アスレティック・トレーナーとは、スポーツ選手の身体と心をケア、サポートする医療従事者で、その主な役割は5つだ。

選手の障がいや疾病の予防、試合や練習の現場で怪我や体調を崩した選手の診断と応急・救急処置、その後の治療とリハビリ、そして健康のための組織体制作りだ。アメリカでは現在4万人ほどのアスレティック・トレーナーがいて、ほとんどの大学、高校でも8割以上に専属がいるという。 

一方日本では、アスレティック・トレーナーの資格保持者は300人程度で、日本独自の類似の資格保持者は3000人程度だ。

解剖学、生理学、運動力学、スポーツ心理学、スポーツ経営学などの組織論

アスレティック・トレーナーの重要性が増す中、日本で普及が遅れていることについて、山本さんはこう言う。
「日本のスポーツの現場では予防より治療、たとえばマッサージや鍼灸がメインで、予防の観点が薄かったことが背景にあるのではないでしょうか。ただ最近、流れは変わってきています。」 

アスレティック・トレーナーの資格を取るためには、体の構造を知ること、たとえば解剖学や生理学、運動力学、そしてスポーツ心理学やスポーツ経営学など組織論まで学ぶ必要がある。
「アスレティック・トレーナーは、コーチや選手はもちろん、選手の両親、医者、心理学者、マッサージ師、栄養士など選手をサポートするあらゆる人たちが情報を共有するための中間点的な存在です。選手の状態を判断する環境づくりを行うので、組織をどう進めていくか学ぶ必要もあります。」(山本さん) 

日本の「アスリート・ファースト」は大丈夫か?

東京五輪が3年後に迫る中、日本の「アスリート・ファースト」は大丈夫なのか?

山本さんはアスレティック・トレーナーの知名度アップがカギを握るという。
「日本でも高い技量を持ったアスレティック・トレーナーはたくさんいるのですが、学校やスポーツ現場にはあまり知られていません。知名度を上げていくことは私たちの責任でもあります。」 

正しい体の作り方…ゆっくりしたスピードで体を動かすことで、体を感じる感覚が大切

では、アスレティック・トレーナーの第一人者として、山本さんが唱える「正しい体のつくり方」とは?

「体を動かすと言うと、筋肉を鍛えるイメージがあります。女性の場合、太くなりたくない、筋肉が大きくなりたくないと言う人が多いですが、大事なのは動きの質を上げていくことです。関節と皮膚を感じる、脳の中に体のいろいろな情報をいれていくということです。」 

山本さんは、ゆっくりしたスピードで体を動かすことで、体を感じる感覚が大切だという。

「トップ・アスリートを見ていると感覚力が高いです。彼らは体の動き、感覚の違いを言葉で表現できます。体の動きを変えたときに、変える前と後と何が違うのか、必要なものはどちらなのか、再現するときに感覚を思い出すことができます。無意識で感覚をベースにして動けるのですね。」

「アスリートは試合やトレーニングだけでなく移動やメディア対応など常に忙しく、自分の時間をなかなか作れません。彼らは、少しの時間でも自分の体に起こっている感覚に目を向けることで、ストレスから解放されています。」

常に時間に追われ、ストレスを抱える私たちにとっても、参考になりそうだ。 

スポーツを長く続けたいなら、なだらかに少しずつ登っていくこと

日本人のアスリートは、負荷の重いトレーニングを好むがんばり屋が多いが、山本さんは警鐘を鳴らす。

「日本人は頑張りがちですが、どれだけ体を回復させるか、回復させて次により良いものを作ることが大事です。人生でスポーツを長く続けたいなら、なだらかに少しずつ上り坂を登っていくこと。たとえば、瞑想は免疫力を上げるなど、体の状態を回復しやすい状態にしておくことが、アスリートにとって大事ですね。」 

スポーツをしない人の正しい体作り…呼吸の見直し

では、スポーツやトレーニングをしない人たちへ、正しい体のつくり方のおススメは?

「呼吸できる体作りが大切です。風船を使ったトレーニングが最近はやっていますが、しっかり吐き続け、吸い続ける。筋トレでも呼吸能力が上がらないと筋肉の出力や持久力が上がらないというデータがあります。筋トレをしたいのなら呼吸をきちんとできているか見直す必要がありますね。」 

東京五輪に向けて「日本に来る海外のオリンピアンのサポート、日本との接点になる役割になれたらいい」と語る山本さん。

東京五輪に向け、アスレティック・トレーナーの存在は高まるばかりだ。 

山本邦子さん著書「トップ・アスリートだけが知っている「正しい」体のつくり方」(扶桑社)