2020年東京五輪に向けて、障がい者を取り巻く環境は大きく変わっている。

去年4月、障がい者差別解消法が施行され、来年には精神障がい者の雇用が企業に義務付けされる。

ホウドウキョクでは、障がいを価値に変える「バリアバリュー」を唱える株式会社ミライロの岸田ひろ実さんに話を聞いた。

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「ママ、死にたいなら死んでもいいよ」

岸田さんは、自身も車いすの生活をされ、知的障がいの子どもを持ち、障がい者との向き合い方や子育てについて年間200回に及ぶ講演を行っている。

岸田さんが最近出版された著書のタイトルは、「ママ、死にたいなら死んでもいいよ」。これにはどんな思いが込められているのか?

今、車いすに乗って生活していますが、車いす歴は9年です。大動脈解離という病気で胸から下が麻痺して、ある日突然歩けなくなりました。当時は絶望の淵に立たされて、死ぬことばかり考えていました。

当時高校2年生だった娘に気持ちを打ち明けると、『死んでもいいよ。これ以上頑張れと言うのは、辛すぎるのがわかっている、一緒に死んであげる。でもこの先大丈夫になるから生きよう』と。この『死んでもいいよ』と言う言葉で、逆に勇気が出て前に進むことができるようになりました」(岸田さん、以下同)

障がいを価値に変える「バリアバリュー」

岸田さんは娘さんと一緒に株式会社ミライロの社員として活動している。

ミライロは、障がいを価値に変える「バリアバリュー」の視点から、高齢者や障がい者など多様な人々への向き合い方、「ユニバーサルマナー」の考え方を伝えている。

2013年から開始したユニバーサルマナー検定は、2020年東京五輪にむけ受講者が急増中で、すでに3万人近くが資格を持っている。

2020年東京五輪では、高齢者や外国人、障がいを持つ人たちなど多様な人たちが日本にやってきます。ユニバーサルマナーと言う考え方、いつもと違う視点に立って行動に移すことが大切です」

岸田さんの長男は、知的障がい者だ。

「私も障がいがありますが、息子はダウン症で重度の知的障がいがあります。産んだ時は、一緒に死んでしまいたいと落ち込むこともありました。しかし、息子を育てる中でゆっくりですが皆と一緒に成長してくれたので、皆に近づけるのではないかと思いました。小学校に入学するときには皆との距離を近づけたいと、3つの言葉『ありがとう』『こんにちは』『ごめんなさい』を覚えさせました」

岸田さんは学校に自ら説明に行き、長男ができることやできないことを詳しく説明した。

障がいに引け目を感じていたが、一年間同じクラスにいる子どもたちは、岸田さんより理解してくれるようになったという。

「改めて障がいとは何かと学ぶのではなく、ふと気づけば自分のすぐそばに障がいのある人がいるという環境さえあれば、わかりあえるようになります」

障がい者とのコミュニケーションにおいて

障がい者の雇用についての法整備は、1960年の身体障がい者の雇用促進法の制定から始まった。

いま知的障がい者の雇用環境は改善されているのか?

「昔と比べて法の整備もされ、理解の広がりもあります。また、IT技術の発展もあり格段に働きやすさは増しています。しかしまだまだ企業によって差があります」

 それでは今後、私たちはどう知的障がいや精神障がい者と職場で接すればいいのか?

「まずは社会の慣れという課題があります。目が見えない、耳が聞こえない、車いすに乗っているという身体障がい者は目にする機会も多いため、何をすれば良いかが大体想像がつきます。しかし、知的障がいと精神障がいは見かける機会が少ないです。わからないから、知らないから、という『ない』から始まる不安を解消できれば、教育でも職場でももっともっとコミュニケーションできるようになります」

企業が雇用した精神障がい者の44%が1年以内に離職と言われ、定着率は低い。今後企業は、受け入れるための準備や配慮、理解が必要となる。

2020年東京五輪に向けて

では2020年東京五輪に向けた、岸田さんのビジョンは?

「法律の後押しもあって、今後企業で働く障がい者はふえてきます。2020年を機に、いろいろな障がい者が社会で活躍できる場所が増えてきます。私たちもこうした方々と向き合う心の準備が必要になりますが、障がい者も、その家族にも不安があります。私たちはコミュニケーション、声を掛け合える関係を作っていき、情報提供や発信をできる文化を創る必要性があると考えています」

日本の障がい者人口は約6%、1000万人近くと言われている。

雇用だけでなく、さまざまな方面からのバックアップと理解がこれからますます必要となるだろう。