1秒間で300万人を認証

動画顔認証技術とは、動いている被写体の顔をリアルタイムに認証するものだ。この技術を活用すれば、監視カメラの映像を高速で解析して不審人物を検知し、事件やテロを未然に防止できる。

また、空港やスタジアムなどの出入り口で、人々が立ち止まることなく認証できるようになり、利便性が大きく向上する。

動画顔認証は現在1秒間で300万人を認証できる(!)。

つまり、東京都民のすべての顔を約4秒で認証可能なのだ。

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この技術分野、実は日本が最も進んでいることをご存じだろうか?


NECは今年、世界的権威の米国国立標準技術研究所(以下NIST)が実施した、動画顔認証技術のテストで、照合精度99.2%と他社を大きく引き離し、世界トップの性能評価を獲得した。

動画の顔認証は、静止画に比べ、カメラの画質や被写体の大きさ、顔の向きや歩行速度などさまざまな条件の影響を受けるため、より高度な技術が求められる。

NECは最先端のAI=人工知能を駆使するなど、条件の悪い映像においても、高精度を実現する顔認証技術を開発した。


NECの顔認証技術は世界各国で導入されている。

「テロ対策先進国」のアメリカでは、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港で、入国審査用の顔認証システムを導入。

ブラジルではリオ五輪を機に、主要14空港の税関で顔認証システムが導入され、犯罪の容疑者を識別している。

アルゼンチンのティグレ市では、鉄道の駅などに約千台のカメラを設置し、顔認証のほか不審な行動や車両を見つける「行動検知」、「ナンバープレート認証」も行うことで、車の盗難件数が80%減少した。

さらにイギリスやコロンビアでは、サッカースタジアムで顔認証システムを利用し、フーリガンなど不審人物の割り出しを行っている。

では肝心の日本はどうなのか?

こうした世界最高峰の技術があるのにもかかわらず、日本は顔認証システムの普及で他国に後れを取っている。


これについてNECの遠藤会長は、「日本ではプライバシーへの配慮の意識が高く、認証技術をセーフティ領域で活用する際には、法整備をさらに進める必要がある」という。(インタビュー詳細は後述)

「安全神話の国」日本では、歴史的にプライバシーとセキュリティが天秤にかけられ、セキュリティについて深い議論がなされてこなかったのだ。

ただ、NECは世界トップの技術を「宝の持ち腐れ」にしているわけではない。

認証技術とは、AIの一領域であり、大きく言えば「見える化」技術である。

NECは認証技術を発展させ、中国電力の島根原子力発電所2号機向けに「故障予兆監視システム」を開発・導入した。

また、これまで人手による目視や打音で行っていた道路や橋梁などインフラのメンテナンスを、映像から内部の劣化状態を推定できるシステムも開発した。

さらに医療の世界では、国立がん研究センターとともに、大腸の内視鏡検査時に撮影される画像を瞬時に分析し、小さくて見逃しやすいポリープをリアルタイムで検知するシステムを開発している。

ほかにも、認証技術は画像や動画だけでなく、虹彩、声、耳音響、笑顔(!)まで対象を広げ、セキュリティのみならずエンタテインメントなどあらゆる分野での活用が期待されている。

まさにこれからを予感させるこの技術の未来について、NECの遠藤信博会長に話を聞いた。

認識技術で、将来の人口減に対応


――かつては半導体やパソコン、携帯電話が主体だったNECがここ数年でソリューションカンパニーに大きく変わりました。特に動画顔認証技術の分野で、NECは世界トップの技術力を持っていますが、この技術開発のきっかけは何だったのですか?


私が社長になった2010年からの3年間は、NECの方向性が大きく変わる時でした。

当時、半導体、PC、携帯の領域は、生産量や世界シェアがないとビジネスにならなくなりました。

そこで、NECが誇る基本的なICTアセット、つまりコンピューティングパワーとネットワークの構築能力、そしてソフトウェアを使って、「社会ソリューション」をつくっていこうと考えました。

――「社会ソリューション」というと、具体的にはどのような?

