毎日の睡眠不足が積み重なると「睡眠負債」となり、命のリスクにつながることが様々な研究から明らかになってきた。「睡眠負債」を返済するためには、日常的にどうすればいいのか?

企業向け睡眠改善プログラムを提供している「ニューロスペース」の小林孝徳社長、そして筑波大学で睡眠医科学の研究に携わってきた佐藤牧人氏(現在「ニューロスペース」取締役)に話を伺った。

酒は寝つきをよくするが、睡眠の質を悪くする

――質の良い眠りを得るために、就寝時に何をやったらいいのかお伺いします。まず、「寝つきがいい」のはいいことですか?

小林:
ベッドに入って意識を失うように3秒で寝てしまうというのは自慢になりません。5分程度ならいいのですが。なぜなら、意識を失うように寝るのは、慢性的に睡眠不足か、お酒をたくさん飲んでいるからです。お酒は寝つきをよくしますが、睡眠の質を悪くします。

――「寝酒」もダメなのですか?

小林:
よくないです。お酒は脳に作用して、一時的に寝入りはよくなりますが、交感神経が興奮して睡眠が浅くなります。また、お酒は利尿作用があるので、睡眠の途中で覚醒してしまい、睡眠を分断します。

「寝酒」はよくない
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――うつぶせと仰向けどっちがいいのでしょう?

小林:
特にこだわりませんが、日本人は仰向けが圧倒的多いと言われています。いびきをする人は、横向きが呼吸しやすいのでいびきの解消になります。こうした人は、寝入りは横向きが寝付きやすくていいでしょう。
 
――夏はエアコンをつけて寝てもいいですか?

小林:
風邪をひかないようにすればもちろんオッケーです。寝入りの時に体温を下げるのは深い眠り取るために重要です。

時間医学的に、深部体温(内臓の温度)は起床後11時間をピークに下がり始めるのですが、就寝前にお風呂やシャワーで体を温めるとその後深部体温が急激に下がります。寝る前のお風呂で寝つきがよくなるのはそのためです。

――ベッドで読書をするのはいかがですか?

小林:
ビジネスマンはベッドで読書する人が多いのですが、お勧めできません。人間の脳は場所とそこで行った行為をセットで認知する特徴があります。

ベッドで読書をする習慣があると、脳はベッドを情報インプット・学習する場所だと覚えるので、ベッドにいてもなかなか寝付けない、寝ても質が良くないということになってしまいます。

ベッドは眠りだけの場所だという正しい認識を脳にさせてあげることが必要ですね。
 
――ベッドで読書がダメならば、スマホはなおさらダメですね?

小林:
スマホは最悪です(笑)

――お腹いっぱい食べると、よく寝られると言われますが?

小林:
食事をとるタイミングの問題です。深部体温は、消化している間下がりにくくなるので、寝る前の食事は睡眠の質に影響します。人によっては逆流性食道炎になりやすくなります。食事をとる時間の理想は、次の日の起床時間の10時間前と言われています。

昼寝も寝すぎはダメ

――次は日中できることについて伺います。ずばり、オフィスで昼寝するのはいかがですか?

小林:
毎日の起床時間をそろえたうえで、土日はもちろん平日の仕事中であっても仮眠をとることは大事です。ただし、寝過ぎはダメ、1時間寝るのはよくありません。仮眠は15分から30分くらいがいいです。

また、横にならず、デスクで座りながらの姿勢がお勧めです。なぜなら、これ以上寝たり、横になると深い眠りになってしまうのです。

佐藤:
アイマスクはオッケーです。基本的に仮眠は脳を休めるためなので、目をつぶるだけでも情報遮断されて脳が休まります。
 
――通勤中電車でうたた寝をする人も多いですね?

小林:
電車のうたた寝は構いませんが、仕事帰りは避けたほうがいいです。なぜなら、夜の本睡眠の2~3時間前に15分でも寝てしまうと、深く寝る力、「睡眠圧」が失われてしまうのです。睡眠圧がたまっていないと、本睡眠への欲求が失われます。

一方、朝の通勤のうたた寝は仕事の効率を上げるのでいいですが、寝るのは30分程度までですね。

――最後に「ニューロスペース」が行っている企業への睡眠研修について教えてください。

小林:
私たちは企業の働き方に合わせてオーダーメイドの研修を行っています。社員の方に睡眠の状況や悩みを伺い、睡眠のパターンを分析して解決策を提供します。

たとえば吉野家は、交代勤務制のパターンによって睡眠のとり方が変わります。工場勤務もそうですね。ANAの場合には、時差ボケの解消プログラムを作っています。DeNAでは新入社員の研修に睡眠研修を取り入れてもらっています。
 
――企業も睡眠の重要性について気づき始めたのですね?

小林:
健康経営や働き方改革が脚光を浴びていますが、日本が人口減少の中で経済成長をするためには、生産性を上げていかないといけません。そのためには、まず人々が健康にならないと。つまり食事や運動、そして睡眠が大切なのです。

特に十分な睡眠は、集中力、コミュニケーション力が増しますし、嫌な記憶も睡眠中に整理されるのでストレスが軽減されます。睡眠技術のプロが増えれば、生産性は確実に上がりますし、病気になる前にセルフケアできるようになりますね。

小林社長(左)と佐藤取締役(右)

肥満やメタボは体重計で認知されるが、睡眠には客観的な指標が少ないのが現状だ。

ニューロスペースではいま、睡眠が十分とれているか認識できるデバイスを開発中だという。

「睡眠が改善されると社会はガラッと変わる」と小林社長は強調する。

睡眠のことをもっと知れば、私たちの人生はより健康的で楽しいものとなりそうだ。