫だという論調があった。しかし、トランプ政権100日を過ぎた時点での首都ワシントンの現実は、『最高裁判所』が保守派多数の構成になり、『議会』と大統領との協力関係も作られつつあると見える。

トランプ大統領の“チェンジ” ポール・ライアン下院議長との二人三脚

キーマンはライアン下院議長だ。

彼は大統領選の最中、共和党の大統領候補がトランプになると分かるや、早々にトランプ支持を打ち出した経緯がある。同時に、トランプのイスラム教徒入国禁止発言などに対しては、「共和党の価値観と一致しない」と公然と批判したりもした。自身も将来の大統領と目されていただけに、トランプとの向き合いは心中複雑と推察される。しかし、下院議長として最優先の政治課題は、2018年の中間選挙で下院の過半数を維持することだ。

そのためにはトランプ大統領をコントロールしつつ協力して共和党議会の成果を上げていくしかない。その意味でも、議会対策で協力してオバマケア改廃法案を通し、暫定予算も成立させ、トランプ大統領とライアン下院議長の信頼関係が深まったことは間違いない。トランプが押してライアンが従ったというのではない。「予算案で壁の建設費を盛り込まずに妥協する」といったトランプの大人の対応も見えてきている。グイグイいくだけではワシントンの政治はできないことを体験し、ペンス副大統領など身近にいるプロの助言から学び、『押すときは押して引くときはきちんと引く』トランプ政権になってきている。

この変化においては、反エリート政治家を徹底するバノン首席戦略官が、ホワイトハウスでの影響力を落としていることも効いているだろう。ただし、既存の政治に反発し素人のトランプに期待したコアな支持者が喜ぶのかは微妙なところだ。2018年の中間選挙をにらみ、バノン氏が復活してくる局面も意識しておくべきだろう。