日本人の4人に1人、3千万人が睡眠障害に悩んでいるという。

睡眠障害は、集中力や記憶力が低下するだけでなく、メンタルにも影響を与える。イギリスのシンクタンクの試算では、日本は睡眠障害によって毎年15兆円、GDPの3%を失っている。

では、睡眠障害を克服し仕事のパフォーマンスを上げる「睡眠技術」とは?様々な企業に睡眠研修を行っているニューロスペースの小林孝徳社長に聞いた!

――前回は、これまで知らなかった様々な睡眠の技術を教えて頂いたのですが、記事を掲載したところ反響がすごかったです。やはり睡眠への関心は高いですね。

小林「ありがとうございます。人間には面白い仕組みがあって、会社で嫌なことがあったりとか失敗したことを記憶する際に、私はダメな人間だとか、また失敗するんじゃないかとか感じたことも一緒に記憶してしまいます。しかし、しっかりと睡眠をとると事実と感情が整理されて、ネガティブな感情が切り離されるんですね。睡眠は人によって個人差があるので、それぞれが最適な睡眠を探すことが大切です」

――今回は、様々な企業で睡眠研修をしている小林さんに、ビジネスパーソンが仕事の効率を上げるための睡眠技術を教えてもらおうと思います。

「はい。睡眠障害によってビジネスのパフォーマンスが著しく落ちることはよく言われていますが、具体的には、遅刻・欠勤・早退による時給換算ベースの経済的損失から、生産効率が下がることによる機会損失、居眠り運転などによる物的損失など挙げられます。ニューロスペースには、こうしたコストやリスクを削減したい企業から問い合わせを頂くほか、シフト勤務が避けられない企業、たとえば外食産業やマスコミなどから、採用の際に『睡眠でブランディングしたい』という問い合わせも頂いています」

――シフト勤務が避けられない企業では、外食産業が代表的ですが、具体的にどのような睡眠研修を行っているのですか?

「吉野家で研修を行っていますが、研修に際して社員の方にお話を伺うと、大きく3つの悩みがありました。1つめは慢性的な睡眠不足。このために布団に入ったら意識を失うように寝てしまう人が多かったです。

2つめは、中途覚醒。シフト勤務であるが故に、家族など同居人と生活パターンがずれてしまい、寝ている途中に物音などで目が覚めてしまう。また、体内リズムがずれているため、起床時間を間違えて起きてしまう。

3つめは、寝ても疲れが取れない。身体が疲れていても寝られないと言う症状。吉野家の河村社長は、アルバイト店員のご出身ですが、やはり現場で働いていた時に同じ症状があったということです」

――吉野家では、こうした問題を具体的にどのように改善しているのですか?

「基本的に働き方やシフトはそのまま変えないで、睡眠の改善策を提示しました。三交代ですと、毎日同じシフトに入っている場合は、リズムが規則的でいいのですが、次の日は別のシフトに入ったりするケースもあります。そうしたときは自宅で人工的に夜と昼を作らなければいけません」

――人工的に夜と昼を作るのですか?

「たとえば寝室に遮光カーテンを使いましょうと。昼間に寝るときは、人工的に夜にします。また夜に起きなければいけないときには、光目覚ましを使うなど、2500ルクス以上(個人差あり)の白色光を浴びると体内時計がリセットして、リズムがスタートしやすくなります。逆に寝るときには白色光はだめで、いい眠りがとれなくなりますので、寝室には暖色系、オレンジの光を使うといいですね」

――なるほど。シフト勤務のビジネスパーソンには、寝室の工夫が必要なのですね。たとえば多忙を極めるIT企業の場合はいかがですか?

「はい。ニューロスペースではDeNAでも研修を行っていますが、IT企業は働き方に特徴があります。プログラマーやシステムエンジニアは、デスクワークが多く、夜遅くまで働き、運動習慣が少ないです。研修の際アンケートを行ったところ、全社員の半分が睡眠に困っているとの結果が出ました。日本人の睡眠障害は25%程度なので、その倍ですね。4カ月間研修を行いましたが、DeNAの方は生活習慣の改善に意欲的で、終わったのちヒヤリングすると睡眠が改善したと答えた方は66%でした。」

――具体的にはどう改善したのですか?

「さきほどの吉野家とは違い、DeNAではデスクワーク中心です。身体を使って仕事をしないため、多くの社員が勤務中に眠気を感じていました。吉野家は逆に、身体を動かすので勤務中は眠気を感じないのですが、勤務が終わるとどっと眠気が出ます。そこでDeNAには、眠気を感じる前に、戦略的に仮眠を取ることを提案しました。誰でも睡眠と覚醒のリズムがあり、しっかり寝ても起床後7~8時間に眠くなります。そこで先手を打って仮眠を取ることで、午後の仕事の効率を上げるのです。こうした方法は、アメリカでは『パワーナップ』と呼ばれています」

――戦略的な仮眠ですか。まさに攻めの睡眠ですね?

「はい。昼寝はさぼりではありません。15分から30分寝るだけで、生産効率が圧倒的に上がります。ただし1時間以上寝てしまうと、寝続ける力が働きますのでダメですね。また、いくら寝ても疲れが取れない、だるいというエンジニアがいました。この方に生活習慣をヒヤリングすると、プログラミングが好きで、ベッドにPC台を設置していました。この方には、習慣を変えてもらい、PCやスマホを操作する場所と寝る場所を分けてもらいました。

さらに、寝る前にスマホやPCを操作する場合は、ナイトシフトモードにするとか、ブルーライトを遮断するメガネをかけると寝つきが大きく変わり、睡眠の質が上がります」

――なるほど。では事務職や営業職など、一般的なビジネスパーソンへの睡眠アドバイスもお願いします。

「ある丸の内の大手企業では、社員の睡眠の悩みの多くが、起きるのがつらい、週末昼まで寝てしまう、寝酒しないと寝られない、といったものでした。典型的なビジネスパーソンの悩みです。生活習慣をヒヤリングすると、特徴的だったのは、仮眠の習慣がない、運動が少ない、寝る前に白色光をあびている社員が多かったです。

そこで、この企業では、(1)勤務中や休日でも、仮眠、昼寝をする、(2)寝る前に照明の明るさを低くする、(3)毎朝決まった時間に、たとえ休日や二日酔いでも起きるようにすることを提案しました。研修後、多くの方から起床が楽になったとの声を頂いています」

――やはり睡眠は技術なのですね?

「はい。眠れないとか規則的な生活ができないというのは、21世紀では当たり前のことです。その中で、睡眠技術を使い身体の負担軽減をする。睡眠技術は日中の生産性、集中力、記憶力を向上させます。トップリーダーは睡眠技術を駆使しています。ぜひ睡眠技術を学んでいただき、世界で戦えるようになってほしいですね。睡眠技術で人生は変わりますし、知っているのと知らないのでは大きな差がつきます。

また睡眠には個人差があるので、経営者は社員の睡眠を尊重して、それぞれのパフォーマンスを高める工夫が必要ですね。ちなみにニューロスペースでは、社員が眠い時にはどうぞ寝てくださいと仮眠を励行しています(笑)」

睡眠シリーズ。次回は、『寝具の選び方』についてお話を伺います。