同盟国の安全だってブラフの材料と心得よ

アメリカ海軍は今月9日、ハリー・ハリス米太平洋軍司令官が、8日にシンガポールを出航したカール・ビンソン空母打撃群に対し、進路を北にとり、西太平洋で任務に就くよう指令したと公表した。さらにトランプ大統領が11日に「『無敵艦隊』を送っている。とても強力だ」とFOXニュースに語り、誰もがカール・ビンソンは朝鮮半島周辺海域へ急行中なのだと受け止めた。が、それはとんだブラフだったことが分かった。カール・ビンソンは15日の時点で、シンガポールより南方のスンダ海峡を航行していたことが、米海軍の写真公表で明らかになった。カール・ビンソン展開の報を真に受けて、その意味を小論にまとめて掲載した筆者としては、深く自戒している次第だ。

今更だが、これを教訓として心に刻んだことがある。
“ディール男”トランプ大統領は、金正恩に『無敵艦隊』の派遣というカードでブラフをかけた。金正恩が過剰反応すれば、同盟国とその国民の安全を余計に危うくする事態を招くかもしれないのにだ。これこそ“ディール男”の本領発揮と言え、こういうやり方は今後も変わることはない。北朝鮮情勢をめぐって、あるいは日米間の様々な交渉や国際情勢について、この大統領の発言を分析・評価するには『ファクト・チェック』のひと手間が欠かせない。
金正恩も教訓を学んだだろう。決して信用するな。発言にはいちいち裏がある、等々。トランプとは今回が初手合わせだったからこそ、どいう類のプレーヤーなのか、そのやり口の印象は強烈だったに違いない。今後の情勢判断や決断、行動に影響してくるだろう。

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日本政府が空母の航行計画を知らなかったら一大事

この関連で気になることがある。まさか日本政府は「カール・ビンソンはしばらくこっちへは来ない」ことを知らなかった…なんてことはないですよね。日本はアメリカの最重要な同盟国なのだし、その日本に向けていつ北朝鮮がミサイルを発射するか分からない、どのような弾頭が搭載されているか分からない、それが空母が来る来ない、来るならいつ?ということと関連する可能性もあるのだから、日本政府にとっても最重要の情報だ。
カール・ビンソンの寄港地のシンガポール、演習相手のオーストラリア、スンダ海峡を抱えるインドネシアには、それぞれ海上自衛隊の一等海佐が防衛駐在官として派遣されている。常日頃からアメリカ軍のカウンターパートとも情報交換をしている。ワシントンには陸・海・空の自衛隊左官クラス6人がいる(そのうち1人は将官)。在日米軍ルート以外にもそうしたチャンネルがあるのだから、「しばらくはそっち方面へは行かない」と分かっていなかったとしたら、とんでもない失態だ。

知っていたのならブラフを黙認したことになる

ということは、日本政府は「カール・ビンソンはしばらくこっちへは来ない」と知りながら、メディアがトランプのブラフに引っかかってやいのやいのと騒ぎ、国民も心配や不安を募らせていたことに対し、正しい情報を提供しようとはしなかったことになる。空母の具体的任務や航行計画、位置情報などは、アメリカ軍の機密に属することなので、日本政府がそれを明らかにすることはありえない。その通りだ。
しかし、それによって日本政府はトランプのブラフを知っていて知らないふりをしたと言える。金正恩に手の内を明かすようなことはできないし、緊密な同盟関係だからこその微妙な綾というのもあるだろう。だとしても、9日の「北へ向かえ」指令以降、10日間程度の政府の発言や対応は、ブラフと知りながらのものであった…いう観点から見直してみることも必要だ。相手が“ディール男”トランプである限り、今後も同じような事例が繰り返し起こるだろう。その点も肝に銘じておきたい。