背景にあったのは、人口動態の問題です。

世界の人口は現在約76億人いますが、2050年、つまりあと35年ぐらいで98億人になります。さらに、都市には現在総人口の半分が住んでいますが、2050年には7割になります。

つまり2050年の総人口は1.3倍ですが、都市部の人口は1.8倍となるのです。

それにつられてエネルギーや食糧、そして水も1.7~1.8倍必要になります。

これに対してICTができる機能というのは3つ、リアルタイム性とダイナミック性、そしてリモート性です。

NECはこの3つの機能によって、安全で効率的で公平な社会が実現できる世界を作ろうと、2013年から「Orchestrating a brighter world」をカンパニーメッセージとしています。

――ICTを核にした安全な社会作りというのが、認証技術につながったのですね?
 
明るい未来をつくりあげたいという思いから、「ICTを核にした安全安心」が、我々の進む方向となりました。

国の安全性と経済成長は相関性があります。安全安心が無い限り、国外からの投資もなく、経済は発展していかない。

OCR=光学文字認識技術から始まって、指紋認証、さらにその延長線上に顔認証があります。

我々はいま、顧客からこういうものを認識したいと言われたら、それができるようになっています。

2013年にシンガポールに認証技術の拠点をおいて、いま顔認証技術は40か国100システム以上で導入されています。

街中監視システム オペレーションセンター


――日本ではどのような分野で、動画顔認証の技術が活用されていますか?

 
日本ではプライバシーへの配慮の意識が高く、認証技術をセーフティ領域で活用する際には、「個人情報保護とパーソナルデータの利活用の両立」に関する法整備を、さらに進める必要があります。法整備が進めば、空港や駅など多くの人が行き交う場での利用など、セーフティの領域で活用が進むでしょう。


――しかし日本では、2019年にラグビーのワールドカップ、2020年には東京オリパラが開かれます。海外から多くの人がやってきて、テロリズムの脅威が増す中、準備を急がないといけませんね。
 
ロンドン五輪もリオ五輪も、サイバーアタックを含め様々な脅威に対抗する準備をしてきました。インフラへのサイバー攻撃があれば、大変な事態になる可能性があるわけです。

2020年に向け、日本でも安全に対する認識について、再確認をするきっかけになるのではないかと思います。

リオ五輪の時にも、日本の施設で国内外のプレスの入退場に顔認証を利用しましたが、この技術の可能性をご理解いただいたのではないかと思います。

一方、個人認証をスムースにしないと、1人1人にあった「おもてなし」が実現できません。「おもてなし」の観点からも、我々の顔認証は非常に役立つと思っています。

――今後NECが注力していく認証分野は何ですか?

認証分野というのは、もう少し広くとらえると相関関係の技術です。たくさんのデータと相関関係があって、その中で関係性が強いものを探し出す。

我々は40年の間、認識技術を扱っているので、ものすごい相関のエンジンをもっています。相関関係をとるエンジンは、ディープラーニングと同じ技術です。

AIの領域に、認識技術の基本である相関関係の技術が入り込んでいるのです。AIは基本的に、クオリティの高いアナリシスとデータがないとできません。

データから情報になって、その情報にアナリシスをかけて知識をつくっていくのが相関関係です。

これがあったらこれが起きるかもしれないという原理を探し出して、将来何が起きるか推定する。その推定に対して対処ができるのが、AIという領域なわけですね。

――オリンピック以降、顔認証の技術はどの方向に進みますか?
 
例えば今コンビニエンスストアは、人手不足だといわれています。店員はなるべく短い時間でお客様の対応ができないか、例えば、商品をレジに置いただけで、商品を認識して代金はいくらですと無人で出来たらどうでしょう。

そういう仕組みは、認識技術があればできるので、今後作られるでしょう。

日本は人口が減っていくので、税収も減っていきますが、国土のインフラは減らないので、減ったお金と人手で守ったりメンテしたりしなければいけない。

我々はいま、手作業でこれまで行っていたインフラの老朽化調査を、認識技術を使って行うことをやっています。

認識技術があれば、将来人口が減っていった時でも対応できるということです。