パスポートの黒塗りが偽名である証拠

暗殺された金正男氏の息子、キム・ハンソル氏のビデオメッセージで、彼のパスポートが黒塗りされたのは何故か? 今は余計な個人情報を隠す意図だったのだろうが、それによって「ハンソル」という名前が偽名であることが分かってしまった。

ビデオメッセージの冒頭、当たり前のことだがハンソル氏は「私の名前はキム・ハンソルです」と名乗った。そして、「北朝鮮の金ファミリーの一員です。これがパスポート」と言って、北朝鮮の公務用旅券を取り出し、写真ページをカメラの前に突き出した。しかし、映像は黒塗りされ記載事項は全く確認できない。

この流れからすると、その旅券に「キム・ハンソル」以外の名前が書いてあったとは考えられない。自分が名乗った直後に別の名義の旅券を見せるのはナンセンスだからだ。

一方で、金正男氏が「キム・チョル」名義の北朝鮮旅券を使っていたことを思い出してほしい。父親は偽名の旅券で、息子にはずっと実名の旅券を使わせていたということがあるだろうか? さらに金正恩委員長が10代の4年間スイスに留学した際には、「パク・ウン」という偽名であったことが知られている。等々を考えてみれば、ハンソル氏がボスニア・ヘルツェゴビナのインターナショナルスクールに入った時から「ハンソル」は偽名であり、彼はその後もそう名乗り続け、私たちは今もその偽名でしか彼を知らないのだと考えざるを得ない。

彼の実の名前は一体何というのだろうか? やはり、「正」とか「日」の文字を入れた「ファミリー」直系の名前なのだろうか? ポスト正恩を考えた時、アメリカや中国にとってはどの名前が好ましいのだろうか。実に興味深い。

ハンソル氏は父の殺害をどう確認したのか?

名前が偽名だとしたら、ビデオメッセージで金正男氏との直接のつながりを示すのは、このタイミングで「父は殺害された」と発言したことだけだ。「父」と「殺害」はどうしても使わなければならない単語だった筈だが、果たしてハンソル氏はどうやって「父は殺害された」ことを確認し納得できたのだろうか。息子の心情とすれば、自ら遺体を確認しなければ認めたくないに違いないが…。おそらく父子の間で、万一の場合の判断にかかわる約束事・身元の確認ポイント・心構えなどについて共有していたのだと推測される。

また、DNA鑑定については、誰もケチをつける余地がないレベルの人定、採取環境、採取・管理方法、鑑定プロセスなどを確保しなければならない。DNA鑑定で親子関係が認められれば、それは即、「金ファミリー」の一員であることの科学的証明になるのだし、そのサンプルは他のファミリー・メンバーの確認にも結び付く超重要データとなる。鑑定をめぐるハードルは極めて高く、政治的思惑も破壊的に渦巻いていると考えなければならない。

ハンソル氏がマカオを離れることの意味

今後の展開だが、もしも巷間噂される通り、ハンソル氏がすでにマカオ(中国)を離れ匿名の国に身を寄せたのだとしたら、それは中国にとってとてつもなく大きい決断だったと思う。北に政変が起こったとして、中朝国境地帯が大混乱に陥らないようにするには、即座に平壌に送り込んで混乱を鎮静化できる(と考えられる)人物を手許に確保しておくことが肝要だ。そうであれば、政変の勃発を恐れない…というメッセージにもなるのだ。

にもかかわらず中国がそのカードを手放したのだとすれば、この件については中国とアメリカの間で手打ちが行われ、オランダがその保証人となり、中国も了解できる匿名の国にハンソル氏と家族が移ったと考えるのが筋だ。それを世界に示すためのビデオメッセージであり、千里馬民間防衛サイトでの経緯説明なのだろう。

「これが最初で最後のメッセージだ」とは意味深で、それを斜め読めば、この40秒のビデオメッセージとサイトでの説明で当面の目的は果たせているということだ。次に我々がハンソル氏を目にするのはいつとは知れないが、その時は北東アジアが激動期の最中にあるのかもしれない‥などと妄想してみた。