SNSに約10秒の映像が投稿されると、甘いスマイルで人気に火がつき、PRビデオが制作されたり、観光宣伝大使になったりと、今中国で大人気の“チベット族のイケメン青年”がいる。

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チベット族というと、宗教問題などで中国では敏感な存在だが、国営テレビがインタビューを報じるなど宣伝色も帯び、「チベット族イケメン青年で民族融和をアピール」しているという。一体どういうことなのか?

地元ホテル予約9割増“チベット族イケメン青年”とは?

FNN北京支局長・高橋宏朋氏:
今、中国では丁真(ディン・ジェン)さんという、チベット族の20歳のイケメンが大ブレークしているんです。
アイドルのような顔立ちで、ついたニックネームは「甜野男孩(てんやなんがい)」いわば、“甘い野性的な男の子”という呼ばれ方をしている。

「丁真(ディン・ジェン)の世界」と題されたプロモーションビデオは、配信初日だけで1200万回再生されています。

もともとは家族の広告などの仕事を手伝う極普通の青年でしたが、この地を訪れた写真家がたまたま彼を撮影しSNSに投稿したことで、突如として人気に火がついて、今や中国全土に知れ渡るほどの有名人になったのです。

この人気ぶりから、地元国営旅行会社の観光大使になりまして、月給3500元(約5万6000円)・各種社会保障付きと、こんなことまで話題になっています。

加藤綾子キャスター:
丁真(ディン・ジェン)さんの地元というのは、元々は観光名所だったのですか?

FNN北京支局長・高橋宏朋氏:
いや、必ずしもそうとも言えないですね。
丁真(ディン・ジェン)さんの地元は、四川省カンゼチベット族自治州の理塘県(りとうけん)というところで、内陸部の標高が4000メートル級の高地ということもあって、もともとあまり人が行かないような場所だったんですね。

大手旅行会社の調査によりますと、丁真(ディン・ジェン)さん効果によって、
・ホテルの予約が、前年の約9割増加。
・飛行機の予約が、前年の約2割増。
・旅行サイトで「理塘」という検索数が、前年の約6.2倍
という社会現象にもなっているんです。

最近では国営メディアも、本人のインタビューを交えて取り上げるようになりました。こうしたことの背景には、おそらく「宣伝部門の意向」が働いているという風に見られます。

また、中国外務省の華春瑩報道官のTwitterでは、英語で「明るい純粋な笑顔でソーシャルメディアのスターになった」と投稿したりしているんです。いわば国をあげたアピールのようになってきている。

国をあげたアピールの裏側にある2つの思惑

FNN北京支局長・高橋宏朋氏:
中国政府には、主に2つの狙いがあると思います。1つはこうした「民族融和」。

中国には56の民族があるんですけれども、チベット族を含む55民族の割合はわずか9%程度なんです。建前上は「全民族は平等だ」というふうになっているんですけれども、実際は漢民族中心の社会になっており、少数民族の不満を背景とした問題がたびたび起きています。

2008年にチベットで起きた暴動は当局によって鎮圧されましたが、チベットやウイグル自治区などでは、少数民族問題をめぐる暴動などがたびたび起きていて、中国政府は少数民族に対する管理を強めてきました。

そして、チベット問題といえば「ダライラマ14世」。チベット仏教の最高指導者で1959年の反乱を鎮圧されたのを機に、インドへ亡命しました。それ以降、中国政府は「分裂主義者」というふうに敵視しているのです。
今も中国国内では、公の場で写真を掲げたりすることはタブーとなっているんですけれども、一方で多くのチベット族の人たちは写真を隠し持ったりして、今も“生き仏”といって崇拝の対象にしているのです。

中国では宗教問題以外にも、少数民族に対する徹底した監視ですとか、職業訓練を名目としたいわゆる再教育施設に収容しているなどといった問題が、諸外国から批判されています。

こうした問題は力で抑え込みつつも、丁真(ディン・ジェン)さんのように「民族は違っても同じ中国人として親近感を感じることができる対象」は、民族団結や社会の安定を目指す中国当局にとって、良いアピール対象になるわけです。

もう1つの狙いは、「脱貧困」です。
中国は習近平国家主席の大号令で、「貧困撲滅」を目指しています。まさに、この農村地区の観光振興というのは、この習近平指導部の一丁目一番地の政策とも合致するという背景もあるんです。

加藤綾子キャスター:
高橋支局長ありがとうございました。柳澤さんは中国のこのような国策についていかがですか?

ジャーナリスト 柳澤秀夫氏:
少数民族に対する人権抑圧というのは、国際社会から相当強く批判されていますから、そういった批判をかわしたいという狙いがアリアリだと思うんですよね。うちも趣味で海外放送、中国の北京放送も聞いているんですけど、少数民族に対する中国政府の配慮をアピールするような企画がたくさん流れていたりする。アメリカも今度はバイデン政権になって、人権に対する配慮が相当前面に出てくる可能性がありますから、その辺をとにかくうまくかわして、広告塔にこういう少数民族の青年を使いたいってことはアリアリだと思いますね。

加藤綾子キャスター:
本当の意味で、民族融和につながってくれるといいんですけどね。

ジャーナリスト 柳澤秀夫氏:
政治的に反論するための材料にしか、使ってないような気がしますね。

(「イット!」12月7日放送分より)