日米の首脳が個人的に仲良しなのが悪いわけはない。
しかし、この二人は昨年11月から関係が始まったばかり。一緒にゴルフをしたり、AF1に同乗したりという、アメリカ大統領として破格のもてなしを受けるのは早すぎないか?『うますぎる話には裏があるのでは?』と疑ってみるのが常識人の知恵だ。

譲歩し過ぎなければいいが…

首脳ゴルフに移動はAF1と聞けば、素直な反応は「へぇ~、すごいじゃない」。そして「譲歩し過ぎなければいいが…」という感じだろう。日米の首脳同士の仲が良いに越したことはない。そこに疑問の余地はない。問題は、ゴルフ&AF1は仲が良いからなのか、仲が良いように見せたいからなのか?ということ。さらに、仲が良いように見えるのと舞台裏での関係の厳しさは別物だ。その意味で「譲歩しすぎなければいいが…」という懸念は極めて健全といえる。

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ロンヤス蜜月関係の裏では…

参考にすべきなのが、レーガン元大統領と中曽根元総理の関係だ。親密なロンヤス関係を築いたとされるが、2人が首脳だった1982年11月から86年11月までの4年間に何があっただろうか(レーガン氏の任期は1981年1月から89年1月までの8年間)。
81年5月に日本車の対米輸出自主規制で合意した後も、アメリカの対日貿易赤字削減要求は収まることなく、通商法301条を脅しに使い日本に譲歩を迫りまくる。86年9月には日米半導体協定が結ばれ、日本は日本市場の20%以上の半導体をアメリカから買うことを約束させられた。
その1年前の85年9月にはプラザ合意で底なしの円高を呑まされ、これをきっかけに日本経済はバブル崩壊と長期低迷の道へと沈んでいく。
当時世界最強だった日本の銀行も、88年7月のBIS規制で凋落コースへと落とされてしまう。こうした日本経済潰しは、ロンヤス蜜月関係の裏で着々と進められていたのだ。

ちなみにレーガン氏はトランプ大統領のアイドルで、「アメリカの産業が輸入品に負けるのは、アメリカが悪いのではなく、相手国が悪いからだ」といった考え方や発言は驚くほど似ている。日米関係でレーガン氏をロールモデルとしたとしても驚きはない。もともとトランプ氏は80年代式の頭とも言える。これからの日米の動きを斜め読むには、ロンヤス時代を再検証しておくことが欠かせない。

首脳会談の中身を目立たせたくない?!新聞の〆切時刻を意識し紙面作りをリードする 

首脳ゴルフやAF1といった派手なイベントを用意するのは、世間の関心をそちらに向けさせたい気持ちもあるのだろう。
こんなに特別な関係の二人を、見て見てっ!という訳だ。でも、斜め読み派は「別のものから関心をそらしたいから、こっちこっち!なのかも?」と考えてみる。もしかして首脳会談の中身や会談後の会見を目立たせたくなかったり?? 
ヒントになるのは、ワシントン(DC)での会談や会見の実施時刻と日本の土曜朝刊の〆切時刻との関係だ。DCで首脳会談が始まるのが10日午前11時15分(日本時間の11日午前1時15分)以降の場合、会談の内容や会談後の記者会見の様子は土曜朝刊には間に合わず、夕刊での扱いとなる。
そして会談・会見後にAF1に乗り、フロリダで大統領夫妻と夕食会という絵になるイベントも、同じ土曜夕刊に掲載されることになる(夕刊がない地方では日曜朝刊扱い)。となると、限られた夕刊紙面をDCの本記原稿とAF1や大統領夫人も一緒の写真や記事で分け合うことになる。相対的にDC記事が少なくなるという訳だ。意図したものではなく、結果的にそうなるだけなのかもしれないが、これみよがしなイベントに目を奪われずに会談内容をしっかりチェックしたいものだ。

トランプ氏側の狙いは何なのか?特別な関係を強調してみせたイギリスのメイ首相だってホワイトハウスのちょっとした段差で手を握ってエスコートした程度だ。それに比べたら安倍総理の扱いは気味が悪いくらい破格だ。しかもトランプ氏は根っからの『ディール男』。良いディールを得るために相手を舞い上がらせるくらいはお茶の子さいさいだろう。「譲歩しすぎなければいいが…」という心配の声はもっともだ。

トランプ流「天国と地獄」作戦がさく裂?

加えてトランプ氏は、『褒める、礼を言う』のと『怒る、こき下ろす』落差が大きく激しい。外国首脳相手であっても手加減はない。電話会談をガチャ切りされたオーストラリア首相や「会う意味がない」メキシコ首相の例は、各国首脳を身構えさせたに違いない。この落差の大きさも『ディール男』の武器と言える。「良いディールをまとめれば天国を見せてやるが、そうでなければ地獄行きだ!」とでも例えられるだろうか。ゴルフ&AF1は、良いディール作りの誘い水というだけではない。満足のいくディールが見込めなくなった場合、「ゴルフもAF1も意味がないからドタキャン!」という勝負手になる。誰もがゴルフ&AF1を知ってしまったので、ドタキャンを食ったらダメージは計り知れない。事務方がしっかり積み上げて準備しているから大丈夫…なのだろうが、トランプ氏はトップ同士でもう一段のディールをしようというタイプなのではないか? 

この政権と付き合う上で最大のリスクはトランプ氏本人なのだから、どんな事前合意があっても油断は禁物だ。それに、関係の始まりで天国を経験してしまったら、そこから落ちていくのは是が非でも避けたくなるのが人の常だ。ロンヤスの4年間の裏表をそんな目で見ることだってできる。

ゴルフとAF1。一体どちらがそれを言い出し、どういう思惑が渦巻いているのか、その真相が明かされることはないだろう。ただ、ゴルフとAF1が表沙汰になった時点で、『ディール男』の術中にはまってしまっているとも思えるのだ。