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国連は“中国依存”を強めることになる?

1月1日に就任したグテーレス事務総長は、この嵐の前の静けさの中で、新任事務総長の恒例行事ともいえる、米・中・ロ・英・仏の安保理常任理事国(P5)と幹部ポストをめぐる綱引きを繰り広げていた。
しかし、遅かれ早かれ、ハリケーン・トランプの国連直撃は避けられない。
大統領のこだわりポイントだからというだけではない。
アメリカの保守派が抱く、国連への不信感・嫌悪感が大統領を後押しするからだ。
結果、国連はどこへ向かうのだろうか? 私の予想では、中国依存を強めることになる。
それこそが、国連にとって最大の危機となるはずだが、はたして国連が発するSOSは、国連の救難に結びつくだろうか。

国連の資金負担見直しや組織改革を要求。「アメリカ・ファースト」が判断基準

選挙期間中から、トランプ氏は国連批判を繰り返してきた。
いわく、「アメリカは不釣り合いなまでに資金負担しているのに、国連からは何も得ていない。彼らは、われわれを尊敬してもいないし、われわれが望むことをやってくれない」。
レトリックとしては、NAFTA(北米自由貿易協定)批判と全く同じだ。当選後も、トランプ氏やニッキー・ヘイリー国連大使は、国連など国際機関への資金負担の見直しや国連の組織改革を求め、国連でも「アメリカ・ファースト」が判断基準であると明言している。

ここで指摘しておきたいのだが、アメリカの保守層にはもともと、国連への不信感や嫌悪感がある。
毎年、連邦議会には、国連脱退を求める法案が提出され、結果は廃案になるのだが、懲りずに繰り返されるのは、国連嫌いの根強さの表れといえる。
それは、個人の生活への連邦政府の過剰な関与を嫌い、よそ者の権力の肥大化を警戒し、不信感を募らせる心情に通じる。
反ワシントンは反国連でもあるのだ。その意味において、トランプ氏の国連や国際機関批判は、少なからぬアメリカ人の共感と支持が得られる。
よって、トランプ氏が国連批判を緩めることはないし、今は迷走していても、遅くとも9月の国連総会までには「ハリケーン・トランプの直撃」となるだろう。

アメリカとこじれたら、中国に接近する

では、国連はどう動くか。
それを占う鍵と思われるのは、新事務総長のグテーレス氏が就任前に唯一訪問したP5が、中国だった事実だ。

少々横道にそれるが、国連事務総長は、安保理のP5と良好な関係なくしては、順調な国連運営は望めない。
その意味で、潘基文(パン・ギムン)事務総長(当時)が2015年9月に訪中して、抗日戦争勝利70年記念行事の軍事パレードに出席したことも当然と言わねばならない。欠席で中国がへそを曲げて、その年の12月に「パリ協定」に結実するCOP21が失敗したら大ごとだ。
日本では「国連事務総長は中立公正であるべき」との批判が噴出したが、それは違う。国連事務総長だからこそ、日本の不興を買っても、中国のご機嫌取りをするのだ。中国の国連加盟45周年の2016年、南シナ海をめぐる国際仲裁裁判所の判断が出る1週間前に訪中したのも、“紙くず”扱いされる判決のあとには絶対に訪中できないがための苦渋のタイミングだったと見るべきだ。

話をグテーレス新事務総長に戻そう。昨年10月13日に新事務総長に選出されてから1カ月半後、グテーレス氏は、北京、釣魚台国賓館で習近平国家主席と会談。
「中国は、国連の事業と多国間主義の重要な支柱だ。国連は、中国とさらに密接な協力関係を築いていきたい」と語ったという。

「マルチはダメだ。バイでやる」、「アメリカの国連分担金は高すぎる」というトランプ氏の主張を考えた時、「中国は、国連事業と多国間主義の重要な支柱」との発言は余計に意味深い。アメリカとこじれたら、中国に接近するという構図だ。

中国の国連通常予算の分担率は、2016年から7.92%に上昇。22%の米国、9.68%と35年ぶりに1桁に転落した日本に次いで3位となった。
2019年以降の分担率では、日中の差はさらに小さくなる。加えて、PKO予算分担率では、中国は2016年から日本を抜いて2位となっている。
国連もチャイナマネー依存なのだ。

中国が国連への影響力を強めたら?…トランプ元年のことし、国連は創設以来の危機を迎えている

一方で中国は、国連においても自己主張を強めつつある。
過去10年の安保理での拒否権の発動回数を数えてみると、ロシア12回、中国7回、アメリカ1回、イギリスとフランスは0回だ。
都合が悪ければ、国連海洋法条約とそこに明記されている手続きにのっとった常設仲裁裁判所の判断をちゅうちょなく“紙くず”扱いする。
「市民的および政治的権利に関する国際規約(B規約)」は、いまだに批准していない。

国連は、不完全で非効率で戦後70年経っても戦勝国が特権的な立場で牛耳る国際機関だ。早急かつ大胆な改革も不可避だ。
だが同時に、そのSOSに主要国が応じず、結果として、中国が国連への影響力を強めていくとしたら? それが国際社会にとっても、トランプのアメリカにとっても好ましくないだろうことは明白だと思うのだが。
トランプ元年のことし、国連は創設以来の危機を迎えている。